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    べっこう

    @bekkouameoishii

    クロスオーバーとかを試しにあげる場所。
    お気軽。
    絵は界隈めちゃくちゃ雑多です。

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    べっこう

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    限界×暗殺教室 クロスオーバー小説 第2話

    地球滅亡まであと 2地球滅亡まであと 2



    「なぁ、ぐちさんたち意外と馴染んでるらしいよ」
    「まじ?」
    「まじかぁ」
    「どうする?俺らが中学生の中に入って行ってめっちゃ浮いたら」
    「いやありえるだろ…」
    「やばいかも」

    ぐちさんたちが椚ヶ丘中学に潜入してから一週間が経った。そめさんとかあろえはコミュ力高いから中学生にも好かれるだろうなとか思ってたけど、まさかぐちさんも人気あるなんて、聞いたときは本当に驚いた。

    「とりあえず…着てみよ。制服」

    そんな中残ったかねごん焼きパンと俺…つまり生徒として潜入するつもりの三人は、今更になって中学校の制服に袖を通してみることにした。

    「たらこさん、似合うね」
    「でしょ!?やっぱ見た目は良いんだよなぁ俺って。超絶最かわたらこちゃんだわ」

    ふふん、と上機嫌に一回転して見せると、焼きパンはにこにこしながら手を叩いてくれた。

    「さすがに俺はキツくない?これ…」

    次にかねごんが制服に着替えて出てきた。俺と焼きパンはそれを見た瞬間に腹抱えて笑ってやった。

    「あははははっ!!!!似合いすぎでしょかねごん!!あははっ」
    「…っ、かねごんめっちゃにあってるよ、ふふ」
    「なんでだよ!!俺25だよ!?」

    やっぱりかねごんは童顔だからいけると思ったんだよね。俺の目に狂いはかった、うん。…まぁ、ほんとはかねごんには教師なんてできないと思っただけなんだけど…俺優しいから黙っといてんの。

    一通り笑い終わってから焼きパンに声をかける。

    「焼きパンも着といで?」
    「わかったぁ」

    てくてくと歩いていく焼きパンの背中を見送ってから、もう一度視線をかねごんに移す。

    「…フっ、クク…っふふ」
    「…何笑ってんだよ!」

    視界に入るたびに笑っちゃう気がする。25のおっさんが中学校の制服着てんのやばすぎ。それが似合ってるんだから余計に面白い。

    「きがえたよ〜」

    焼きパンが部屋に入って来た。

    「…………。」
    「………。」

    「………?なに?なんか反応ないの?」
    「……いや、違和感なさすぎて…」
    「ちょっとびっくりしてる……」
    「えぇ……?」

    かねごんも童顔だと思ってたけど、焼きパンは俺たちの想像を軽々超えてくるレベルの中学生顔だった。俺もかねごんも声出なくなっちゃったわ。

    「…っしゃ、行けるわこれ!」
    「ほんとに…?」
    「少なくとも焼きパンはいける。まじで」
    「僕、ほめられてる?」
    「いや、褒めてない」
    「…なんでぇ」





    ────────────


    「なァ、今日だったよな」
    「なにが?」
    「"転入生"が来んの」
    「あぁ…そうだったなぁ」

    人のいない職員室で、こんそめに声をかけた。俺たちは今日、ターゲット来る時間帯を探るために普段より早く学校に来たのだが、残念ながら誰もいなかったため、二人さみしく朝の時間を過ごすことになっていた。

    げんぴょんとあろえは、当初の予定通り非常勤講師となっているおかげで、俺とこんそめのように毎日通う必要がない。本気で羨ましい………とか思ってないけどな!まじで。……ずるくね?

    こんそめは教員の仕事が思ったより楽しいらしく、生き生きと生徒たちに数学を教えている。たったの一週間でこんなにも生徒に好かれているなんて、コイツの人当たりの良さには感心させられた。しかも女子生徒には随分な人気だ。俺にはよく分かんねェ男どもばっかり寄ってくるのにな。

    「アイツらが来たらどうなんのかな」

    こんそめが未来を想像して、少し笑いながら言った。

    「E組の勉強の足引っ張るかもな」
    「ありえなく無いな」

    なんて軽口を叩きあっていれば、廊下から、この一週間で慣れた気配がした。

    俺とこんそめは同時に職員室の扉に銃を向ける。

    ガタリと音を立てて開いた扉の向こうには黄色いタコのような超生物が立っていた。

    パン と軽い音とともに、床にカラリと弾の落ちる音がした。超生物は驚いたように、それでいて落ち着いた様子で

    「おや、お早いお着きで。おはようございます。ぐちつぼ先生、こんそめ先生」

    と挨拶をしてきた。少しの不意を突いたところでそう変わらないターゲットの平静さに呆れながら、超生物に簡単に返事をする。

    「どうも」
    「おはようございま〜す、殺せんせー」
    「はい、おはようございます」

    なんだか気恥ずかしくて、俺はその名を未だ呼べていない。こんそめとあろえは呼べるらしい。げんぴょんも俺と同様に呼びにくいと言っていたが、いい歳した男が「ころせんせー」なんて…抵抗があって当然だろ。名前付けたの中学生だぞ。ついていけねェよ…そのセンス。

    まぁ、名前なんて呼べなくても、どうせ殺すターゲットのことだ。そう長い付き合いにもならないだろうと踏んで、気にしないことにした。

    パタリと手元の資料を開き、目を落とす。今日から現れる新たな刺客を、ヤツは知っているのだろうか。

    書かれた「梅花」「北焼」「金子」という、苗字なんだか名前なんだかよくわからないような名前を見て、思わず苦笑してしまった。雑にも程があるだろう。せめてフルネームを用意して来い、とメッセージでも送ってやろうかと思ったけど、俺だって「五十嵐 無敵」とか「素敵」とか「不敵」みたいな名前にするし、言い返される未来が見えたのでやめておいた。

    顔写真は悪くない。ちゃんとライトが当たっていれば、童顔三人衆は中学生に見えない……こともないだろう。年齢の欄にしっかりと「14歳」と書かれているのを見て、思わず吹き出しそうになった。こんそめにこっそり見せれば、飲んでいたコーヒーが気管に入ったらしく、ゲホゲホとむせていた。

    「おや、それは……今日から来る転入生の資料ですか」
    「あぁ…そッスね」
    「ぐちつぼ先生が生徒に興味を持つなんて、意外ですねぇ」
    「え、俺そんな印象っスか?」
    「生徒の名前だって、まだ覚えていないでしょう?」
    「それはそうだけど…。ま、コイツらには興味ありますよ。いろいろとね」

    「それは楽しみです。…ところで、ここの備考欄に手書きで書いてある、"たらこって呼んで"というのは…どういうことなんでしょう」


    殺し屋だと隠すことも忘れたのか、ナメているこか、はたまた本当にバカなのか。本気で頭を抱えた俺は盛大にため息を吐いたのだった。



    ──────────


    「なぁ渚!聞いたか!」
    「な、なんの話…?」
    「転入生だよ転入生!」
    「…え?」
    「今日、うちのクラスに転入生が来るんだよ!」
    「そうなの?」
    「かわいい子だといいな〜!」

    朝一番から前原くんに声をかけられた。いち早く転入生の情報を掴んでいるあたり、やっぱり前原くんはプレイボーイだなぁ。

    「転入生なんて学園マンガの一大イベントよ!きっと超絶美少女かイケメン、もしくは最強の殺し屋に違いないわ…!!」

    不破さんがすごい剣幕で語っている。普通ならきっと"超絶美少女かイケメン"なんだろうけど、この特殊な空間においては"殺し屋"なんて物騒な選択肢も加わってしまう。でも、つい先日殺し屋が本職の四人がこの教室に加わったばかりで、新たなクラスメイトを受け入れる心の準備が間に合っていないような気もするけど…

    なんて考えていれば、始業のベルが今日も鳴る。



    「さぁ!今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります!」
    「はやく転入生紹介してくれよ殺せんせー!」
    「にゅやっ!?どうしてそれを…!………中学生の情報網恐るべし…」

    クラスに新たなメンバーが加わるというだけで、どことなくわくわくした気持ちになるのはどうにも不思議だ。はたして、男なのか女なのか、この"暗殺教室"において、どんな刃を持っているのか。気になることは山ほどあるんだ。僕も口には出さないけれど、はやく紹介してほしいと内心思っていた。


    「わ、わかりました。…それではどうぞ!!!!」

    古い校舎の扉が音をたてて開いた。

    とことこと歩いてきたのは三人。三人…!?僕はてっきり転入生が一人来るものだと思っていた。予想外の展開に、クラス中が少しざわついている。

    そんな中、口を開いたのは殺せんせーだった。

    「ささ、三人とも自己紹介をお願いします」

    一番教卓に近いところに立っていた女の子から自己紹介をするみたいだ。

    「えーっと、梅花っていいます。たらこって呼んでもいいよ〜。よろしくお願いしまーす」

    緊張を感じさせない挨拶で、彼女は僕らの空気を和ませた。長い金髪と真っ赤な瞳は中学生離れしているように見えた。"たらこ"っていうのはあだ名みたいなものなのかな。ホームルームの後、彼女に聞いてみたいなぁ。

    「では、次に北焼くん」
    「…はい。北焼です…。えっと……よろしくおねがいします」

    すごくほんわかした喋り方をする人みたい。ふわっとした茶髪にセーターがよく似合ってる。僕と体格も近くて、なんだか親近感を覚えるな。

    「はい、では金子くん」
    「金子でーす。かねごんとかごんかねとか呼ばれたりしてます。よろです」

    彼に対しては、なんだか掴みどころのない印象を受けた。少し高い声と、平均的な身長。細身でスラッとしているけれど、髪は綺麗な金髪で、決して地味という訳じゃない。そのせいで、なんというか……形容しがたい印象だった。

    「では三人とも、先生と握手を。これからよろしくお願いします」

    珍しいことに殺せんせーが握手を求めている。先週来たぐちつぼ先生たちとはそんなことしてなかったのに…。三人とも素直に右手を差し出して握手した。


    ホームルームはその後すぐに終わり、休み時間の彼らの周りには人だかりが出来ていた。

    「俺、前原陽斗!梅花ちゃんよろしくね〜!」
    「あはは、よろしく」
    「梅花ちゃん、声が低くて…いや、大人っぽくてかわいいね」
    「そお?ありがと」

    前原くんはさっそく女子の転入生に声をかけに行ってるみたい。あとの二人はぽかんとそれを眺めている。やっぱり女子のところには人が集まるようで、男子も女子も、新たな金髪美少女クラスメイトの席は大盛況だった。

    僕も気になったけど、さすがにあの人集りの中に入っていく勇気が出なかった。教室をぐるりと見回してみれば、新しく増えた後ろの方の席で、北焼くんと金子くんと磯貝くんが話していた。学級委員長の磯貝くんが挨拶しに行ってるみたいだ。

    気になったので僕も参加してみることにした。せっかくの転入生だし、友達になれたらいいなぁ…なんて。

    「おっ、渚!」
    「あ…潮田渚です。よろしくね」

    簡単に挨拶をすると、金子くんも北焼くんもにこりと微笑んでくれた。

    「なぁ、今日来た三人は知り合いなのか?」
    「うん。俺と焼きパンとたらこは昔から知り合い」
    「へぇ…そっか!」
    「あとついでにぐっちたちも……」
    「ちょっと焼きパン!」
    「あぇ、ごめぇん」
    「……?」

    北焼くんが何かを言いかけたとき、金子くんが焦ったようにそれを止めた。ぐっち…?どこかで聞いたことがあるような気がしたけれど、気のせいかな。

    「そうだ、二人とも下の名前はなんて言うの?」
    「あ、それ僕も気になった」
    「「あ〜……」」

    二人とも黙り込んで見合ってしまった。なんだか気まずそうな顔をしている。自己紹介のときに、三人ともフルネームを名乗らなかったのが気になってたんだけどなぁ。

    「よかったらかねごんって呼んでよ。あだ名なんだ」
    「僕は焼きパン」
    「……?それでいいなら呼ばせてもらうけど……」
    「うん、そうしてくれると嬉しい」
    「わかった」
    「あとついでに…あの金髪の…」
    「あ、梅花さん?」
    「そう。あの人はたらこさんっていうの」
    「そういえばさっきも言ってたな…」
    「うん。僕らで呼びあってるから……」
    「そっか!それならそう呼ぶ!これからよろしくな、かねごん、焼きパン」
    「ありがとう、よろしく」
    「よろしくね」

    誤魔化されてしまったけど、あだ名で呼べるようになったなら少しは仲良くなれたんだよね。そういえば一週間前に来た先生たちも不思議な名前だったな…。

    それ以降は彼らの元にもみんな挨拶に来て、三人とも初日ですっかりE組に馴染んだようだった。



    数分後、始業のベルが鳴った。
    一限目は数学、こんそめ先生の授業だ。


    「っしゃ〜、授業始めるぞ〜。号令っ」
    「きりーつ、気をつけ、れーい」

    ガタガタと椅子が引かれ、皆が席に座った。こんそめ先生が教卓に置かれている座席表を見つめている。そして顔を上げると、今日から増えた生徒三人を見て、からりと笑った。

    「おっ、結構増えたなぁ。三人ともはじめまして!俺はこんそめ、見ての通り数学の教師だ。よろしくな〜!」
    「あ〜はじめマシテ……梅花でーす」
    「…っ、よろしく、おねがいします…ふふ」
    「おっす…よろです…」
    「何笑ってんだ?お前…名前なんだっけ…えーっと、金子?おい金子!何が面白いんだ?」
    「ふふっ、いや、なんでも…ないっス…はは」

    何が面白かったのか、かねごんくんは笑いを堪えきれない様子でこんそめ先生を見ている。焼きパンくんはちょっと眠そう…。あれ…?たらこさんも肩が小刻みに震えているような…?気のせいかな。いや、口元を押さえ始めたぞ。笑ってるよね!?

    こんそめ先生の発言におかしな所はなかったと思うけど…どうしたんだろうか。



    その後授業は無事終わり、気づけば午後になっていた。今日最後の授業は国語、ぐちつぼ先生の話術講座だ。

    「はいごうれーい」

    号令後、ぐちつぼ先生もニヤニヤした顔で転入生を見ているようだった。

    「じゃあ今日の授業は…昨日の続きだな!そうだなァ…この問題、わかるか?…じゃあ金子!答えてみろ」
    「はぁ!?………わかるわけねぇだろ……」

    かねごんくんはボソリと呟いた。それが聞こえたのか聞こえなかったのか、ぐちつぼ先生はひどく楽しそうな声色でかねごんくんを急かす。

    「いや、俺今日から来たんで……」
    「あ?…弱音は無しだぜ?これくらいわかるだろ〜!」
    「……クソムカつく……!」

    「ちょっとぐちつぼせんせ〜!いい大人が中学生いじめないでよ!」

    見かねた茅野が先生に異議を唱えた。

    「はァ!?中学生ってコイツは……!…そうだった…。………悪かったな、金子」

    ぐちつぼ先生は驚いたように目を見開くと、口元を抑えながらかねごんくんに謝った。

    「わかればいいんすよ」
    「やっぱ気に入らねェコイツ…!」

    かねごんくんが満足そうに言うと、こんどはぐちつぼ先生がキレそうになっていた。そんな漫才みたいなやりとりに教室がどっと明るくなると、二人とも意外そうに僕たちを見回してから恥ずかしそうに頬をかいた。



    ──────────



    「やっと終わった〜!」
    「つかれた〜」

    中学生に紛れる初日はあっという間に終わり、教室にはもう俺たちしかいない。

    俺と焼きパンとかねごんは今後の作戦会議と称してお菓子を持ち寄って駄弁ることにした。生まれてこの方経験したことのない"学生"だとか"青春"なんてものの欠片を味わっているみたいで、不思議とわくわくした。

    「梅ねり一個たべる?」
    「ぼくいらない」
    「おれもいい」
    「じゃあそのチョコ一個ちょうだい」
    「いいよ」
    「やきぱ〜ん、俺にもちょうだい」
    「かねごんはやだ」
    「なんで!?」
    「言い方がちょっと……」

    ケラケラ笑ったり、見慣れない山の景色とボロ校舎を見回してしんみりお菓子をつついてみたり。

    ふと思い出して、俺は政府から事前に送られていた銃を取り出した。色も重さも、弾の形も全てが違う。俺たちが常に持ち歩いているハンドガンとは。

    「こんなんで殺せるのかねぇ…」
    「だよね。試しに撃ってみたいかも」
    「ぼくちょっと撃ったことあるけど軽すぎてエイム全然合わなかった」
    「まじか〜。さすがに練習しなきゃか」
    「訓練場とかあんのかな」
    「森の中にあったよ」
    「使わしてもらおっか」
    「うん」

    急いで梅ねりを食べきって席を立つ。片手にはやけに軽いハンドガン。


    森の中を数分歩けば、いくつか的が見えてきた。的から30メートルほど離れた場所から試しに発砲してみる。パンと軽い音のあと、薬莢の転がる音もなく的に小さな穴が空いた。俺の空けた穴は中心より少し左。何発か連射してみても、中心には当たらなかった。

    「この銃のリココン慣れね〜!」

    俺が項垂れると隣の焼きパンは緩く笑った。

    「うん。なんか軽いしねぇ」

    それでも焼きパンの撃った的は中心に穴が空いていた。

    「俺は結構好きかも。おもちゃみたいで」
    「あは、なんか似合ってるよそれ、かねごん」
    「ありがと」
    「ガキっぽくていいよ」
    「は?」

    雑にからかってやったけど、かねごんだってちゃんと的の中心を射抜いていて、本当はちょっとだけ悔しかった。

    銃の扱いはやっぱり焼きパンが頭一つ抜けている。その影に隠れてしまいがちだけど、かねごんも相当上手いんだよなぁ…。自分から目立とうとはしないけど、趣味でやっているうちにどんどん上手くなってしまうタイプな気がする。

    パキッ

    呑気に考え事をしていたら、不自然な音が聞こえてきた。この森の中で誰かが小枝を踏んだ音だろう。つまり放課後のこの空間に誰かがいるということ。

    俺たちは三人とも咄嗟に黙る。他人の気配には敏感なはずの俺たちが気づかなかったということは、相手が相当隠密能力に長けているか、俺たちが油断しすぎていただけか。

    ザッと集まり三人で背中を合わせて銃を抜く。これは"重い銃"だ。

    「誰?いんのはわかってんの。はやく出てきて。盗み聞きなんて趣味悪すぎ」

    「……すみません、盗み聞きするつもりはなかったんです」

    「……殺せんせー!?」

    現れたのは黄色の巨体。俺たちは警戒を解いて銃を下ろす。そもそもこの鉛玉ではアイツを殺せない。

    「驚かせてしまったことは謝りますが……三人とも、そんな物騒なものを学校に持ってきてはいけませんよ」
    「あ〜あ、見られちゃった」
    「皆さんは中学生なんですよ。今は・・

    「………へぇ。…それってどういう意味?」

    「先生少し気になりまして、皆さんのことを調べに行っていたんです」

    肌で感じる。空気が変わった。お互いがお互いを疑っているこの感覚。何かがピンと張り詰めたこの空間において、信じられるのは自分だけだ。


    「正体不明の暗殺集団、"限界"」
    「……。」
    「皆さんはそう呼ばれているようで。ここ数年で有名になったそうですね」
    「……もし俺たちがその…"限界"だったとして、せんせーはどうするの?保身のために追い出す?」
    「そんなことはしません。皆さんはもう私の生徒ですから」
    「…余裕だねぇ」

    かねごんが応えた。


    その瞬間、俺と焼きパンは左右に走ってターゲットの意識を撹乱する。そして走りながら銃を持ち変え、対殺せんせー用BB弾を準備。軽い音で殺せんせーに当たらないように発砲し続ける。焼きパンとタイミングを合わせて、弾幕を途切れさせないように。

    突然の攻撃に混乱したターゲットは逃げ道を探す。ターゲットが辺りを見回している間にかねごんが素早く姿を消す。

    弾幕の逃げ道は上にしか存在しない。つまりターゲットはこのまま上に飛ぶだろう。

    そこまでは読めている。

    木の上に待機していたかねごんがターゲットめがけて数発発砲。相手の反応速度がほんの少しだけ弾速を上回り、かねごんの弾はターゲットの顔の横と触手数本に掠るという結果に終わった。

    だけどまだ終わりじゃない。
    一撃を入れたかねごんが叫ぶ。

    「焼きパンッ!」

    超スピードで銃弾を避けた先に待つのは対超生物用ナイフを構えた焼きパン。焼きパンの反射神経は超生物をも超える。いくらマッハで動けるといっても、アイツの初速は人間に不可能な域のスピードにはならない。

    つまり、完璧な位置で待ち構えてた焼きパンのナイフはターゲットに当たるってこと。

    ドシュッ

    そんな音と共に、焼きパンが逆手に持ったナイフがターゲットの腹部に刺さった。

    「やった!」

    俺たちが喜びの声をあげた時だった。

    殺せんせーは俺たちの射程外まで離れると、ゼェゼェと息を荒らげながらこっちを見た。

    「……お見事。たった三人でここまで先生を追い詰めるとは……」
    「あれ?殺れてないの?」
    「まじかぁ…」
    「まじ?」

    よく見れば殺せんせーに与えたダメージは、もう目視できないレベルで回復しているようだった。もはや服に穴が空いているだけ。

    「なんでぇ?結構いいダメージ入ったとおもうんだけど…」
    「先生に対して人間と同じような急所を狙ったのが失敗でしたね」
    「内臓までいってるはずだけどなぁ」


    どうやら暗殺は失敗らしい。これを"暗殺"って言えるのかはわかんないけど。

    まあ、腹部へのダメージは無効って情報が手に入っただけ良しとするか。それに焼きパンのスピードがこの殺せんせーに通用するってのもわかったし。

    とにかく、もう殺せんせーにもこの訓練場にも用はない。殺せんせーに背中を向けて帰ろうとしたときだった。

    「……先生は、殺しに来た暗殺者を決して無事では帰さないのです」

    「……え?」

    「君たちの刃は錆びても鈍ってもいない。…ですが今日一日だけでも、油断、いや危機感のなさが見て取れます。暗殺者として致命的なまでの」

    「どゆこと?」

    「本名は隠しながらも、殺し屋の活動名義を簡単に名乗ってしまうこと。一般の中学生が見ているかもしれないのに実弾の銃を取り出してしまうこと。さらには腹にナイフを刺した時点での油断…」

    「俺たちアンタに説教されに来たんじゃないんだけど」

    俺がそう言って振り返ったとき、いつの間にか背後に迫った黄色の巨体は、陰った顔に目を光らせて、触手を奇妙に動かしていた。

    得体の知れない恐怖に負けじと足を止めてやると、うねる触手が俺たちの方に伸びてくる。

    最高速度はマッハを超えるその触手に覚悟を決めた瞬間だった。

    ────パン

    と軽い音が二回鳴った。それは俺たち三人の誰でもない銃声だった。向かってきていた触手はどろりと溶け、殺せんせーも驚いたようにそれを引っ込める。



    銃声の聞こえた先からは二人ぶんの人影が現れた。

    「……なにしてんの?」
    「そいつらに手ェ出されちゃ困んだよね」

    金髪で爽やかな笑顔を浮かべた好青年と、背が高くて目つきの悪いメガネの男。



    一切の足音を立てずに現れた二人のことは、さすがの殺せんせーでも気づけなかったようだ。

    二人は銃を向けたままジリジリとにじみ寄る。ここにいるやつらが戦い始めたら、それこそとんでもない戦場になりそうな張り詰めた空気。

    俺が警戒していると、殺せんせーはゆっくりと触手を下ろし口を開いた。その場にいた誰もが、自然とその動きに注目していた。妖しくも不思議なそれに魅せられていた。……目が離せなかった。

    「おや、随分と誤解を生んでしまったようですね」
    「……誤解?」

    殺せんせーが明るい声色でそう言ったとき、殺せんせーと俺たちを纏う空気はガラリと変わり、"殺意"の存在しない空間になっていた。お互いに殺意は見せず、穏やかさすらある気がする。きっとあの超生物がそうさせた。なんなんだあのスキル。……俺でもぐちさんでさえもできないことだと思う。こうやって"平和"を生み出すことなんて、限界の誰だってできないだろう。

    「彼らに危害を加える気など毛頭ありません。少し手入れをしようかと思いまして」
    「手入れ、ねェ………」
    「三人とも、お昼ご飯は食べましたか?先程教室でお菓子を食べていたのは見かけましたが…栄養が足りていないようです」
    「食ってないの?」
    「僕は…食べてないね」
    「「俺も」」

    ぐちつぼさんに聞かれ、俺たちは素直に答えた。だってご飯用意するの面倒くさすぎない?初日だったこともあって買ってくるのも忘れたし、購買もないし自販機もないし食堂だってもちろんないし。ほんとにここ私立中学?って理事長に文句言いたくなっちゃったよね。

    俺たちの答えを聞いてため息をつくこんそめさんとぐちさん。そして「やはりそうですか」と納得している殺せんせー。

    全く…食べてないからなんだって言うんだよ。普段不健康生活してるぐちさんに俺たちを叱る権利ないし。超健康そめさんのお叱りは……まぁ、多少なりとも…聞かないこともないけどさ。

    なんて反抗的な顔でぶすっと大人たちを睨んでいると、殺せんせーが動き出した。

    「ではこうしましょう。少々お待ちを」

    そう言ったかと思うと、俺たちが何かを考え始めるよりも早く殺せんせーはどこかへ飛んでいってしまった。

    「どこ行っ──」
    「──お待たせしました」

    次の言葉が出るよりも早く戻ってきた殺せんせーの触手には大掛かりな荷物が抱えられていた。

    手際よく並べられたそれは、大量の食材とバーベキューセットだった。

    「……なんだこれ」
    「時間は遅いですが、栄養補給にしましょう。健康的な食事にしようかと思いましたが……シンプルな肉のほうが食い付きが良さそうだったので」

    困惑している俺たちを他所にテキパキと肉を焼き始める殺せんせー。見たところ野菜はほとんど無く、肉を食らうためだけのバーベキューだった。

    「ほら焼けてきましたよ。ささ、どうぞどうぞ」

    勧められても…と戸惑っていると、殺せんせーは「ではお先に」といって食べ始めてしまう。その光景と辺りに漂う匂いにつられて、気づけば俺は箸に手を伸ばしていた。

    「おいたらこ!」
    「たらこさん…!」
    「いやいや、こんなん見せられてただ突っ立ってんの無理でしょ」

    「うんま!」と満面の笑みで言ってやると、満足そうな殺せんせーと諦めたような顔のぐちさんたち。かねごんと焼きパンは俺と同じくお腹がすいていたらしく、嬉しそうに手を伸ばした。ぐちさんもそめさんも椅子に腰掛けていつの間にか用意されていたコーヒーマグを片手に俺たちを眺めていた。

    「先生、かわいい生徒のために奮発してしまいました」
    「んふ、ありがとせんせ」
    「やったぁ」
    「いい人じゃん」

    素直に喜ぶ俺たちを呆れた目で見ているそめさんが口を開く。

    「コイツらがチョロくて良かったな殺せんせー」

    殺せんせーは否定も肯定もしなかったけど、俺たちを見る目は確かに大切なものを見る目だった。なんの裏もないその目を向けられるのはどうしても慣れなくて、どこかむず痒がった。


    ひと通り食べ終わったあと、先生の用意してくれていたキャンプ用の椅子に座り、みんなでのんびりお茶を飲みながら休憩にする。

    「さっきまでここは戦場だったはずなんだけどなぁ」
    「すっかり焼肉臭い平和な森になっちゃったね」
    「ほんと……せんせーってやばすぎ」
    「先生がやばすぎ……とは?」
    「ふーん………。じゃあそうやってわかんないフリしてればいいよ」

    一瞬にして俺たちの意識を戦闘から反らしたあのスキル。あれは、普通に生きてきた"教師"なら、例え超生物だったとしても絶対に身につくはずがないほど高度だった。恐らく同業者、それか人心掌握術に長けた人間か。正体の分からないあの超生物に恐怖と、それ以上の関心を覚えた。

    それに殺せんせーはずっと俺たちを"生徒"として見ていた。多分朝の時点で俺たちが殺し屋だってことには気づいていたと思う。それでも俺たちの様子を見て、体調を心配してご飯まで用意してくれた。ずるいなぁ。そんなの憎めないじゃん。生徒たちにも好かれてるんだろうな。

    ……大丈夫だよ殺せんせー、絶対に俺らが殺してあげるからね。

    「どうかしましたか?」

    殺せんせーのことを見ていたら、不思議そうに声をかけられた。

    「んー?なんでもない。……そうだせんせ!…なんで俺たちが殺し屋だって気づいたの?初日だし、それなりに普通に振舞ってたと思うんだけど」
    「そうですねぇ…。名前も気になってはいましたが、確信したのは握手をしたときです」
    「握手…?」
    「はい。三人とも、手の筋肉が普通の中学生よりか発達していました。これは実銃を構え慣れている人間の手ですよ」
    「あ〜、なるほどね。そんなとこでバレてたかぁ」
    「と言っても、皆さんそんなに隠す気もないのでしょう?」
    「まぁね。ぐちさんたちも俺たちも完璧に隠せるなんて思ってないし。この教室にこんなタイミングで転入してくる人間なんて殺し屋だけでしょ」
    「それもそうですね」

    この平和な空間で繰り広げられる会話は、まるで慕い慕われる生徒と教師のようだった。出てくる単語に多少の不安要素はあれど、生徒思いの教師と、少し生意気な生徒。それだけだった。

    明日からも続いていくこの奇妙な教室で、俺たちはすぐそこで穏やかな顔をしているターゲットを殺す。その目的だけは決して変わることはない。


    何か、俺の中で覚悟が決まったような気がする。

    軽い銃を手に取って、カチャリと殺せんせーの頭に向ける。

    「明日から、覚悟しといてよね。せんせー」

    「たらこからの宣戦布告か?」
    「いいねぇ」
    「ぼくも負けないよ」
    「あは、俺も俺も」

    「───えぇ、楽しみにしています」







    ***


    その日の帰り道。
    かねごんがふと思い出したように口を開いた。

    「そういえばさ、たらこ……普通に一人称"俺"だったけど良かったの?」
    「……え?」
    「いや、とりあえず女の子設定で行くのかと思ってたんだけど…」
    「え、俺……え?」
    「なに?まさか無自覚だったの?」
    「…う、ん」
    「あはは、殺せんせーにはほんとに"全部"バレちゃったね」
    「…………最悪」

    教室では女の子らしく振舞っていたはずなのに、殺せんせーとの戦闘時に素が出てしまっていたようだ。

    「やっぱ今から口封じしてこようかな」
    「やめとけやめとけ。今戻っても誰もいねェよ」
    「……ふ〜ん」

    頭の後ろで腕を組んで、不貞腐れながら歩く。向かう先はアジト。

    もう一度だけ校舎の方を振り返った。
    絶対に殺してやると心に決めて。


    ***










    地球滅亡まであと 2 これにて終了です。続きは本当に気長にお待ちいただけると嬉しいです。

    お読みくださりありがとうございました。
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