海の雪 泳いで泳いで、いつも間にか深い深い場所まで来ていた。しくじった。と思ったが、今の俺には問題ない。海面からの光も届かない。真っ暗けっけ。
だけど、なんでか周りが見えるのは、あの人の言う『わだつみ』に成ったからだろうか?まぁ、いいや。寄る辺がなくても、ここではふらふらしていても何にもしなくても咎められない。居てもなにも言われない。後ろ指を指すヤツもいない。そもそも指なんてどいつも持ってないけど。良いところだ、ここは。
目を閉じて、流れに身を任せてみる。
名前を呼ばれるのが聞こえる。変わらないうるせぇ声。うるせぇから放っておこう。
「ばーん。こんなとこまで降りてきてたのか」
俺を包む水の流れが変わる。それであの人が隣に立っているのだと分かる。
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