【薫零】接触あぁまたか。
零は心の動揺を悟られないよう、暗転した瞬間にひっそりと嘆息した。
始まりは数か月前のライブ。
互いに後ろ向きでセンターに移動した時に少し距離を見誤り、思っていた以上に薫と接近した。あくまで“思っていた以上に”であってそこに居る事はわかっていたので当人たちは危ないとも思っていなかったのだが、客席が息を呑んだのを察したのだろう、薫がおどけたように零の腰を抱いてくるりと回ってさも予定通りのパフォーマンスであるように振る舞った。まるでワルツでも踊るかのように。
あれがいけなかった。
物凄い悲鳴のような歓声が上がって、それに気をよくした薫がそれ以降毎回のように絡んでくる。ある時は腰を抱き、ある時は頬を寄せ、ある時はあわやキスをするのかというくらいに顔を近づけ。
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