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    罪深き珀雷

    @koinosasimi

    普通に上げれないものを上げるかもなと

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    罪深き珀雷

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    夢小説かこれ

    橙、翠、紫 後編。リビングに持ち込まれたホワイトボードに大きく書かれた『念』の文字。それを囲む様に四隅に、『纏』『練』『絶』『発』と書かれている。
    「ここに来て半年…お前らもある程度は成長したからな。次の修行に入る……念の習得だ」
    「「「念?」」」
    三人揃って首を傾げると、モラウは説明を始めた。
    「俺達人間の体には、オーラと呼ばれる生命エネルギーが溢れている。ほとんどの人間はそれを垂れ流しにしたままにしているが、これを自分のものにして操ることが出来るようになる能力のことだ。よくテレビとか本とかで見る仙人や超能力者みたいなもんだと思ってくれていい」
    指示棒を手にすると、まずは『纏』を指した。
    「さっきオーラは垂れ流しになってるって言ったな。それを肉体に留めるのが纏。逆にこれを絶つ…つまり、消すと『絶』になる。『練』は通常以上のオーラを生み出す。分かるかどうかは別として見てろよ?」
    モラウが深呼吸して、グッと踏ん張ると、ナックルとシュートはすぐに圧迫感を感じる。
    「どうだ?」
    「なんか…すげぇ、威圧されてるっていうか…」
    「圧迫感を感じます」
    「ラキはどうだ?」
    「うーん……なんとなくですね」
    「(……これはまた苦戦、だな)よし、それじゃあ最後に『発』についてだ。お前ら最初にこの家を見つけた時のこと覚えてるか?」
    「あ!なんか煙で文字書いてたやつ!」
    「そうだ。それが俺の『発』…俺は煙を自在に操ることが出来る。『発』っていうのは人によって違う。オーラを氷に変えたり、異次元に部屋を作ったり……ま、お前らがどんな能力になるかはこれからの修行次第ってとこだな」
    「そのオーラというのはどうやって身につけていくんでしょうか?」
    「瞑想だ。自分の中に流れてるオーラを感じとり、身体中をオーラが包んでいることを実感していくんだよ」
    「瞑想か…俺じっとしてんの苦手なんだよな…」
    「アタシも…」
    「んなもん慣れだ慣れ。とりあえず始めるぞ」

    三人は正座して目を瞑る。その後ろでモラウは椅子に座りながら本を読む。
    「いいか?まずは血液の流れを意識するんだ…ナックル、集中しろ」
    「痛ったっ」
    傍らに置いたハリセンでナックルの頭を叩く。
    「ラキ、お前もだ」
    「あいたっ」
    一時間後、反省の正座慣れしているナックルとシュートはまだ大丈夫そうだが、ラキは限界そうだ。
    「(足辛いなぁ…でも崩したら怒られちゃうなぁ…)」
    「やめるか?ラキ」
    「いいえ!」
    「(もう絶対、置いてかれたくない…!)」
    だが、この日はただ瞑想するだけで終わった。

    それから、トレーニングの合間に瞑想の時間を三時間設けていくこと四ヶ月……。

    「ナックル、シュート。どうだ?わかるか?」
    「はい。体に何か…お湯のように暖かいものがまとわりついているような気がします」
    「これが、オーラってやつっすか」
    二人は念の修得の兆しが見え始めたが、ラキは未だに何も感じることが出来ない。
    「(焦っちゃダメよアタシ…また心配かけちゃう……大丈夫、まだ追いつける。追いつかなきゃ…)」
    「ラキ、集中切れてるぞ」
    「はい…っ」
    もう一度集中しようとすると、ドアが勢いよく開けられ「妹を返してもらおう!」という言葉と共に、ラキと同じ翠の髪をした男が入ってきた。
    「何だテメェ!?」
    ナックルが詰め寄ったが、男は手首を掴んで軽々と投げ飛ばす。
    190cm以上はありそうなスラリとした体、鋭い萩色の目、どれをとっても強そうだと感じたシュート。なにより、念を覚えかけてみて気づく。オーラの格差を。
    「ラキ、帰ろう」
    「お兄ちゃん……」
    ラキは立ち上がると、お兄ちゃんと呼んだ男の前に立つ。
    「ハンター試験の事を言ってくれなかったのは悲しかったが…でも、無事に合格したのは嬉しい。今は、念の修行か?なら家でやろう、俺が教えるから」
    「おいリスタル。勝手に入ってきて連れて帰るだぁ?馬鹿言ってんじゃねぇ、ラキは俺の弟子だ」
    「黙れ。兄として妹を在るべき場所に連れ帰るのは当然だろう。世話になった分のメシ代は払うからこれ以上関わらないでもらおうか」
    さ、行こう。とラキの手を掴もうとすると振り払われてしまった。
    「やだもん!また一人になっちゃうもん!!絶対に帰らないから!!」
    半ば怒鳴るように言って、ラキは家から走り去った。「付いてこないでねお兄ちゃん!」の言葉と共に。

    「うわぁぁぁぁ!嫌われたぁぁぁぁ!!!」
    さっきまでの堂々とした冷徹な姿はどこへやら、膝から泣き崩れて叫ぶリスタルの姿をドン引きしながら見下ろす三人。
    「ナックル、大丈夫だったか?」
    「お、おう……寧ろこっち心配すべきじゃね?」
    「ラキに嫌われたら俺はどうしたらいいんだぁぁぁぁぁ!!折角色んなやつから聞き込みして捜索隊も作って探させたのにぃぃぃ!!」
    「知るか。…コイツが落ち着くまで俺が見張ってるからお前らはラキ追いかけてこい」
    「わかり、ました…」
    床と一体化しそうなくらい落ち込んでいるリスタルに背を向けて、二人はラキを探しに行った。

    約三十分後、夕暮れの海岸に一人で佇むラキの姿を見つけた二人。
    「お前の兄貴、なんかすげぇ泣いてたぜ?」
    「戻った方がいいんじゃないか?」
    「やだ!だって、戻ったら…一人になっちゃうから……もう、一人は嫌なの」

    物心ついた時からだったと思う。
    五つ上のお兄ちゃんは、パパ達の助けになろうとよく勉強していたからあまり遊んでくれなかった。
    パパもママも忙しくてたまにしか構ってくれなかった。
    寂しかった、でも、笑っていなきゃ皆が悲しむって思ったから笑ってた。
    小学校に上がった時だったかな。
    本当はお嬢様が通うような学校に行くはずだったけど、アタシ、それが嫌だったの。なんでかは分からない。多分その時見てたアニメで普通の子供に憧れてたからかもしれないね。
    ………けど、お嬢様だから、お金持ちだから、先生は特別扱いしてくるし、周りにも仲間外れにされて友達なんて出来なかった。
    中学生になる前にお兄ちゃんがハンターになって、パパとママは事故で亡くなったの。
    お兄ちゃんは頭が良かったから、ライバルの財閥や悪い親戚に家を乗っ取られまいとして一人でそいつらと戦い始めたの。
    アタシも強くなりたかった。お兄ちゃんを支えられるように、でもどうしていいか分からなかった。
    ハンターになれたら、同じ世界が見れるのかな。
    そう思って、体を鍛えてハンター試験に望んだの。
    ハンターについて調べてる時、美食ハンターが一番面白そうとも思ったけど、何より、お兄ちゃんのしてきたことが凄くて、アタシもそうなれるかなって………。

    「だけど、試験を受けてる中で二人に会って、初めて他人と仲良くなれたのが嬉しくて……離れたくないなって思ったの。だから、あんなこと言っちゃった。お兄ちゃんの事本当は大好きなのに」
    萩色の両眼から大粒の涙を零して大泣きするラキ。泣き止むまで二人は傍にいた。


    家に戻ってくると、リスタルがラキに飛びつくように抱きついた。
    「ラキ!!やっぱり帰ろう!」
    「やだって言ってるでしょ!アタシはここにいたいの!」
    リスタルを無理矢理引き剥がすと、しっかりと見つめて自分の思いを口にした。
    「漸く一人じゃなくなったの。それにね、お兄ちゃんが思ってるよりアタシ大人なんだよ?」
    「ラキ………本当にここに残りたいんだな?」
    「うん」
    「そうか……」
    一瞬、哀しそうに笑うと、ラキを思い切り抱きしめた。
    「お前がそうしたいなら、そうするといい。俺は応援するよ。だけど、定期的に連絡はくれよ?」
    「わかったよ。ありがとう、お兄ちゃん。…大好き」
    『大好き』このフレーズがリスタルの胸に刺さり、その場で左腕を天に突き上げて
    「お兄ちゃんに生まれて一遍の悔いなし!!」と叫んでスキップで帰って行った。

    「何だったんだよ…」
    「シスコン…を拗らせただけだろう」
    「ま、何はともあれ一件落着だな。ラキ、瞑想途中だろ?」
    「そうだった!」
    ラキは慌ててリビングに戻り、正座する。
    「(なんだろう…凄く、エネルギーが体に満ちてる……溢れちゃいそう…体に…コートを着るような感じで、こう……)」
    目を瞑った瞬間に、体を覆う何かに気づいたラキ。
    「これは……リスタルの野郎やりやがったな」
    「なにがっすか?」
    「あの野郎、ラキに抱きついた時に自分のオーラで刺激して強制的に念に目覚めさせたんだよ。シスコンにも程があるだろ」
    「やってはいけないこと。なんですか?」
    「ああ、外法だからな。だが、モノにしちまったから何も言えねぇな。おいラキ、瞑想止めていいぞ」
    「えっ!?あ、はーい!」
    瞑想を止めて立ち上がると、ラキは凄く明るく言った。
    「なんか、身体中に力がぶわーって来て、それを纏わせたらなんか強くなった気がしました!」
    「それが纏だ。いやぁ、一日でコイツら追い越すとはよくやったな」
    そう言ってラキの肩を叩く。
    「えへへ……。後でお兄ちゃんにメールしなきゃ!」
    数分後、自家用ヘリの中で幸せ死するリスタルがいた。

    それから二ヶ月後、纏、練、絶の修行を終えた三人は、リビングで次の修行の話を待っていた。
    三人の目の前にあるテーブルに置かれたグラスには水が入っており、葉が浮いている。
    「今から、発の修行をするが……その為にお前らの資質を見分ける必要がある」
    「資質?」
    「念は六つの系統がある。強化系、放出系、変化系、操作系、具現化系、特質系だ。それを調べるのにこの水見式という方法を取る」
    モラウはコップの近くに手を添えて、練を行う。そうすると、葉が大きく揺れた。
    「こういう風に、コップに向かって練を行うんだ。ちなみに葉が揺れたら操作系だ。ナックルからやってみろ」
    「押忍っ」
    ナックルがやると、水は薄いオレンジ色になった。
    「放出系、だな。そんな気はしてたが。次はシュート」
    「はい」
    葉が微かに動いた。
    「モラウさんと同じ、ですね」
    「じゃあ次アタシだね!」
    水は少し濃いめのピンク色になった。
    「放出系だー!で、どうするんですかこれから?」
    「発を毎日行え。その間何となくでいいから使いたい技とか能力のイメージを付けとくように」


    「……って言われたけどよォ。全然思いつかねぇな」
    「アタシ、クリスマスのご馳走のことしか考えてなかったよ」
    「それもそれでどうかと思うが…放出系はオーラをその名の通り放出するんだろう?例えるとしたらビームみたいに」
    「それはなんか違うんだよ」
    「そうそう」
    知恵熱が出そうなほど考え込む三人。
    「なーんかなぁ………」
    ラキは何となくでテレビをつける。
    丁度バトル系のアニメをやっていて、敵が斬撃を飛ばして主人公達を攻撃していた。
    「……これだよこれ!!!」
    何か閃いたのか、ラキは二階に上がって刀を取ってくると、冷たい海風の吹く外に出ていった。
    二人も後を追って外に出る。
    「ちゃーんと見ててよね!」
    刀を抜いて、オーラを込める。この時点で応用技である周を会得したのだが本人は知らない。
    「こうやって、刀にオーラを込めて…斬る!」
    正面素振りの動作を行うと、オーラの斬撃が飛んで、少し離れたところにあった木に当たった。
    「うーん…斬れなかったなぁ」
    「多分、それは変化系の能力だからじゃないか?」
    「『斬る』ってなると、オーラを刃物と同じ質にしなきゃいけねぇだろ」
    「なるほどねぇ……難しいなぁ…」
    「発を行いながら考えてけばいいさ」

    その日の夜、ラキはリスタルに連絡を入れた。
    「あ、もしもしお兄ちゃん?」
    「ラキ!!どうしたんだ?何かあったのかい?」
    「あのね、念の事で相談があるんだけど……」

    数日後。
    「何描いてるんだ」
    「マスコットのポットクリンとトリタテンだよ」
    「マスコット?具現化系じゃないだろお前」
    「形ってのは重要だろ」
    などと部屋で二人が話していると、ノックなしにラキが入ってきた。
    「ねぇー!完成したよアタシの技!!……何やってるの?」
    「ナックルの意外な画力に驚いてたところだ」
    「意外とか言うな」
    机の上に置いてある紙をラキは覗き込む。
    「可愛いー!すっごい可愛いじゃん!なんて言うの?この子達」
    「ポットクリンとトリタテンだ。ついでだから能力の説明もするか。まず、総オーラ量ってのがあるだろ……」
    ナックルは自身の能力について話し始めた。
    「つまり、金貸しみたいなものか」
    「そうだ。で、こいつの利息が相手の総オーラ量を超えると……破産する!相手は強制的に絶の状態になる!」
    と言い切ったところで、途中から訳が分からなくなっていたラキの頭がパンクした。
    「す、すごいね……」
    「で?ラキは何しに来たんだよ」
    「そうそう、忘れるとこだった!あのね、完成したのアタシの能力」
    「速くないか!?」
    「ふふん。ま、見ててよ。先生も呼んでこなきゃ!」

    外に出ると自信満々に刀を抜く。
    「これからアタシの能力『乙女の翽(アゲハチョウ)』について説明するね!というか見てもらった方が早いかも」
    刀を構えて、オーラを纏わせる。
    そして、前回と同じように振ると鋭い斬撃が飛び、林の木を何本か切り倒した。
    「すげぇじゃねぇか!」
    「驚くのはまだ早いよ。見てみてここ」
    ラキは、斬られた木の一本を指した。
    樹皮の断面の辺りから樹液が染み出してきている。
    「樹液が出ているだけじゃないのか?」
    「も少し見てたら分かるよ」
    数分して、異変に気づく。
    「そろそろ乾燥して固まってもおかしくねぇのに…止まらねぇ…!?」
    「そ、これがアタシの乙女の翽。斬られたら絶対治らない斬撃…まぁ、絶対っていうのは嘘だけどね。この効果、アタシが外そうと思えば外せるし、気絶したら消えちゃうし。でもそう言っとけば相手もビビるでしょ?」
    「凄い能力だな…」
    「でしょでしょー!?」
    褒められて上機嫌になるラキに、やけに真剣な顔でモラウが訊いた。
    「制約と誓約を使ったのか?」
    「…はい」
    「なんすかソレ?」
    「念を強化する為のルールみたいなもんだ。このルールに従えば強力な能力を得られるが、破れば相応の代償がつく。あまり教えたくはないがな…」
    「お兄ちゃんも言ってました。アタシの考えた能力はリスクが高すぎるって。放出系なのに変化系の能力を持ったまま高威力を保つのは」
    「どんな、代償を負ったんだ…?」
    柄を握る手を強めながらラキは答えた。
    「…『斬る覚悟』なしに刀を振ると、自分が斬られるの。使用オーラに応じてね。…見た方が早いかな。ちなみに左腕から斬れるようにしてるの」
    軽く念を込めて刀を振ると、左腕が薄く斬れて血液が静かに流れた。
    それを見た三人は驚いたが、シュートだけは同時に罪悪感を覚えていた。
    『彼女に辛い枷を負わせてしまった』と。
    左腕から傷ついていくのも、斬る覚悟を条件にしたのも恐らく最終試験の出来事が元になっているせいだ。
    何でそんな能力に。お前が傷つく必要は無い。そう言いたかった。
    しかし、一度出来た能力。決められた彼女の覚悟。それを崩すような言葉などかけられる訳がなかった。
    「どうですか?先生」
    「いい能力だ。それしか言えねぇよ」
    「……」
    「寒いし中戻るか。お前らも頑張れよ?クリスマスまであと一週間くらいしかないからな」

    二日後。
    シュートが発を行っていると、ラキがやって来て隣に座った。
    「どういう能力にするか決まった?ナックル君はもう少しでできそうなんだって」
    「知ってるさ。……俺は捕獲に特化した能力にしたい。絶対とまではいかないが、かなり強力なやつだ」
    「でも、中々イメージが出来ないって感じ?」
    「……そんなところだ」
    「じゃあさ、映画見に行こうよ!この間買い物してたら抽選でペアチケット貰ったの!」
    「何故そうなる」
    「意外といいヒントあるかもよ!さ、行こー!」
    無理矢理引きずられるようにして、シュートはラキと共に街に向かった。

    映画館に着くと、ラキが何を見たいか聞いてきたので、上映される映画のラインナップを見上げる。
    あまり、テレビも映画も見ない方故にタイトルを見てもピンと来ない。
    「……こういうのはナックルかモラウさんと来た方が良かったんじゃないか?俺は映画には疎いから、一緒に見ても楽しくないだろう」
    ラインナップの掲示板を見たまま言ったから、ラキがショックを受けたような顔をしたのには気づかない。
    「…………迷惑、だったかな」
    「そんな事は無い」
    「…ほんとに?」
    「ああ」
    「……決まった?見たいの」
    「一応、な」
    受付に行く二人。
    「この『籠の中の小鳥』を…あ、支払いはチケットで」
    「かしこまりました」
    ペアチケットを濃い口紅の受付嬢に渡すと、二人分の小さいチケットになって返ってきた。


    映画はミュージカル系のものだった。
    お姫様と平民の切ない恋物語というベタな話だ。
    城の塔に監禁されてしまった姫を、男が助け出そうとしたが直前で殺されてしまい、姫はそのショックで自害した。
    隣からすすり泣く声が聞こえたと思ったら、ラキがありえないくらい泣いていた。感受性が豊かだとこんなにも泣けるものなのか。
    俺は、男に出会うまで心という檻の中に閉じこもっていた姫が、何だか自分を見ているようで落ち着かなかった事しか覚えていない。
    それと…「何かを傷つけなければ得たいものも得れない」という劇中のセリフに酷く共感したな。


    劇場を出ると、グッズ売り場にラキが向かったのでシュートもついて行った。
    「ねぇ見てあれ。お姫様が閉じ込められてた鳥籠じゃない?」
    「……」
    普通だったら誰が買うんだと笑いながら素通りするところだろう。
    だが、シュートはこの檻と先程の劇中の台詞で閃いた。
    「買っていきたいが…持ち合わせがないな」
    「アタシ買おうか?映画に付き合ってもらったお礼に」
    「……次の小遣い配給まで待つさ」
    シュートはそう言ってその場から離れようとする。
    「よし…!……シュート君、アタシもうちょっと見てるね」
    「外で待ってる」
    「わかったー!」
    彼の姿が見えなくなると、ラキは鳥籠を手に取った。


    これを買ったのも、映画に誘ったのも償いの一つにしか過ぎないの。
    きっと、どれだけ尽くしてもアタシの罪は消えないと思うの、だから…尽くせるだけ…。


    クリスマス当日の夜。
    ラキが大体作った豪勢なディナーを食べ終えた後、彼女は実家から送られてきた、やたら大きなプレゼントを開けていた。
    「何届いたんだよ」
    「えっとねぇ……」
    中に入っていたのは大量の菓子だ。しかも全て有名メーカーの高級なもの。
    「てっきり宝石とかドレスだと思った」
    「そうなると思って事前に断っといたの。皆で分けよ!」
    「俺は甘いもん好きじゃねぇからお前らで分けとけ」
    「お兄ちゃん、その言葉も予想してたみたいですよ。はい!」
    ラキは、菓子に埋もれていた高級ブランデー五本を取り出した。
    『妹が世話になってるから一応礼を言っておく』というメッセージカードも一緒に。
    「どこまでも生意気な野郎だな…何返せばいいんだよ」
    「ラキの写真とかでいいんじゃないすか?」
    「本当に喜びそうで怖いな…」
    事実、この後メールでラキの写真を数枚送ると、リスタルはハイテンションの勢いでジャンプしたら家の天井を壊した。
    それは置いといて。
    「実はアタシからも三人にありまーす!」
    「嘘だろ!?俺ボスの分しか用意してねぇよ!」
    「俺もだ…」
    「だらしねぇなぁお前ら二人。モテねぇぞ」
    「いいのいいの、アタシが好きでやってる事だもん!ちょっと待ってて!」
    ラキは一度部屋に戻ると、プレゼントを抱えて戻ってきた。
    「先生には、ネクタイ!」
    「ありがとよ。ほら、俺からはこれだ」
    交換するように渡したのは髪ゴムのセット。
    「ありがとうございますー!!髪伸ばしてこうと思ってから丁度いいですー!……あ、次はナックル君!あなたにはこれ!」
    ナックルに渡したのは欲しがってたコミックの全巻セット。
    「いいのかよホントに……!…今度、返すから欲しいもん考えとけよ」
    「うん!うさぎのぬいぐるみでいいよ!で、ラストはシュート君!」
    「これは…」
    あの日、映画館で欲しいと思っていた鳥籠であった。
    「高かったんじゃないか?」
    「ぜーんぜん!」
    「…ありがとう、ラキ。大切にするよ」
    そう言われて、ラキの顔が真っ赤になる。
    「いや、その…うん、喜んでもらえて、嬉しいな…」

    その日の夜中、ラキはベッドの上で一人嬉しそうに笑って眠りについた。

    ………償いなのに嬉しくなっちゃうアタシ、どうかしてるかも。



    年が明けて、二月に差し掛かる頃、モラウは三人に告げた。
    「能力も様になってきたからな、これから実践に入る」
    テーブルの上にいくつかの書類を置いた。
    「俺が適当に見繕ってきた依頼だ。この中から三つ好きなの選んでクリアしてこい。三人とも無事に出来たら最終試験だ」
    三人は息を飲み、書類に目を通し始めた。


    夕陽が射し込む灯台の最上階。
    依頼を選んだラキは一人で水平線に落ちていく橙の太陽を見つめる。
    「…ラキ」
    「シュート君!どうしたの?もうご飯の時間?」
    「それもそうだが…依頼が不安なのか?お前はいつも悲しいことや不安なことがあるとここに来るだろう?」
    「うん。だけどね……」
    もしも死んじゃったら、あなたに償えないまま死んじゃったら…アタシはそれが嫌だ。
    なんて言えない。
    でも、先にある望みを言うくらいなら……。

    「ううん、なんでもない。ねぇ、シュート君、一つお願いがあるの」
    「何だ?クリスマスプレゼントの礼が決まったのか?」
    「まぁ、そんなとこ…。あのね、最終試験が終わったら二人で暮らさない?」
    「……」
    「念能力を使えば生活に不自由することは無いってのは分かってるよ。でもね……シュート君はほっといたら、簡単なものでご飯済ませようとするでしょ?ちょっとそれが心配、なの」

    こじつけみたいな理由。断られる覚悟で言った自己満足の償いという願い。

    「…ラキがそうしたいなら俺はその通りにするよ」

    その提案が彼女の償いであることは分かっていた。
    俺と一緒に暮らすことでその償いが終わるなら、小さな背中に背負わせるには重すぎる枷を解くことができるなら、俺に出来ることがそれくらいしかないのなら従おう。

    「…頑張ろうね、最終試験まで」
    「ああ。…戻ろうか二人が待っている」


    翌朝、それぞれ荷物を持って港に着いた。
    「一発目から死ぬんじゃねぇぞ」
    「わかってるさ」
    「絶対に三人で最終試験受けようね!」

    橙、翠、紫……出会って、ぶつかって、混ざって、別れて、また混ざって……。
    彼らの道はまだ始まったばかりだ。
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