願いの在処2 おかしい。こんなのおかしい。そう彼の顔が語っていた。
戸惑っているのに、理性より本能が主導権を握っているのだろうか。という具合なのだろうけれど、実際はそうではない。
きっとこれはあの薬のせいなのだ。
望みを叶えるために、なにかを代償にして得たもの。
彼はなにも悪くはない。浅ましい女の欲にハメられたにすぎないのだ。
人工的な暖色の灯りが、滑らかな白い肌を柔らかく温かみを持たせる。
触れればひんやりとしていて、ニンゲンではないのだとわかるのに。
抗えないものに拒絶をし続けても苦しいだけだ。迷いを打ち払うなにかがいるのだろう。
「先輩、私、アズール先輩にならなにをされたって構わないんです」
お手本のようなセリフだ。こんな言葉を人生で言うことがあるだなんて思いもしなかった。
「そういう言葉はあまり使わない方がいいですよ」
「でも本当に……」
「もう黙って、なにも言わないでください」
これから僕は間違いを犯すのだと、そういう表情だった。
優しく額に唇が触れた。そこから頬や首筋と少しずつ下へ、そして甘く痺れるように。
「あなた初めてですか?」
「それって今重要なんですか?」
「当たり前でしょう。……丁寧にしないと、傷つけてしまうでしょう……」
口籠る姿は割と年相応なんだなと、呑気に考えていたけれど、逆に彼はどうなのだろうかと気になってしまった。
けれどそれを聞くのはなんだか違うような気もするし、知りたくないような気もした。
「初めてだというつもりで接してください」
だから私は曖昧にした。
彼はしばらく黙った後「わかりました」と呟いた。