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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
    ご質問やお題等ございましたらこちらへどうぞ~
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    はなねこ

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    美茶謎展示のSSです。眉美ちゃんが湖滝ちゃんから聞いたとあるワードについて探偵団のメンバーが侃々諤々するという内容です。わけあって長広は不在。少しシモいというか下世話なネタを扱っています。いたってマジメです。カプ要素はほぼありませんが、婚約者が婚約者しています。

    饅頭どうか? 本日先輩くんは、風邪をひいたとかで美少年探偵団の会合を欠席している(ロリコンでも風邪をひくのね)。まあ、昨日から発熱のため学校自体をお休みしているわけだから、団の会合を欠席も何もないのだけれど。
     つい先ほど、先輩くんのラブリーな婚約者――これから先輩くんのお家へお見舞いに行くらしい――湖滝ちゃんからちょっとした問い合わせの電話を受けていたわたしは、ふと思い立ったことがあり、美少年達に問いかけた。
    「ねえ、誰か、〈けまんじゅう〉って聞いたことある?」
     聞き慣れない単語だったのだろう、居並ぶ美少年達は一様にぽかんとした。
    「け……何だって?」
    「けまんじゅう」
    「けまんじゅう……けまんじゅう……」指の先を頬に押し当てて、生足くんが首を傾げる。「うーん、知らないなー」
    「僕も初めて耳にしたよ。何ともふしぎな響きではないか」と、興味深げに目をまたたかせたのはリーダーだ。
    「察するに眉美くんは、湖滝くんから〈けまんじゅう〉という言葉を聞いたのかね?」
    「ええ、そうよ。さっきの電話で聞いたの。でも、湖滝ちゃんも何のことなのかよく知らないみたいなのよ。辞書にも載ってなかったって言ってたし」
    「ふむ。ちなみに湖滝くんは、どこでその〈けまんじゅう〉とやらを知ったのだろう?」
    「ええっと、湖滝ちゃんはお家のばあやさんから聞いたと言ってたわ。確か――
    『長広様も〈けまんじゅう〉を召し上がれば、お風邪なんてたちどころに治るはずですよ』
    『あらあら、うっかり口を滑らせてしまいました。湖滝お嬢様にはまだお早うございましたね。後生ですので今申したことはどうぞご放念ください』
     ――だったかな?」
    「今のはひょっとして、ばあやさんの声帯模写をした婚約者ちゃんの声帯模写……?」
    「クオリティが乗算で劣化してるな」
     美脚と美食が、プリンだと言われて食べてみたら実は卵豆腐でした……というイタズラを仕掛けられたみたいに、そろって顔をしかめる。
    「たたみかけないで! わたしの専門は声の分野じゃないんだから、これくらい聞き逃して! 話を戻すわよ。〈まんじゅう〉というからには食の分野だと思うのだけど、不良くんは〈けまんじゅう〉について何か知ってる?」
    「いいや、俺も初耳だ」と、不良くんは首を横に振った。
    「ええっ? 美食なのに? 食のエキスパートなのに? わあお、意外だわ!」
    「わざとらしくディスるな。何でもかんでも知ってるわけじゃねえよ、知ってることしか知らねえよ」
     どこかで聞いたことある台詞なのは気のせいかしら。
    「ナガヒロがいたら、すぐに答えが出たかもしれないねー」と、生足くん。先輩くんの博学ぶりを後輩として尊敬しているのかしら、めずらしいこともあるものだと思ったら、「ナガヒロはひとが知らないような細かいところ――例えば、その日毎の婚約者ちゃんの身長体重体脂肪率まで把握してるっぽいし」
     うーん、例えのチョイス的に尊敬しているというわけでもなさそうだ。あと、例えが事実だとしたら通報案件かもしれないわね。
    「いやいやヒョータ。すぐに答えを出してしまうのも、それはそれで味気ないかもしれないぞ」
     リーダーがえっへんと胸を張る。おそらくリーダーに他意はないのだろうけれど、味気ないとかきっと先輩くん泣いちゃうからやめてさしあげて!
    「せっかくの機会だ。件の〈けまんじゅう〉とはいったい何なのか、我々で推理してみようではないか!」

    **

    〈けまんじゅう〉とはいったい何なのか――。
     謎を解くヒントとしては、まず第一に、病気の時に食べるものである、ということ。そして第二に、小さな子どもが食べるには支障がある(食べられるかもしれないが、少なくともまだ六歳の湖滝ちゃんは、食べるのに相応しい年齢に達していない)、ということ。
     不良くんが淹れ直してくれた紅茶を前に、トップバッターとして言い出しっぺのわたしが口火を切った。
    「ばあやさんも〈食べたら〉って言ってたそうだから、〈まんじゅう〉イコール食品の饅頭なのは間違いないと思うの。問題は〈け〉の方よね。わたしが思うに、〈けまんじゅう〉とは、焼きごてか何かで〈け〉という焼印を入れたお饅頭のことなんじゃないかしら」
    「ふむ。とすると、お饅頭に〈け〉の焼印を入れる理由は何かね?」
    「いい質問ね。おそらく〈病気〉の〈気〉を〈け〉と読ませているのよ。〈けまんじゅう〉はばあやさんの出身地の郷土料理か何かで、食べると悪い気を払うお饅頭なの。キャッチコピーは『気合いたっぷり! けまんじゅうを食べて、ぼくもわたしも病気をふっとばせ!』みたいな?」
    「根性論に傾きすぎてる気がしないでもないけれど、眉美ちゃんにしてはわりとマトモな推理だよね。焼印の文字から呼び名がついたってのは郷土料理の由来にいかにもありそうだし。でもさ、それなら〈け〉と読ませないで〈き〉と読ませるのが自然じゃない?」
    「〈きまんじゅう〉でもいいのにわざわざ〈け〉と読ませてるってことは、それ相応の理由や意図があるんだろうが、今の眉美の話だと、あの悪魔にはまだ早いってのも含めて説明しきれてねえな」
    「そ、それは……。そうだ! きっとすっごく苦いのよ! ちっちゃい子は苦いの苦手でしょ?」
    「饅頭なのに苦いとか詐欺だろ。何が入ってんだよ。あと、病気の時は饅頭じゃなくて、体力の消耗を補えるように滋養のあるものを食べろ。おすすめは具材の栄養がたっぷり溶け込んだ鍋やシチューや味噌汁だ」
     あったかいお味噌汁……、お腹が空いてきた。そして、わたしの意見は、美脚と美食の両名からケチをつけられてしまった。
    「悪くないと思ったのになあ……。そういえば、〈け〉について補足だけど、湖滝ちゃんは『ハレとケのケじゃねえか』って言ってたわ。ケがコカツするとケガレになるとか、文化人類学が何とかかんとか。聞いててちんぷんかんぷんだった。ちなみにハレとケってどんな字を書くの?」
     天才児くんがスタイラスペンで手持ちのタブレットにさらさらと字を書く。見せてくれたのは――晴と褻。
    「ハレはともかくケは生まれて初めて見る字だわ。読めないし書けない……。そして、年下の男の子にA組の素養をひけらかされたわ……」
    「おまえが訊いたから答えただけで、ソーサクは別にひけらかしたわけじゃねえよ。単におまえが物事を知らなすぎるってだけだろ」
    「じゃあ、不良くんは書けるっていうの? こちとら、ハレとケを知らなくても読めなくても書けなくても、十四年間特に困らずに生きてこられたわよ」
    「知ってるし読めるし書ける。ざっくり言うと、ハレは非日常でケは日常のことだ。何ならおまえの顔に油性ペンで『褻』って書いてやろうか? 忘れねえように」
     目が本気だ。ノーサンキューだ。
    「まあ、眉美が指摘した通り〈け〉を饅頭の焼印だって仮定すると、病気の気よりも褻枯れの褻の方が、読み方でも枯渇したエネルギーを取り戻すって意味でも信憑性がある気がするな。焼きごてを作るにしても、〈褻〉よりも平仮名の〈け〉の方が断然楽だろうし」
     あらあら、ケチをつけられたと思ったら、不良くんがわたしと湖滝ちゃんの意見をハイブリッドしてまとめてくれたわ(途中、何を言ってるのかちょっと分からないところもあったけど)。
     ソファの上でころんと身体を反転させて、生足くんが猫みたいに伸びをする。
    「前提条件を覆すみたいで悪いけどさ、実はお饅頭は関係ないってことはないかなー」
    「どういうことかね?」
    「そうだねー。例えば〈ケマン・ジュウ〉さんって人名なのかもしれないよ」
    「人の名前か。なるほど、前衛的な意見ね」
    「おいおい、食べるって前提なんだろ。勝手に人間にしてんじゃねえよ。何が前衛的だ、とんだカニバリズムだぜ」
    「カニ? カニすき? 今夜はカニすきなの?」
     わたしを無視する不良くんの隣で、天才児くんがタブレットにスタイラスペンをさらさら走らせる。まずはリーダーにタブレットを見せる。
    「ほほう。ソーサクが、想像で〈けまんじゅう〉を描いてみた、とのことだ。見たまえ!」
     リーダーのひと声で、まるで黄門様の横で悪党共に印籠を突きつける助さん格さんよろしくタブレットをででんとかざして、天才児くんがわたし達に見せたのは――ウニのモンスター? はたまた毛むくじゃらのダークマター?
    「なかなか斬新なデザインではないか! 僕には思いつきもしないね!」
     リーダーはすこぶる楽しそうだ。
     タブレットに描かれた〈けまんじゅう(仮)〉は、確かに形はお饅頭のように丸くはあるけれど、少なくとも食べものには見えない。食べたら確実に呪われそうな物体だ。病気が治るから食えと言われても、子どもは泣くんじゃないかしら(小さな子どものみならず大人でも食べるのに支障が出るレベルだわ)。
    「このトゲトゲというかウネウネというか、お饅頭を覆っているモニョモニョした黒いものは何なの?」
    「ソーサクによると、〈け〉は〈気〉でも〈褻〉でもなく〈毛〉をイメージしてみたそうだ」
    「毛!」
     確かに、〈け〉と言われて、いの一番に頭に浮かぶのは漢字の〈毛〉だろう。ただ、お饅頭(というか、食品全般)からはほど遠いイメージだったので無意識に除外していた。真逆のものを組み合わせるなんて、さすが芸術家はやることが違うわ。
     天才児くん作画の〈けまんじゅう(仮)〉を凝視していた不良くんが「これなら絞り袋で何とかなりそうだな……」とつぶやいて、ちょっぴり急ぎ足で厨房へ去っていった。何かを思いついたらしい。
    「そういえば、まだリーダーの推理を聞いてなかったわ」と、わたしはリーダーに向き直った。「聞かせてくれる?」
    「もちろんだとも! 僕が思うに、〈け〉はアルファベットの〈K〉だ」
    「アルファベット? って、あのABCのアルファベット?」
    「そう! そのアルファベットだ!」
     アルファベットとは意表を突かれた。思いつきもしなかった。
     ふふっと美しく笑ってリーダーが言葉を続ける。
    「想像してみたまえ。もしも湖滝くんが、風邪で寝込んでいるナガヒロのためにお饅頭を手作りしたとしたらどうだ? 頭文字が〈K〉である湖滝くんが作ったお饅頭だから、そのお饅頭は〈K饅頭〉と呼んでも差し支えないのではないだろうか」
     KODAKIちゃんのK!
    「けーまんじゅう……けーまんじゅう……けまんじゅう……。そうか、ばあやさんは〈K饅頭〉と言ったのに、それを湖滝ちゃんが〈けまんじゅう〉と聞き間違えた可能性があるってことね」
    「そういうことだ」
     なるほどねーと生足くんもうなずく。リーダーの推理を引き継ぐように、
    「それなら、婚約者ちゃんにはまだ早いってばあやさんが言ってたのにも説明がつくよね。お饅頭の作り方なんて、ボクはちっとも知らないけどさー、きっと工程がいろいろ複雑で、小学一年生がひとりで作るのはまだ早いってことなんじゃないかな。シンプルだけど、リーダーのが一番もっともらしい推理じゃない?」
    「湖滝ちゃんが食べるにはまだ早いじゃなくて、湖滝ちゃんが用意するにはまだ早いってわけね」
     そうこうしている内に三十分ほどが経過し、厨房から不良くんがワゴンを押し押し戻ってきた。
    「作ってみたぜ」と、不良くんが運んできたのは、丸めたこしあんの上から、マロンペーストと生クリームを混ぜて作ったマロンクリームを絞り袋で渦巻く毛のように絞った――天才児くんが描いたイメージ画よりも五百倍ほどマイルドな――〈けまんじゅう(仮)〉と、てっぺんに焼印ではなくスプーンの縁か何かで〈け〉という文字を刻んだ蒸し饅頭、そして、ほくほくじゃがいもと甘々たまねぎのお味噌汁!
     え? え? どうしてわたしがお味噌汁食べたいってわかったの!
     まだ「諸説あります」の段階ではあるけれど、ひとまずわたし達は〈けまんじゅう(推定)〉とお味噌汁に舌鼓を打ちつつ(甘いものとしょっぱいものの組み合わせって至高よね!)、答え合わせは先輩くんが快復してからにしよう、ということで落ち着いたのだった。

    **

     その後の話を少しだけ。
     無事に快復し、美術室へ姿を見せた先輩くんに〈けまんじゅう(推定)〉――不良くんお手製だから、ある意味〈えむまんじゅう〉かもしれない――をふるまうのは、わたし達が侃々諤々を繰り広げてから数日後のこと。おそらく〈けまんじゅう〉の正体を知っている先輩くんは、テーブルに並べられた〈けまんじゅう(推定)〉を見て、そしてわたし達の推理を聞いて、これみよがしに眉根を寄せて頭を抱えるのだけれど――それはまた別のお話だ。
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