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    itokiri

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    itokiri

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    ゴスマリ後に喧嘩するアズと監。怒ってる理由が他の人にプロポーズしたからと思っていたが、実はそうではなく……な話
    名前なし女子監

    ##アズ監

    結婚してください 傾いた夕日が窓の木枠を黒板に投射していた。それがまるで十字を逆さまにしたようで、この不穏な空気により悪い気を運ぶのではないかと不安に駆られてしまう。
    「人が話しているのによそ見とは……あなたの耳も目も飾りなんでしょうか」
    「飾りなんかじゃありません。ちゃんと聞いてました。先輩の言い訳」
    「言い訳。ああそう。そういう態度を取りますか。へぇ……随分とまあ偉くなりましたね」
    「謝る人の態度じゃないんですよ」
    「なぜ僕が? あれはフリでしょう。全く理解に苦しみますよ」
     明らかな苛立ちと煩わしいという素振り。僕の時間は安くないんだぞとでも言いたげに、彼、アズール先輩は腕時計を確認して「埒が空きませんね」と息を吐き出して「謝ればいいんですか?」と譲歩を申し出る。私がそれを承認などするはずがないのを、どうしてわからないのか。普段は人の繊細な心を見透かして商売をするような小賢しさを持っているくせに。
     唇を噛み締めて、泣いてはいけないと眉を寄せる。悔しい。悲しい。そんな感情を飛び越えて腹立たしかった。
     私だって、昨晩のゴーストの花嫁へのプロポーズが本心だなんて思ってなどいない。それどころかあれをプロポーズだなんて彼女として到底認めることはできない。それくらい酷かった。そこじゃない。
     私はそんな小さなことで怒ったりなんてしない。
    「僕があなた以外に愛の言葉を贈るわけないじゃないですか」
    「猫撫で声で宥めないでください! もう! 全然わかってない! ホントムカつく! バッカじゃないの?!」
    「バ……バカではないと思いますが?」
     作戦変更とばかりに甘い声と優しい触れ方で「よしよし」と子供をあやすような手法にでた。そうやって宥めていい包めてしまおうっていうずる賢い手だ。大っ嫌い。
    「心配したんです」
    「……は?」
    「イデア先輩にはホントに申し訳ないって思いますけど、アズール先輩が見初められてしまったらどうしようって、もしキスされて冥婚してしまったらって、私……」
     ついに耐えられなくなって泣いてしまった。彼は私が強かでいるのを好むから、弱さを見せたらいけないと気丈に振る舞っていたかったのに、もしもを考えたら怖くて不安で、体がカタカタと震え始めてしまった。
    「…………結婚しましょう」
    「……え」
    「結婚してください」
    「えっ、え?」
     アズール先輩は私の前で膝をつき、これまでで一番男らしく真剣な顔でまっすぐ私の目を見つめ上げた。左手をとると、まるで御伽噺の王子様のような自然な所作で手の甲にキスをして「僕と結婚してください」と祈るように私の手に額を押し当てる。
     どうして突然そんな、と状況についていけなくなって、ぼろぼろと流れるいろいろな意味を孕んでしまった涙を右手で拭いながら、嗚咽まみれに「なんで」とどうにか問いかける。
    「守りたいと、そばにいたいと、強く思いました。あなたが泣くのが僕だけの前であるように、そしてそれが幸福なもので溢れるように……ああ神の御前で誓いたければそうします。あなたの望む形式で、どんな場所で式を挙げたって構いません。なんだって叶えましょう。だから僕と結婚してください」
    「先輩、展開が……」
    「あなたの答えは一つでしょう? さあ、答えて? さあ!」
    「えっ、あ……結婚、ですよ? そんな」
     ぐるぐると回る思考。確かに答えなんて決まってる。でも、今? 私まだ学生、というか先輩もそうだし、何より私は異世界人で、先輩は人魚で……ああもう……なんで昨日は回りくどいやり口でプロポーズしてたのに、本番は「結婚してください」ゴリ押し一択なの?!
    「不束者ですが、私でよければお受けします」
    「……や」
    「や?」
    「やった!……っと、すみません嬉しくてつい……。キスしても?」
    「……いいですよ」

     逆十字は悪魔崇拝と謙遜と全く違う意味を持ち合わせている。けれどそんなのどうでも良いことだ。
     風に煽られてレースのカーテンが十字の影も二つの影も覆い隠す。誓いも祈りも、神になど願わない。契る術は互いだけでで十分だ。
     でも……
     
    「正装した先輩の隣でウェディングドレスは着たいなぁ」
    「……奇遇ですね。僕もあなたのドレス姿が見てみたい」
     鼻先にキスがひとつ降り注ぐ。甘やかな声には、先ほどのような小賢しい打算は感じなかった。
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    kazeaki_twst

    MAIKINGアズ監🌸「戻れない日々の続きを歩いて行く」
    前作の「星が降る夜に」の続き。
    その日は、本当にいつもと変わらなかった。
    四年生になり、いつもと同じように研修先からグリムと帰宅し
    「グリムーっ!ちゃんと外から帰ったんだから、手を洗いなよーっ!」
    なんて言いながら、自分の部屋で制服を脱いでいた。外は、すっかり暗くなり秋らしく鈴虫か何かの虫が鳴いている。
     そして、ふと鏡に目をやると首元のネックレスが光った。そこには、恋人が学生時代に使用していた魔法石───を再錬成して作った少し小ぶりの魔法石がついていた。監督生の頬が思わず緩む。
     これをプレゼントされたのは、ほんの数日前のことだ。

    「監督生さん、これをどうぞ」
    いきなり差し出された小さな箱を見て、監督生は首を傾げた。目の前は、明らかにプレゼントとわかるラッピングに、少し緊張した表情のアズールがいた。
     監督生は、何か記念日であっただろうかと記憶を辿り───思い当たる事もなく、思い出せない事に内心焦った。当然、自分は何も準備していない。
     しかし、このまま何も言わずプレゼントに手をつけなければ、きっとアズールは傷つく。いつも余裕綽々とした態度で、若年だと侮られながらも学生起業家として大人たちと渡り合う深海の商人── 2244

    kazeaki_twst

    MAIKINGアズ監🌸「戻れない日々の続きを歩いて行く」②その日、アズールは大学の講義を受けていた。そして、その後には、同じ大学だが他の学部に進学したジェイドとフロイドと合流し、モストロ・ラウンジに向かう予定にしていた。いつもと同じ大学の講義、教授の声。
     その中に、不意に
    ───『ア…ズール…せんぱ…』
    柔らかな、女性の声がアズールの脳裏に響いた。それはよく知った、大切な人の声。
     その瞬間、弾かれたようにアズールは立ち上がた。どくどくと変に心臓が高鳴り、オーバーブロットした時のように黒い墨がぽたぽたと胸の内に垂れ、酷く不安を煽る。
    (監督生…さん?)
     喉がカラカラに乾いて、息が上手く出来ない。初めて陸に上がった時とよく似た枯渇感が襲う。
    「アーシェングロット?何か質問か?」
    怪訝そうな教授の声が耳に届く。そこで、初めてアズールは自分が急に席を立ち、授業を中断してしまったことに気がついた。今まで何も聞こえなかった教室のざわめきが周りに戻ってくる。
    「あ、いえ…急に立ち上がってすみません。教授ここについて…」
    動揺を隠すように、アズールはにこりと笑い、予習していた内容を質問した。しかし、机の上に広げていたルーズリーフは強く握り込まれ、皺が寄 3041