着床しないと出られない部屋.
「おっ♡ぁ、あっ、あ♡♡♡♡」
一際甲高い嬌声が真っ白な部屋に響いた。
手のひらで頭を掴まれ、ベッドに押し付けられ、下半身を高く突き上げた格好を無理やりさせられる。
「はぁ、これで何回目だっけ?」
オーエンの質問に答える余裕はない。
「ん、はぁ、っ、あ、ぁ、んんん♡♡♡♡」
「ねぇ、まだ妊娠しない?」
乱暴に腰を打ち付けると、ぐちゅ、と卑猥な水音。肉と肉が打つかる音も激しく鳴り響く。
カインの臀部に埋め込まれた陰経が抽送を繰り返す度に、中の肉が捲られるような感覚。身体の内側から与えられる刺激に、頭が真っ白になっていく。
深く、奥に差し込まれるオーエンの雄槍が打ち込まれる。喉仏を晒して身体を仰け反り、あられも無い声が止めどなく続く。
「おっ、お、ぉお、♡♡♡ま、まっ、少し休ませ」
「だぁめ、どうせこの部屋の中じゃ体力は減らないんだし、騎士様が妊娠するまで続けるよ」
虚ろな瞳が映すのは、壁に掛けられた看板。
『着床しないと出られない部屋』
何度呪文を唱えても、変化する事にない部屋。出られないかもしれないと言う焦りに痺れを切らしたオーエンは、問答無用でカインを組み敷いた。
魔法が使えない。純粋な腕力なら、身体を鍛えているカインに分がある。
だけど、結局の所、この部屋から出る唯一の手段がソレしか無いのなら……やるしか無いのだろうと、カインはオーエンを受け入れる決断をした。
それが、何時間前なのか、または何日前なのかはもう分からない。
時計も無いこの部屋では時間の感覚がない。
食事を摂らなくても問題ない。魔力も体力も減らない。
変化が訪れない部屋で、できる事は性行為のみ。
「ほら、早く此処から出たいんだから妊娠してよ」
「お、ぁ、ぁ、」
オーエンの腰が動く度に、肛門から零れ落ちる精液が内太腿を伝い、シーツを汚していく。もう何度か中に射精させられたか分からない。お腹の中がオーエンの精液が満たされ、いっぱいになっている。
くちゅ、……ぐちゅ♡
大きく膨らんだ鬼頭が、尻穴の中を掻き回す音に、カインの頭に霞がかかる。
ぐっと力を込めて手を握る。
「はぁ、ぁ、ぁ……」
意識をしっかり持たなくては。
与えられる快楽に溺れてしまわないように。舌を噛んで耐える。
そもそも、カインは男のままなので、妊娠なんてしない。
なのに、どうしてこんな行為をしているのか。
まず女に変身してからすべきではないのか。
合間合間に、オーエンにそう訴えても聞き入れて貰えなかった。
女を抱くつもり無い。
騎士様だから、するんだよ。
唇を歪に歪ませてそう嗤った。
くらくらと目眩がしたのを覚えている。
こいつは、こんな時でも俺への嫌がらせをするのか。
ある程度すれば、きっとオーエンも理解するだろう。男のままでは意味が無いこと。この行為に飽きたらきっとオーエンも協力的になるはず。だから、まずはそれまで耐えて、耐えて、耐えれば良い。幸いこの部屋では体力が無くなる事はない。魔力も体力も減らないんだから――――――。
そう考えて、カインは思い出した。
始めに、部屋を出る為に魔法を使っても何も反応が無かった事。
…………背筋がゾッと震えた。
そうだ、この部屋で魔法が使えない。なら、女になる事も出来ない。妊娠なんてするわけがない。
「お、おーえ、まっ、ちょっとまってくれ、一旦状況を整理させ、っん、ぁ、はぁ、ま、ぁ♡♡♡ぁ♡♡♡ァん♡♡♡♡」
ズンっ!カインの最奥に、自身の雄を突き刺した。
「お、ぉ、おおお♡♡♡」
カインが何か言いかけていたけど、わざわざ聞いてあげる義理もない。
最奥に押し付けた鬼頭の先をぐりぐりと押し付け、押し上げると、面白いくらいにカインの身体が震えた。
鬼頭の先から根元まで全てがカインの中に埋没している。柔らかく押し付けられる肉壁に包まれている感覚に、思わず声が漏れそうになる。
「っ、ふぅ…」
唾液と汗と精液で濡れきった中の温かさと繊細さ。ぞくぞくと身体の中を満たしていく充足感。
ほんの少し肉棒を引く。
ちゅぐ、にゅる、ぐちゅ。
「はぁ、あっ、ん♡」
途切れ途切れにカインが小さくうめき声を上げる。
カインの腰を掴んで無理やり高く上げさせる。また深く突き刺さる陰茎。
「はうっ♡ぁー♡♡♡」
ずぶ、じゅぷ、ぐぢゅっ――――――!
「あ、あん♡ぁ、あ、は、ぁ、♡♡♡♡」
抽送を開始すると、またカインが声にならない声を上げる。
ぞく、ぞくぞく♡♡♡
溢れてくる快感に溺れそうになる。
ある一点を超えた辺りから胸の奥から、お腹の奥からキュンキュンとする感覚。一突き毎に押し寄せてくる強烈な快楽。
でも、それとは別の感情が芽生えているのを感じる。
何なのだろうか、この感覚は。愛しいような、喜びのような感情の波。
その様子を満足気な顔で見下ろすオーエンが、ふわりと微笑んだ。
「確証は無かったけど、賭けは僕の勝ちかな」
「……?」
オーエンが何を言っているのか分からなかった。
「魔法を無力化する、時間感覚を狂わすような魔法なんだから、性別だって狂っててもおかしくない」
「な、に………?」
「何処の誰かは分からないけど、男二人をこんな部屋にいれるような酔狂な奴なんだよ?」
嫌な汗が頬を流れた。身体の体温が下がっていく。
ドクドクと激しくなる心臓の音。
「男でも妊娠出来るようにしてるでしょ」
ある時から、明確に身体の変化は訪れていた。
「っ、ま、うそ…だ…」
通常、受精から完全に着床するまでに時間は掛かる。妊娠の反応にはさらに時間が掛かる。
「……ぁ」
オーエンの冷たい手がカインのお腹を優しく撫でた。
お気に入りの玩具を壊れる瞬間を見られる期待感に、思わず声が弾んだ。
「扉、開いたよ」
カインの目が見開く。恐る恐るゆっくりと顔を上げ、きょろりと視線を巡らせる。
真っ白で、ベッド以外何もなかった部屋の壁から、一筋の光が挿し込んでいる。
「――――――っ?!」
ドアノブは無いが、確かにそこには扉のような物が見え、僅かに開いている。
此処から出られる。
湧き上がる喜びに、一瞬、歓喜の声を上げそうになったが、すぐにハッとなる。
この部屋を出る条件は一つ、それは――――。
「騎士様」
オーエンが耳元でそっと囁いた。
「妊娠おめでとう」
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