パラレルよくわかんない軸「宇宙人っているんだよ、やっぱり」
「……はあ?」
天馬のクラスの掃除が終わるのを待って、もう行こうかと鞄を肩にかけた時、コイツは急にそんなことを言い出した。
前からどこかおかしな奴だとは思っていたが、ついに頭までおかしくなったか。
「そんな怖い顔しないでよ剣城ぃ〜……、でも俺見たんだよ。この前の帰りさあ、空に変なのが浮いてたんだよ」
いつになく神妙な面持ちで天馬は続ける。
「なんかバス?車?と似てたんだけどさあ、それにクマが乗ってたの!でっかいぬいぐるみみたいな」
「…見間違いじゃねえのか?」
「違う違う!」
やっぱおかしいんじゃないだろうかこいつは。
「あれは絶対宇宙から来たんだぁー!」
そう叫んで天馬が腕を振り上げる。俺は呆れ果てて溜息しか出ない。
「どうせまた変な夢を見たとかいうオチだろ。いい加減にしておけよ」
「ちぇっ、バレたか。まあいいや、とにかく気をつけてね剣城。今日もサッカー頑張ってね!応援してるから!」
そう言って元気よく手を振ると、天馬は右足のサンダルを引き摺って自分の家へと帰って行った。
そして放課後。
いつものようにグラウンドへ向かおうとすると、背後から声をかけられた。
「おい剣城、ちょっと待ってくれ」振り返るとそこにはキャプテンの神童先輩がいた。
「なんですか?」
「ああ、実はな、今日の練習メニューのことなんだが…………」
先輩はそう前置きすると、今日の予定について説明を始めた。しかし途中で突然口ごもり、「ん?すまん、何の話だったかな?」と言い直す。
「いえ、別に大した話じゃないですから」
「そ、そうだな。悪かった、忘れてくれ」
それからは会話もなく、俺たちは無言のまま並んで歩き続けた。
しかししばらくして、ふと思い立ったように先輩が尋ねてきた。
「なあ、最近調子が悪いようだが大丈夫なのか?」
「えっ!?」唐突な質問に思わず戸惑う。
「そ、それはどういう意味でしょう?」
「その様子では自覚がないみたいだが…………。やはり疲れているんじゃないか?最近は特に顔色もよくないし…………」
確かにここ数日あまり眠れていないし食欲もない。しかしそこまで深刻な問題ではないはずだ。
「全然平気ですよ。心配してくれてありがとうございます」
「ならいいのだが…………」
なおも納得いかないという表情の先輩を残し、俺は一人グランドへと向かった。ところがその日の練習中、事件は起こったのだ―――。
***
練習が始まってしばらく経った頃だろうか。パスを受けようとボールを追いかけていた俺の背後に、何者かが現れた気配があった。咄嵯に身を翻して振り向こうとした瞬間、首筋にひやりとした感触を覚えた。
「動くな」
全身の血の気が引いていくような感覚に襲われながら恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのは何か神秘的な雰囲気を纏った緑髪の少年だった。
「久しぶりだね、剣城。いや……ここでははじめまして、かな?」
「……お前は…」
「僕はフェイ。未来人さ」そう言うと、彼はおもむろに俺の首筋に当てたナイフを引いた。刃先が皮膚に触れ、つうっと赤い血が流れる。
「な、何をするんだいきなり…………」
混乱しながらも抗議の声を上げると、少年は涼しい顔で答えた。「君を殺しに来たのさ。僕たちの世界のためにね」
「な……っ!?」
「まあ、これは流石にこけおどし用の冗談だけど」
そう言ってフェイは笑顔で指をパチンと鳴らし、持っていたナイフをどこかに消してしまった。
「お前は一体なんなんだ!どうしてこんなことをする!」「だから言ったじゃないか。僕らの世界のためだって」
「そんなことは聞いていない!なぜ俺を殺すのかって訊いているんだ!」
俺は詰め寄って怒鳴りつけたが、飄々とした風にフェイは語る。
「君を殺す…っていうのは一種の比喩だよ。僕が殺さなきゃいけないのは“この”世界だ」「この世界のどこがそんなに気に入らないんだ」
「全部だね」
そう答えると、フェイは肩をすくめてみせた。
「じゃ、そういうことで。バイバイ、剣城」
そう言ってフェイが右手を掲げると、見た事のない模様のサッカーボールが現れた。それが青白い光を放ち、俺の意識は遠のいていく。意識が消える間際に、青色の何かと車に乗り込むフェイが見えたような気がした。