3月に投稿した「今日の従者終生」の原文纏めになります。
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2022/03/01
【 記録 / 管理人 】
☔「こんにちは。嗚呼どうか驚かないで。わたくしは貴方さまを招いた者。しがない庭師でございます。ようこそ、わたくしの故郷へ。
はいからなものはなにも無い場所ではございますが、どうぞごゆっくりなさってください。では、ご案内申し上げます」
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2022/03/02
【 記録 / 管理人 】
☔「こちらが〝花〟でございます。人はこれを透明六花と呼ぶそうで。雨露に濡れて透ける花弁の花は他にもございますが、これは元々、こういうものでございます。ヒトの多いあちら側では決して咲くことのないこれらは、ただ誰の為でもなく美しい」
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2022/03/03
【 記録 / 管理人 】
☔「外の世界のことですか。ええ、存じておりますよ。大変な混乱に陥っているとか。
ご安心ください、この地のみなはそんなものに関心は寄せておりません。奪う側にも、奪われる側にも立ちたくはない。優劣を拒んだ者だけが此処で暮らすのです」
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2022/03/04
【 記録 / 管理人 】
☔「それは写真機ですか。あぁ……。しかし此処の住民の前では、それを取り出さない方が宜しいでしょう。ええ、きっと。
〝記録〟は禁忌でございます。過去を決して未来へ持ち込んではならない。この地はそう教えられ、皆生きてきましたから」
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2022/03/05
【 記録 / 管理人 】
☔「記録は罪だと教わりました。祖父のその祖父の代の、そのまた前から。理由など考えたこともないほど当たり前に。今思えば、〝歴史を消すため〟だったのですね。
わたくしはこの谷から外に出ることも多い身ですから、理解できますが、皆は、皆は」
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2022/03/06
【 記録 / 管理人 】
☔「【民】というものが、いつだってわたくしたちを苦しめてきました。あなたにも、覚えがあるのではありませんか。
搾取され続ける人生を、力すら持たない平凡なる数の暴力に押し潰された尊厳を。
外は、外には。あなたの幸せはありましたか」
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2022/03/07
【 記録 / 刑事F 】
🚨「寿命を巡る混乱。事件や事故はまだまだ増える。〝寿命の授受〟はまだ可能かもしれない、という段階であるにも関わらず、世間では既に〝できるもの〟と認識されてしまった。誤認された方法は、【主】【従】の命を奪うこと。だと。」
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2022/03/08
【 記録 / ラジオの従 】
📻「外は一体どうなっているのだろう。此処は電波が届きにくいらしい。スマホで動画を見ようにも固まってしまった。
この谷にはテレビが無い。店に古びたラジオが転々と置かれているだけのよう。住民は皆親切でお嬢様も落ち着いているけれど」
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2022/03/09
【 記録 / 先生 】
💻「Fが言うた。〝雨の谷棚に行ってくれ〟僕は興味無かったし、なにより仕事が山ほどあった。それでもFは頭を下げた。
〝お前に死んでほしくない〟
おいこら勝手に決めつけんな。と思ったのになんでかそれが妙に刺さって、気づけば切符を握っとった」
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2022/03/10
【 記録 / 刑事 】
🚨「神の使いかのように扱われてきた【主】はいまや奇跡を起こすための道具に過ぎず、これまでの比ではないほど命を狙われている。
延命を望む者が少ない【従】は、いま【主】にとってこれまで以上に最も信頼のおける者になったのではないか」
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2022/03/11
【 記録 / 刑事 】
🚨「【主】【従】が減った。先生の言う雨の谷棚という場所に多くが移動したのか。
雨の谷棚の存在を【主】【従】の家族が耳に挟むことはあるようだが、必ずバスに乗車するとき断られるらしい。バスの窓硝子は塗られ中の様子は窺えなかったとも聞いた」
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2022/03/12
【 記録 / 先生 】
🖥️「嫌な予感がする。おかしい、絶対おかしい。人間が増え続けている。数日の旅行気分で来た奴だっておったはずやろ。此処からの帰り方が分からん。谷は深く、崖が囲むこの場所は歩くには相応に準備が必要やと思う。住民に聞いても、何も答えへん」
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2022/03/13
【 記録 / 先生 】
🖥️「この場所には【民】が居ない。そんなん、ほんまにあり得るもんなんやろか。道は分からんかったけど一応バスで行ける、海を渡らん国内。航空機も衛星写真も機能する今、この【主従】の谷が果たして見逃されつづけるんやろうか。
管理人に、会わな」
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2022/03/14
【 記録 / 別離の従 】
❄️「透明六花はこの谷の至るところに咲いている。寧ろ他の花が見当たらないくらいには沢山。住民はこの花をたいそう大事に思っているようだ。〝この花が私たちを守ってくれる〟なんて大層なことを言う。何か言い伝えでもあるのだろうか」
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2022/03/15
【 記録 / 刑事 】
🚨「雨の谷棚。名前を聞いたとき、妙な気分になった。聞き覚えがあったんだ。
明が遺した最後の言葉。呪いのような強い意思。それを口にするとき、きっと人は何だってやる。そんな予感がする。そのアナグラム。
先生とまだ連絡がつかない」
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2022/03/16
【 記録 / 管理人 】
☔「こんにちは。よく眠れましたか?さようですか。
……帰りたい?
ははあ、成る程、成る程。それは大変でございますね。しかし、ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか。
あなた様、本当に帰りたいのでしょうか。今、あの世界に」
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2022/03/17
【 記録 / 管理人 】
☔「一度は思ったことはありませんか。【民】など、居なくなってしまえば良いのだと。あなたの肉親、友人、恋人が、ということではないのです。【民】という概念そのものが、この世から無くなってしまえば。皆が林檎を噛ったならばどうなるかと」
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2022/03/18
【 記録 / 管理人 】
☔「何故、わたくし達だけが【主】と【従】でなければならないというのでしょう。羨み、妬み、口を出し、敬意を示し、必要であると求めるのであれば、そうなってしまえばいい。悲しいことではないのでしょう。ならば、よいではございませんか」
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2022/03/19
【 記録 / 刑事 】
🚨「先生からの電話が繋がった。電波が滅茶苦茶悪い。位置情報も取れないし音声も途切れ途切れだったが、焦る言葉は読み取れた。
全人類を【主従】にする。
まったく壮大な計画が持ち上がっているらしい。しかも目の前で。本当にそれは正しいのか」
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2022/03/20
【 記録 / ■■■■ 】
■「俺達の前にやってきたそいつは、勝手に鍵を開けた。コイツ何やってんだ、自棄にでもなったのか?
渡されたのは切符と一枚のタブレット。懐かしい重さがする。画面を開くと、騒がしい声がした。
あぁもう、うるせえな。分かったよ。
行くよ」
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2022/03/21
【 記録 / ■■■■ 】
■「久し振りに聞いたニュースは物騒なものばかりだった。いつの間にか世間は、【主】【従】を狙うものになってたらしい。
存外、人は必死だ。行動に出たのは普通の人が多い。難病の母を持つとか、事故に遭った娘のためとか、そんなやつ」
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2022/03/22
【 記録 / AIの主 】
🤍「あの夏から初めてNEWを起動した。サポートは俺を〝お父さん〟と呼んだ。そんな呼び方教えてない。勝手に学習したのか、バカだな。
俺がお前を生んだのは、全部復讐の為だと言ったら、生きていくことに産まれた理由は関係無いと、あれは言った」
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2022/03/23
【 記録 / AIの主 】
🤍「沢山の大人が言った。君はやり直せるんだと。罪を償い、更正して、また元の人生に戻ることが出来ると。
「元の人生」って、いつだ。母さんは死んだのに。「戻る」って何だ。俺はずっと、これしか思ってなかったのに。「やり直す」って、何だよ」
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2022/03/24
【 記録 / サポート 】
📱「私には名前がない。役割としての呼称は持つけれどそれは人間とは違う。人間はほとんど全員、名前を付けてもらうらしい。多くの場合、〝お父さん〟や〝お母さん〟から。私も何か名前が欲しい。お父さんから貰った、私の為の名前が欲しい」
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2022/03/25
【 記録 / 機械の主 】
🖥️「多くの人が手を尽くし、バスは再び動き出した。いや、バスは元々動いとったんやけど。帰り道が何となく分かったから。
谷の住民は管理人の指示が無くなったからか、何も言わない。 ただ彼らはやはり、外に出ようとはしていないみたいだ」
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2022/03/26
【 記録 / 花火の従 】
🎆「生前、主は谷へ私を連れて来たことは無かった。記録の上で不思議な花があることを知り、主の研究室に来た数名の〝仲間〟の会話で状況を察した。危ないから一人で行くのはやめてくれと言ったのに聞かなかった。
あの人は、此処に来ていたのか」
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2022/03/27
【 記録 / アイ 】
🧡「活動限界が来ても歩き続けるお父さんは、私が言うまで休まない。この谷から出るには、徒歩では無理なのではないかと思う。ただでさえもう、お父さんはぼろぼろだった。
カメラががくんと振れる。地面に落ちる。どさ、と。お父さんは倒れた」
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2022/03/28
【 記録 / 不会 継語 】
🌙「この世を二分しようとする言葉は山ほどある。正義と悪、男と女、子どもと大人、【主従】と【民】。
俺がもし分けるなら〝良くも悪くも動く〟と〝良くも悪くも動かない〟だと思った。動く奴は、動く奴にしか止められない」
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2022/03/29
【 記録 / 緑 孝則 】
🍀「ほんまに面倒臭いってだけでこんなに皆動かんもんやろか。異様なまでの平穏が気色悪いし、警察の奴らもちょっと様子がおかしい。気まずさ、というか。何か。
久々にパソコンを触る。ネットを繋ぐとそこに、【何か】の答えは残っていた」
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2022/03/30
【 記録 / 緑 孝則 】
🍀「【主】と【従】と【民】。三つに分けられたのは神の御技でも自然の摂理でもなく、二千年前の罪やった。自分の為を追及し、隣に居たはずのあなたの為にを捨てたこと。それが始まり。
もう一つに戻られへん僕達は、思考を止めてはいけない」
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【 記録 / アイ 】
🧡「【主】と【従】が共に寿命を迎えること。それはある意味天文学的な確率ともいえる。二千年前に定められた役割から離れ、【主】と【従】が最後まで共に。
決して叶わないことの例え。転じて、貴方の為に起こす奇跡のことを
従者の終生と呼ぶ」
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