恋人ごっこ。 (マサ音)「ねぇ、マサ……本当に行っちゃうの?」
歩みを進めようとした矢先、背後からクゥーン……と子犬のしょぼくれた鳴き声ような台詞が聞こえ、振り返れば俺を見上げながらジャケットの袖を摘み引く一十木の姿があった。
「一十木」
「俺、離れたくない」
突然のことに目を丸くしていると、か細い震えた声でそう呟き、流れるような所作で緩りと抱き着かれる。思わずそっと彼の頭部に手を添えて撫でてやれば、己の肩に凭れるように頭を預けてくれる様子に愛おしさが込み上げた。
「だが、そろそろフライトの時間だ。行かねば」
「マサが他の奴とフライトする姿なんて、見たくないよ」
「一十木……」
「どうして今回は俺とのフライトじゃないの?」
伸ばされた一十木の片手が俺の空き手を掴み、きゅっと指が絡み合う。そのまま持ち上げられ一十木の頬へと添えられると、手の甲に柔く彼の温もりが伝わって。
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