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    一色あさぎ

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    一色あさぎ

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    猫の日(遅刻)の司類🌟🎈
    セカイで猫耳と尻尾が生えた類と、その原因の司のちょっとしたわちゃわちゃのお話

    #司類
    TsukasaRui

    ねこだまし ことの発端は、昨日咲希に見せられた猫の動画に違いない。
     高いところから下りられないとわかるとすぐに飼い主を呼びつける様子、おやつの場所を突き止めて床一面に袋をばらまく様子、キーボードの上で歩き回って意味不明な文字の羅列を作った後に眠り始める様子。
     SNSで何万回とシェアされているらしいそれらを見ている間、オレは今隣に座っている、すみれ色の猫耳と尻尾を生やした男を思い浮かべてしまったのだ。
     「毎度のことながら、司くんも飽きないねえ」
     「うっ……さすがに怒らせてしまったか……?」
     「怒っていないし、別に構わないさ。なんだかんだ興味深い体験だしね」
     その男は——まあ類のことなんだが、頭にぴょこんと付いている三角の耳をつまんで摩りながらそう話す。声のトーンは呆れ三割、楽しさ七割といったところで、本当に機嫌を損ねているわけではないようだった。
     『毎度のことながら』と言われたが、現にオレはこれまでに何度もセカイで類を猫にしてしまっている。今のように耳と尻尾を生やすだけの時もあれば、そっくりそのまま本物の猫にすることもあった。そのたびに頭を抱え、なんとも情けない姿を晒すことになってしまっていたのだが、こればかりは止められない。どうしようもないのだ。一度類を猫みたいだと感じて以来、猫を見るだけでセカイに影響を及ぼすほどに強く類を連想してしまうなど、オレでさえも想像していなかったのだから。
     「まあ驚きはするけど、都合が悪いことは一つしかないんだよ」
     語尾を跳ねさせて類がそう続ける。ふわふわの尻尾が愉快そうにくねりながら、腰掛けているカラフルなベンチの上を滑っていった。
     「むしろ一つだけなのか。ちなみになんだ?」
     「少し何かをするだけですぐ眠くなってしまうことさ。今は平気だけどね」
     「……お前の生活を考えると、それは悪くないと思えてしまうな……」
     じとりと類を見上げれば、えぇー、などと不満そうな声が返ってくる。「この前に猫になった時は、ルカさんに話を聞いてもらっている途中でうとうとしてしまったんだよ」だの、「その後は芝生の上で二人でお昼寝したんだ」だのと話されたが、満喫しているじゃないか、という感想しか浮かばなかった。
     意識的にやってはいないとはいえ原因を作ったのは自分だから、声に出すのは堪えたのだが。
     「ちなみに、良いことは何個もあるよ。いくらか身軽になるし、音がより鮮明に聞こえる。それに——」
     類がわざとらしく言葉を溜めて、すんと鼻を鳴らして近づいてくる。そして、
     「司くんの匂いがよくわかる」
     とんでもないことをさらりと言ってのけたではないか。
     「……!」
     ばっと反射で飛び退くと、類が悲しげに眉を下げた。視線を落とせば、元気だった尻尾も力なく垂れている。本人はおそらく自覚していないのだろう。
     嫌だったかい、と訊かれ、嫌ではないんだが、としどろもどろになるほかなかった。
     嫌ではない。ただ、少しばかり刺激が強かっただけであって。
     「なら、遠ざかる理由がないじゃないか。司くんは匂いにも気を遣っているだろう?」
     「それはそうだが、お前の嗅覚が猫並みになっているなら話が違う! 人間ではわからない微かな匂いも——あ、汗臭くはないよな!?」
     「さて、どうだったかな。確認するためにはもっと近づきたいところだけれど……」
     そう言いつつも、既に身を乗り出している類に対して両手を軽く前に出す。
     「類、待て」
     「うん」
     類が素直に止まったのにひと息つくと、まだかい、と言いたげな目が両手越しに覗いていた。まるで、ご飯の皿を前にお預けを食らったかのような。
     こういう時はどうするべきだったか。確か——
     「……お手?」
     「え? こうかな」
     オレが右手を出すと、類が首を傾げながら左手を乗せる。
     「あとはなんだ、おかわり?」
     「はい」
     「……よし」
     「フフ、うん。ちなみにそれ、犬に対してすることだね。今の僕は猫だよ」
     司くんに従ったのは、単なる気まぐれさ。そう言って、待ってましたとばかりに類が頭からオレの胸に飛び込んで、ぐりぐりと擦り付けてくる。
     「どうだ、類。臭くないか?」
     「司くんの匂いがするね」
     「だからそれはどういう匂いなんだ!?」
     「司くんの匂いは司くんの匂いだよ」
     いや、まったくわからん。オレは頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、類の表情を見るに、こいつにとって心地良い匂いではあるのだろう。汗臭いなどスターとしてあるまじきことだ、そういうことならまあいい。
     「なあ、猫が頭を擦り付けるのに理由はあるのか?」
     押し付けられたせいでぼさぼさになった髪を手櫛で梳かしてやりながら、ふと尋ねてみる。と言っても、実はその答えをオレは知っていた。
     咲希と昨日一緒に調べた結果、愛情表現だとかマーキングだとか、とにかく好意的な行動だということがわかったのだ。
     つまり今類は、オレに好きだと伝えている。あの類が、中々自分から伝えようとしない類が、好きだと態度で示している。内心舞い上がって仕方がなかった。
     「……さあ。痒いからじゃないかな」
     「そうなのか? だが、お前は別に痒そうにしていなかっただろう。そもそも人間の手があるんだから、猫より自由に掻けるじゃないか」
     「それはそうだ」
     それきり何か説明することなく、取り繕うこともなく、類は無言になってしまった。
     オレはというと、「なんて適当なんだ」と思うのと同時に、「嘘つけ」と笑みを隠せないでいた。だってそうだろう、動物のことに明るいこいつが、この猫の行動の理由をわからないはずがない。
     それに、極めつけはこれだ。
     
     「それなら、猫が尻尾を腕に絡めてくる理由はわかるか?」
     
     「え? ——あ」
     類が自分の尻尾の先を見て目を丸くする。完全に無意識だった、という顔だ。そう、類の尻尾は、頭から胸に飛び込んだ時からずっとオレの左腕に絡まっていた。
     「……さあね」
     目線が宙を彷徨って、する、と尻尾が解かれる。
     もちろんオレは知っている、猫が尻尾を絡めるのも愛情表現の一つで、相手に甘えているのだということを。そして、類も当然このことを知っている。隠し切れていない染まった頬がそれを物語っていた。
     「ねえ、司くん。本当は知っているんだろう。猫が頭を擦る理由も、こうして尻尾を絡める意味も」
     「えっ」
     類は案外わかりやすいヤツだが、オレも大概そうらしい。
     突然切り込まれたことで、得意げにこなした何も知らない役がいとも簡単に剥がれ落ちてしまっていた。
     「い、いやっ……知らん! 知らんからお前に訊いているんだ!」
     「ふーん、しかし君は本当に演技力が向上したね。うっかり騙されてしまったよ、最初だけだけどね」
     ぱし、ぱし。尻尾でベンチを叩いて、心底恨めしそうにオレを睨みつける類だが、照れ隠しが透けて見えてどうにも威圧感が薄かった。
     愛しさに口元が緩みかけて、慌てて手で押さえる。
     「ねえ、司くん」
     「な、なんだ」
     「猫になって都合が悪いこと、一つ増えたよ」
     オレは、なんだ、ともう一度繰り返しながら類の表情を窺った。
     類はばつが悪そうに斜め下を向いて、言いかけてやめてを繰り返す。やがて観念したように、小さな小さな声でぽつりと零した。
     
     「君への想いが、全部筒抜けになること」
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    たまぞう

    DONE先にポイピクに載せます。
    日曜になったら支部に載せます。
    将参のお話。この間のとはセカイは別になります。
    ちょっと痛いシーンがありますがそこまで酷くないです。
    寧々ちゃんが森の民として出ますが友情出演です。
    最初と最後に出ます。
    何でもいい人向けです。
    将校は参謀と同じ痛みを感じて(物理的)生きたいというよく分からないお話ですね。
    誤字脱字は見逃してください。それではどうぞ。
    将参(友情出演寧々)「ねぇ、その首の傷痕どうしたの?」
    「っ、っっ!?」

    仕事の休憩中に紅茶を飲んでいた時のこと。
    正面の窓から現れた少女に私は驚き、口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになった。

    「っ、ごほ…っ、げほっ、ぅ………。来ていたのですか…?」
    「うん。将校に用事があって……というか呼ばれて」
    「将校殿に?」

    森の民である緑髪の少女ーーー寧々は眉を顰めながら、私の首をじっと見つめている。そこには何かに噛み千切られたような痕があった。

    あの日のことを話そうか、少し迷っている自分がいて。
    どうしようかと目線を泳がせていると、寧々が強い力で机を叩く。

    「ほら!話して!」
    「………わっ…!わかり、ました」








    あまりの気迫に押された私はぽつりと語り始めた。
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