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    よるの

    @9yoruhiru
    pixivに投稿する作品の気分転換のため生まれた奴らのたまり場。

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    よるの

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    夏のある日、サンズと猫の話🔥🦴
    Sansbyと言いつつ店主が全く出てこない
    炎の魔法熟練者なビーさんがみたい

     流れゆく入道雲を、ただぼんやりと眺めている。
     上から降りそそぐ熱と、布越しに伝わる、肌をこんがり焼くようなレンガの熱とで、完膚なきまでの猛暑に挟まれていた。
     だがまぁ焼く肌もなければ皮膚もないので、暑さによる身体的ダメージはほぼ無いものだ。
     なんなら道行く人々の、アイツこのクソ暑い中パーカーなんか着てるよ。みたいな視線の方で精神的ダメージを食らっている。

     ふいに、違うベクトルの熱をとなりから感じて顔を向けた。
     そこには炎の形をした猫。もしくは、猫の形をした炎。が、ただ雲を眺めていたオイラと同じような目でこちらを見ていた。
     ゆらゆら、踊る火の影と朱赤色。
     別に驚きはしない。全く同じように燃えている人物に覚えがあったし、なにより魔法の炎を動物の形に変えて使役する。なんて芸当が出来るのも、やっぱりそいつしか思い当たらなかったからだ。
     
     なんで猫かって言うと奴は猫派だった。
    忠実な犬より、ふらっと現れては去っていく猫の方が好きなのだそう。似たようなのを見慣れているし。と付け足した言葉の意味はオイラにはよく分からなかった。なんだそれ。
     とにかくその話題は一旦置いておく。
     んな事より、目の前にいる魔法はあまりお目にかかれない稀なものなんで、熱々のレンガの上に体を預けて、この少々ヘンテコな猫を観察することにした。


     数分、時が流れる。お互いなんのアクションも起こさず見つめ合うだけの状態だった。
     オイラはべつに、眺める対象がなんの変哲もない雲から、おそらく唯一無二であろう猫型火の玉に変わっただけなので良いのだが。

    「おまえさん。主人に似て寡黙なんだな。アイツ、理由も無しに魔法使ったりしないから、なんかオイラに伝言でも頼まれたかい?」

     自分で伝えに来ないでわざわざ難しい魔法を使ってコンタクトを取りに来るあたり、茶目っ気はあるのだ。意外にも。
     猫はスっと目のように見える所を細めて、口だと思われる所を開いた。
     本来ならニャーと可愛らしい声が聞けそうな場面なのに、届いてきたのは風に煽られ軽快に爆ぜる焚き火のような音だ。
     それでも、次第にその音は言語として変換されて、キチンと言葉として、オイラの頭蓋に染み込むように伝わってきた。
     音から声へ。魔法とはかくも便利なものであると再確認させられる。
    どうやら音声を炎に吹き込んで録音したものらしい。
     当然だがその声はもう何度も聞いた馴染みのものだ。とっくのとうに全骨に染み付いているような気さえしてくる。

    「フフッ。そのなりでアイツの声がするの、ウケるな。んで、なんだって?」

     まるで猫の姿になってしまった奴が目の前で話しているかのような感覚に陥る。笑ってしまうのはしょうがないだろう。なんせ面白すぎる。

    「ほーん、なるほど。近場のビル借りて屋上ビアガーデン。今年から。にしても急だな。どうせ暇してるだろうから今から来いって? ……ハハ、いる場所までお見通しかよ」

     なんで今いる場所を知っていて、この猫を送ってこれたんだ。誰にも伝えてないのに。とは思ったが、まぁ、それなりに奴とは長い付き合いなもんで。
     どうせお前の事だから、丁度今ごろはこの橋の上にいて、ボケっと雲でも眺めて暇を潰しているんだろう。と、奴は分かりきっていた。行動パターン大体読まれているようで、なんかちょっと気恥しい。
     要件を伝え終えると猫は静かになり、ぱちぱちクリクリとした目でオイラを再び見つめる。

    「んじゃあ、せっかく誘われた事だし顔出しに行くか。夕方くらいにどの道店に行こうと思ってたからちょっと早いけど。……ありがとうな、伝言届けてくれて」

     ご苦労さま。と労うよう頭を撫でてやる。
    触れている感触はあまりないが、猫はすりりと額を手に擦り寄せた。目を細め、どこか満足そうな表情を見せたのち、瞬間吹きすさぶ新樹風にのってふわりと舞い上がって消えてしまった。

    炎の猫なんてのに触れられるの、オイラくらいなもんだよな。……あ、パピルスも平気か。アイツも猫好きだし、きっと見たら喜ぶだろうなぁ。
     
     手のひらを見つめながらそんな事を考えた。
    消え去った熱がまだ手に残っているような気がする。
     夏の熱がなぜだか物足りなく感じる中、どこか少しうら寂しい思いをそのままに、奴が待っている場所へと向かった。
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