うたかたの聲にくちづけを。(マサ音)「へへ、マサだぁーいすきっ!」
爽やかな夏の日差しのような笑顔で放たれたそれは、彼の口癖みたいなものだ。学園で同じクラスだった頃からよく言われている。例えば、忘れてきた教科書を借りれず困っていたところに見せてやった時や食堂で目当てのメニューが食べられず悄気ている姿にメロンパンを分けた時も。卒業後に仕事が重なり、その合間に談笑している時や台本内での漢字の読み仮名を教えてやった時も。その都度、あの満面の笑みで「大好き」と告げられる。
表裏のない彼らしい素直な言葉に始めこそ動揺したものだが、今となっては慣れたものだ。先程のように告げられれば小さく笑みを浮かべ、なるだけ優しい声色でこう返す。
「そうか。俺も一十木が大好きだぞ」
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