恋の病最近コワルスキーを見ていると胸がムカムカしてくる。
コワルスキーの言動に腹が立っているわけではないのだが、奴の笑顔や真剣な顔、声を聞くだけでも胸がムカムカしてくる。
何か変な病気だろうか…
と、マリーンに相談をしたところ
「それ、恋でしょ」
弾んだ声で言われた。
当然信じられなくて「はぁ?」と間抜けな声が出てしまう。
「だって、コワルスキーのこと見るだけで胸がときめくんでしょ?」
「ときめくなんて言っていないだろう」
「ああうん…ムカムカ、ね」
「そうだ。だがこの症状が恋なわけないだろう」
一応恋は経験したことあるが、こんな症状になったことは無い。恋はもっと心が、それこそ胸が弾むような気持ちになるはずだ。
世間知らずのお嬢さんに相談したことが間違いだったかと腰を上げようとすると、翼を引かれ尻が再びコンクリートに触れた。
「コワルスキーのこと好き?」
「は?あー…まぁ大切な部下だしな」
「違うわよ、部下としてじゃなくて1人のペンギンとして!」
「…好きだが?部下である前に家族だからな」
彼女の求めている答えが分からず小首を傾げれば、マリーンは溜息をつき首を振った。
「あーもうこれじゃ一向に進まないわ。ちょっと今日一日コワルスキーのこと意識して過ごしてみてよ、隊長」
「意識?」
「んー、一日中コワルスキーを見ておくだけでいいから。ムカムカしても見続けるの。そしたらなにか分かるかもしれないわっ」
可愛らしくウインクをしてみせたお嬢さんが何故そんなに自信満々なのかさっぱり分からないが、幸い今日は任務がある日でも無いため渋々頷き、私はカワウソ居住区を後にした。
─…
基地に戻ると誰もおらず、とりあえず目的の人物の名前を呼べば、返事と共にラボの扉の隙間からゴーグルを上げたコワルスキーが顔を覗かせた。マリーンと話をしたせいか、それだけで一瞬心臓がはねた気がする。
「ああ、リコと新人は?」
「ええと…ロジャーのところに遊びに行っていますよ」
「そうか」
「では私は発明品の開発があるので…」
「コワルスキー、」
「はい?」
ラボに戻ろうとしたコワルスキーを呼べば再びすぐ顔を出した。
反応の速さに思わず口角が上がりそうになるのをポーカーフェイスで誤魔化す。
「発明品の開発、見ていてもいいか?」
「えっ?あ、良い…ですけど、まだ完成は遠いですよ?」
「それでもいい。今日は見ていたい気分だ」
普段こんな事を言わないお陰か、コワルスキーは目を丸くした後嬉しそうな表情を浮かべラボの扉を開けた。ここまで表情に出る奴だったか。
「かわいいな」
「へ?」
「ん?」
「え、いや今何か言いませんでした?隊長」
「………、……言ってないぞ」
「?そうですか」
まさか口に出ていたなんて。というより私は何を言った?何を思った?「かわいい」?いや、かわいいなんて新人や、ましてやリコにも思う感情だしよく言うことだ。別に変なことではない。だがコワルスキーに言う事に何故か抵抗のようなものを感じた。何故だ?
答えの出ない考えを脳内に巡らせつつ、ポーカーフェイスを貫き通しラボの中に入った。
「少し散らかってるんですけど、ご自由にどうぞ。あ、機械や薬には触らないでいただけると…」
確かにコワルスキーの言う通り、床に設計図のような紙や機械のパーツなどが転がっている。下手なことをしてこの科学オタクを怒らせると面倒なため、開発の邪魔にならないよう近くにあった簡易ベッドに腰掛けることにした。
作業台の横に配置されているため、コワルスキーの横顔がよく見える。
「私のことは気にするなよ。お前のやることに口出したりはしない」
そう伝えると、コワルスキーは返事をした後ゴーグルを装着して機械いじりを始めた。