1週間後、スミスに赤いバラの花束を渡すイサミの話 ブレイフラワーには、毎週金曜日に花を買いに来る常連客がいる。とても気さくな男で、黙々と花束を用意するイサミによく話しかけてきた。その隣にはいつも、ちいさな女の子がいる。
同世代に見えるが、娘がいるんだよな。二人が店を訪れるたびにイサミはそんなことを考えていたが、もちろん口には出さない。「いらっしゃいませ」とだけ言うと、いつものようにオススメの花を見繕い、ちいさな花束を作る。そして会計を済ませて「ありがとうございました」。必要最低限のやりとりを交わすのみだ。イサミと男とは、あくまで店員と客という間柄だった。……今日の出来事が起こるまでは。
きっかけは突然やってきた。いつものように花束を作るイサミの背後で、「ルル!」という厳しい声がした。振り返ると、棚に置かれた胡蝶蘭の鉢が、今まさに女の子の頭上に落ちようとしているところだ。
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