蜜俺はりんねさんのことをなんもしらない。
”なんも”って言うのはたしかに大袈裟だが一般的に公開されている彼の事しか知らない。
[糸廻輪廻]がいつ蜘蛛縫組に入ったのか、何処で俺では無い”お嬢”に惚れたのか、そしてなんで全く違う俺を”お嬢”と呼ぶのか、一切何も知らない。
何が好きで何が嫌いで、とかはさすがに見てればわかるが、俺は彼の過去を何も知らないのだ。
欲を言えば全てを知りたい気持ちはある。何でそんな難しい単語を知ってるのかとか、なんであみぐるみを作るのが趣味なのかとかね。気になる事はホント、山ほどある。
ただ、聞いたとしてもはぐらかされるのが関の山だから、聞けやしないってだけ。
ただ、……でも、気になりはする。
「お嬢!おやつをお持ちしました!…が、なぜ百面相をまた、していらっしゃるのですか?」
おぼんを手にりんねさんがやってくる。
「あ…。」
また聞いた所ではぐらかされるよなぁと俺は目を伏せて苦い顔をする。
「??、…お身体が悪いのですか?」
「わ、!?」
ことん、という音がしたかと思えば、ひんやりとした物が額に伝う。
隣に座り俺のおでこに触れながら心配そうにりんねさんは俺とは対照的な生き生きとした瞳を向けて見つめてくる。
嘘は通じない、と言わんばかりの真っ直ぐな目だ。
頬をかきながら俺は口を開いた。
「いやね……、俺はさ、お前さんのことなんもしんねーなぁって思ってさ。」
へらり、と笑いながらそう告げる。
ひんやりとした物が無くなる感覚がしたかと思えば口元に手を当てて むむむ、と考え込まれていた。
その姿を見て慌てて、聞かれても言えないコト言いたくないコトってのはあるし、こまるよなぁ、と苦い笑いをかけるとまたばちり、と目が合った。
曇りない曇天の目。
柔らかそうな唇が動くのを見つめる。
「お嬢、私は”アナタ”のりんねです。方位磁針で戦うと決め、そして、アナタが私にこちらへの片道切符を1枚くださった…それが私の人生でございます。ですから、安心して下さいませ。」
すっ、と手を握られると、ゆったりと微笑みを向けられる。
「”アナタ様”が知らない一面なんて、ありませんよ。」
…
俺はそうかぁ、としか言えず、りんねさんはでは、食べましょうか!ときにもとめないようにお手製のみつまめを机に並べ出した。
また、流された気がしたが、それが彼の回答なら、と一先ずは出された蜂蜜レモンジュースと共に飲み込むことにした。