慈愛「任侠?いえいえ、私が守り、愛し、慈しむのはお嬢のみです。おまちがえないよう。」
と、初対面で言われた時はてっきり、”お嬢”という存在以外には一切興味を持た無いのかと、そういう意味で言っているのかと思った。
だが、ここに来て1年……実際一緒に暮らすようになってからというものは、色々なヒーローさんと奴を関わらせる様にしたのもあるかもしれないが、”うちの”は他のヒーローさんに対して友好的じゃ無いわけでもなく、興味が全然無いわけでもないと言うのが分かってきた。先日なんて『ぶれどらさんのお背中にのってみたいですねぇ、』なんて言ってたくらい案外好きも嫌いもあって、普通にコミュニケーションを取れている。だからそういう訳では無いのかと不思議に思った。
「りんねさん、りんねさんさ、ここんとこおじさんにすげぇ懐いてるけど好きなん?」
回りくどいのも面倒くさい、とそう思ったので、俺はストレートに聞く。一瞬固まる輪廻さん。すぐさまにこにことして、話し出す。
「はい!とても楽しく愉快なお人で、お話やバトルをさせていただいていても気落ちする事は無くとても好ましく思っており信頼のおける間柄だと認識しております。」
「んじゃ、おみさんは?」
「くふふ、忠臣さんも同様です。あの方は特に感情がストレートでいらっしゃるので腹の読み合いをせずよくて共に居て安心できます。」
目を伏せて言われる。そういう物だろうとは思いつつ、”彼”として考えると、益々不思議になる。
興味を持てるようになったのはいい事だが、ここまで他人に好感度を持てる子だったのか、と、小首を傾げたら、その様子に対してだろうか。不思議そうに輪廻さんも小首を傾げる。
「おじょお、?」
「ん、ああ、ごめん。」
なんでもないよ、と言いながら頭を撫でると嬉しそうに猫みたいに目を伏せて手へ擦り寄ってきた。そして、擦り寄ったかと思えば手を取られ、引かれ、ぐい、と抱きよせられる。
「……何を唸っていらっしゃるのかはわかりませんが、私が守り、愛し、慈しむのはいつまでもお嬢のみですよ。」
少し口をとがらせながらぎゅう、と強く抱きしめられつつ言われる。たんまたんまと腕をタップすると、少し緩められて頭を撫でられながら言葉の先を続けられた。
「……私にとってあのお二人はとても大事な戦友であり仲間です。無論一言に愛していない、と言えば嘘にはなるでしょう。ですが、その愛はお嬢に向けている愛とは違うもの。恋愛の愛と友愛の愛は違うと教えて下さり、他に愛を向けても構わないと教えてくださったのもお嬢のはずですが…くふ、そもそもあの方々は私が守らなくてもお強いお人であり手を貸すことはあれど元々から自立しているお人らです。だからこそあのお2人、御三方…いえ、他の方々も、わりかし好ましく思い共にいるのです。なんと言っても我々は”守りたい人”の為に方位磁針の上で戦っていますからねぇ。なんて…くふふ。……ですから、安心してください。決して私は私の世界が狭める為にお嬢の事しか見えない。と、ここに来た当時から常日頃言っていた訳ではなくまたそれならば別に他の人へと現を抜かさないように暗示で言っていた訳でもございません。ただただ、事実として、私の全てはお嬢の為にあり、この身もこの命も、全てお嬢の物なのです。なので、”ここでの初対面”の時はそれを言葉に表し改めてお伝えしただけで本質は何も変わってないですよ。」
と、長いまつ毛を重ねつつ、ちゅ、と頬に柔らかい唇をつける。
「私は”嘘は”つきませんので。」
にこにこと如何に考えてるかを吐き出されてふむ、と俺は唸りつつ、友達ができるように、俺だけにならないようになるべく下していた命令自体は上手くいったのかなぁ、ととりあえず、へらり、と笑っておいた。