もう深夜三時になりますけど「……敢助君、もう深夜二時過ぎなんですよ」
「……そうだな」
資料室に二人の声だけが響き渡った。ぺらり、ぺらりと紙を捲る音は止まることがなかった。
「……コンビニに行きませんか」
「お、おう?」
では善は急げです!とファイルをパタン!と勢いよく閉じて先に高明が出て行ってしまった。敢助はどうしたんだ?あいつと言いながら、散らかっていたファイルを少し直して杖を持って立ち上がった。
エレベーター前で待っている高明に近づくと、敢助が来るのを確認してからくだりのボタンを押していた。
「一番近いのはそこのローソンですね」
「そうだな。てかコウメイそんなに腹が減ったのか?」
もちろんこんな遅い時間帯なので、どこの階にも止まらず、すんなりとロビーまでついた。裏口から出て、目的地まで歩き始めた。
平日の深夜のこんな時間に歩いてる人間はほぼいない。たまに車が通り過ぎるぐらいだ。
「もう八月も終わりのはずなのに蒸し暑いですね」
「蝉も狂い鳴いてるしな」
それはそうですね?と会話していればすぐに目的地に着いてしまった。
「いらっしゃいませ〜」
「さあ、選びますよ!」
入り口にあるカゴを持って高明が軽快に進んで行った。
「……?飯買うんじゃ、」
高明が向かった先はデザートコーナーだった。そこに行き着くまでに敢助は栄養ドリンクとコーヒーを持って、しれっとカゴに入れ始めた。
「ショートケーキが食べたかったんですが、ありませんね」
そもそもこんな深夜にデザートが残っているわけない。さらにショートケーキなんて季節的にあるだろうか?数少ない棚に残っている商品を見て呻き声を上げていた。
「敢助君、ロールケーキ半分こしませんか?」
「コウメイひとりで食べてもいいんだぞ」
こっちはからあげクンを買うか悩んでるぐらいだ、とホットスナックの所を見ながら考えていた。
「……ショートケーキ食べたかったんですよ、いちごがのっているやつを」
「昼間にケーキ屋でも行けばいいだろ、ほら会計するぞ」
「私が払いますよ」
なんだかんだカゴの中には敢助の飲み物が多かったため、自分で会計をしようとすると、コウメイに断られた。袋をつけてもらって、二人でまた会話しながら戻り始めた。
「あそこのベンチで食べませんか?星を見ながら」
「ここじゃそんなに見えねぇだろ」
本庁の横にあるベンチに座って、先ほど買ったコーヒーの缶をあけた。高明はハンカチを膝の上に広げて、ロールケーキを開け始めていた。
「一口、食べますか?」
「いや、いい。好きなだけ食えば、」
ふと高明を見ると、何故か人差し指でクリームだけ掬い取って、自分の唇に塗りつけるように乗せた。
ギラリと深い藍色の瞳がこちらを見つめたと思ったら、あーんと小声で言われて、敢助は唇ごと噛み付いた。そして舌でゆっくりとクリームを舐めたっていった。高明は持っていたロールケーキを落としそうになり、慌ててドン!と肩を叩いて体を離した。
「……ちょ、ちよっと、噛めとは頼んでないんですけど」
「はぁ?何がしたいんだよ、そういうことだろ?」
「く、クリームだけ舐めて欲しかったんです!誰かに見られたらどうするんですか!」
誘ったのは高明だろ?と反論しながら、耳まで赤くなってる顔を見て思わず笑ってしまった。
「じゃあなんだ、俺の「敢助君待ってください、今から絶対下ネタ言いますよね?」
高明が驚くほど早口で被せるように話しかけてきた。なんだ、違うのか?まだ何も言ってないだろ、と反論すると、ロールケーキを食べながら怪しすぎますと返ってきた。
きっと碌でもないことを言おうとしてましたよね?とぶつぶつ呟きながらひとくち、またひとくちとクリームが口に運ばれていった。
「……今日仮眠室使ってるやついたか?」
コーヒーを飲み干した敢助が立ち上がりながら言ってきた。
「……?いませんけど?今日は皆さん直帰しているはずです」
突然に話が変わって一瞬理解することができなかった。しかし敢助の下半身にふと目がいき、その会話の意味を徐々に理解した。
「敢助君、下品ですよ」
「まだ何も言ってねぇだろ?それこそコウメイの方が下品だろが」
会話もそこそこにゴミを片付けながら高明も立ち上がった。元きた道を戻りながら、エレベーターのボタンを押した。扉はすぐに開いて、お互い無言で先程きた階のボタンを押した。
「……下品なのは敢助君の方ですからね」
「あ″?」
高明はその後無言になり、エレベーターの数字の部分を凝視していた。先程と同じでどこの階に止まることなく目的の階まですぐについた。
フロアに降り立って、先程とは別の廊下を二人で歩き始めた。ある扉の前で高明が立ち止まると声をかけた。
「おい、コウメイ」
「なんですか」
「まだ唇にクリーム残ってるぞ」
ガチャと扉を開けながら、靴がないことを確認する。敢助は高明を仮眠室に押し込むように入室させて、勢いよく押し倒した。カチっと鍵をかけたのを確認して、指のはらで少し残っていたクリームを拭き取った。
「せめてベッドの上がいいんですけど」
「こういうのも好きだろ?あ、おい、こら」
高明は起き上がって首に手を回し、先程やられたようにがぶりと噛み付くように唇にキスをしてきた。
おわり