ねこだまし ことの発端は、昨日咲希に見せられた猫の動画に違いない。
高いところから下りられないとわかるとすぐに飼い主を呼びつける様子、おやつの場所を突き止めて床一面に袋をばらまく様子、キーボードの上で歩き回って意味不明な文字の羅列を作った後に眠り始める様子。
SNSで何万回とシェアされているらしいそれらを見ている間、オレは今隣に座っている、すみれ色の猫耳と尻尾を生やした男を思い浮かべてしまったのだ。
「毎度のことながら、司くんも飽きないねえ」
「うっ……さすがに怒らせてしまったか……?」
「怒っていないし、別に構わないさ。なんだかんだ興味深い体験だしね」
その男は——まあ類のことなんだが、頭にぴょこんと付いている三角の耳をつまんで摩りながらそう話す。声のトーンは呆れ三割、楽しさ七割といったところで、本当に機嫌を損ねているわけではないようだった。
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