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    罪深き珀雷

    @koinosasimi

    普通に上げれないものを上げるかもなと

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    罪深き珀雷

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    ラキちゃんがキメラアントになってた場合のifストーリー

    wisteria「皆逃げて!」
    村人達の避難を誘導しながら、ラキは相手を見極めようとする。
    虫と動物、場合によっては蟹や魚と合わさったような生き物達。
    「これは捕獲の方がいいかも…」
    たまたま美食ハンターの仕事でNGLに仕事に来ていた。
    国の規定のせいで武器は刀から木刀になってしまってはいるが、能力を使う分には問題ない。
    しかし、未知の生物となると捕獲して危険度や生態を学会に伝えねばと思ってしまうのはハンターの性。
    なにより、彼女の好奇心が働いた。
    「もしかしたら、いい食材かも…」
    木刀を構えると、捕獲対象に向かっていき次々と攻撃して行くが、外殻が硬くて怯む様子すら見せない。
    「……シュート君がいたらな…」
    想い人の姿を脳裏に浮かべるが、それだけで胸が切なくなり隙が生まれ、その隙を突かれてしまった。
    背後にいた蜂を模したような生き物が飛ばした針がラキの項に刺さる。
    「あっ……(嘘、神経毒…?!)」

    暗闇に落ちていく意識の中でラキは涙に昏れる。

    謝りたかったなぁ………。


    彼女は異質だった。
    他の蟻よりも遥かに強く、部下を持とうとせず、それでも狩りとなると他の隊について行って確実に餌を調達してくる。
    特に俺の隊についてくることが多かった。
    「……強いのいた?」
    透明になって姿を消している俺を簡単に見つけて来るのは気味が悪いが、その緑がかった目に見つめられるのは悪い気がしなかった。
    「いや、雑魚ばかりだった」
    「そう……」
    つまらなそうに手の甲の鎌をしまい、遠くを見る。
    「つまらないわ」
    「そんなに戦いたいのかよ」
    「ええ。確かめたいの自分の強さを。100%勝つ気でやるから負ける心配はないわ」
    「へぇ、そうかい」
    「…戻ろ」
    なぁ、なんでいつも寂しそうな顔なんだ?
    俺は彼女といる時、常にこの疑問を抱えるが、聞く気にはなれなかった。


    周りが名前を、そして念を持つようになってから、彼女……オルバは更に異質さを、いや、孤独を増した。
    皆分かったのだ、彼女がネフェルピトーのように元から念を持つ存在で、護衛軍程では無いがどの師団長よりも強いことが。
    だから、恐れるように避けた。
    ザザンだけは嫉妬に近いものを覚え、よく突っかかっているが。
    「ごきげんよう、オルバ」
    整った指先でオルバの触覚を弾く。
    「……何か用?」
    「私と勝負しない?」
    「勝負?嫌よ。アタシがしたいのは戦いだから。それに勝てないのに挑むの馬鹿じゃない?」
    「こいつ……!」
    「こんなことに時間割いてないでもっと質のいい餌探してきなよ。はぁ……なんで皆、質を見ないのかしら、調理も雑だし…」
    「ちょっと強いからって…調子乗ってんじゃないわよ!」
    ぶつくさ言いながら去ろうとするオルバに向けて、ザザンは尾の毒針を刺そうとしたが、振り返ることなく掴まれてしまった。
    「蟷螂の視界は蠍より広いんだから。常識」
    パッと離して振り返る。
    「じゃあね」
    悔しそうに歯噛みするザザンを置いて颯爽と去っていき、外に出た。
    「多分、いるんでしょ」
    「やれやれ、バレたか…」
    透明化していたメレオロンが頭を掻きながら現れる。
    「神の不在証明もまだまだってか」
    「ううん、そんな事ない。勘でいるような気がしただけ、ほんとに居ると思わなかった」
    「そうかい。……お前さん、人間の時も強かったのか?」
    「分からない。でも、元から自在に念を使える辺り強かったんだと思う」
    「覚えてねぇか、そりゃそうだよな」
    「全部忘れてるわけじゃないけど」
    オルバは満月を見上げる。
    「100%勝つ気で戦うってことは誰かから教えて貰ったことだし、それにね、いつも…謝りたいって思ってる」
    「誰に?」
    「それが分からないの。いつか思い出せるといいけど…」
    ………あの夜もこんな綺麗な夜空だった気がする。
    あの夜って何だろう。



    ある日、シュートとナックルは師匠であるモラウに呼び出された。
    「NGL……」
    「キメラアント討伐…!?」
    「そうだ。俺とノヴ、そして会長で行くんだが…援軍も用意しなきゃならねぇ」
    「俺達がその援軍っすか?」
    「そうなんだが…一つ条件がある」
    そこで言葉を区切ると、木片を渡す。
    「割符、ですね」
    「一ヶ月の間にこの割符の片割れを持ってる奴らと戦って取ってこい。それが条件だ」
    「なんでそんな条件…」
    「お前らは強いが難があるんだよ。……おっと、そろそろ行かねぇとな。お前らも支度して現地迎えよ」

    モラウは口には出さなかったが、二人は分かっていた。

    「キメラアント…討伐か」
    「不服そうな顔だな」
    「そいつのこと何も知らねぇまま殺る……はぐれ者を切るってやり方は好きじゃねぇな。そんなことさせるかよ……!」
    「甘いなお前は」
    「だとコラ?そういうテメェは討伐出来るのかよ」
    「……出来るさ」
    「…強がんなよ」
    二人の間にピリピリとした空気が流れる。
    「ラキ、お前はどう思……」
    ナックルはいつもならいるはずのもう一人の弟子に意見を求める癖が出たが、そこに彼女はいなかった。
    「……本当に連絡つかねぇのかよ」
    「ああ、NGLに仕事に向かったきりだ。……一ヶ月か…」
    連絡がつかなくなってから探しに行きたい気持ちはあった。
    しかし、体が動かなかった。
    自分の臆病さを呪っているところに舞い込んだこの仕事。
    絶対に割符を取らなければ。どんな手を使ってでも。

    そして
    謝って、あの小さな手を握って家に帰ろう。


    「ねぇ、兵隊が消えてってるの知ってる?」
    「ああ。今対策練ってるみたいだけどな」
    オルバは楽しそうに口元を緩めた。
    初めて見せた表情にメレオロンは思わず見蕩れてしまう。
    「アタシちょっと、行ってくる。……やっと戦えそう」
    「お、おい!」
    メレオロンがその手を掴もうとしたが、オーラで弾かれた。

    異変に気づいたのはモラウだった。
    「……これは雑魚じゃねぇな」
    森を覆う煙にオーラを含ませている為、解ったのだ、歩き方からして違うと。
    「どうする?送るか?」
    「いや、もう少し様子を探る。…似てんだよ、歩き方が」

    「この煙…オーラが混ざってる。不思議ね、このオーラ初めての感じがしない」
    ズキリ、と胸が傷んだ。
    「………やっぱやめよう。気乗りしない」
    望んでいたはずの本格的な戦い、それを捨てた理由は分からなかった。

    戻ってきたオルバを安心したような顔で迎えるメレオロン。
    「オルバ!無事だったか!てか、早く隠れとけ、コルトがキレてるからよ」
    「それは大変ね。忠告ありがとう」
    「…戦ったのか?」
    「気分変わったからやめたの。いえ、正しく言うなら心が拒絶したの」
    「は……?」
    「アタシもよく分からない。じゃ、またあとでね」

    謝りたいの。
    誰に?
    …………君。
    え?
    …………君に会って、謝らなきゃ。
    …貴女は、アタシの何なの…?
    アタシは、あなた。あなたは、アタシ。



    「…今になって思うんだけどさ」
    車内でキルアは言った。
    「シュートと戦った時、すげぇ気迫だなって思ったんだ。俺と同じくらい、いやそれ以上に絶対に勝ってやるって気持ちが強い気がした」
    「会いたいからな」
    「…?」
    ゴンもシュートの方を見る。ナックルは顔を背けたまま、耳だけ傾ける。
    「NGLの話を受ける少し前だった」

    俺とナックル、そしてもう一人…ラキという女性がモラウさんの弟子だ。
    彼女は一ツ星の美食ハンターで、料理センスも勿論のこと、戦闘のセンスはずば抜けていて、俺もナックルも一度も彼女に勝てたことは無かった。
    強くて、明るくて、優しくて…でも少しおっちょこちょいだし、直感で動き回る危なかっしいところがある。そんな女性だ。

    ハンター試験で彼女と知り合ってな、最終試験の時に彼女は誤って俺の左腕を斬ってしまった。
    彼女はそれの償いがしたいというのを隠して、俺に同棲を持ちかけてきたんだ。
    彼女にこれ以上俺の事で苦しんで欲しくなくて、償いが済めば開放されると思って承諾した。

    仕事上、すれ違うことは多かったが、彼女との暮らしは悪くはなかった。

    だが、あの日、あの晩、俺が全部壊してしまったんだ……。


    シュートは酔っていた。脳が鈍る程に。
    故に、常日頃思っていた事を口にしてしまった。
    「ラキ……いつになれば償いは終わるんだ?」
    「……シュート君?」
    「いい加減やめたらどうなんだ、俺はもう充分なんだ」
    「でもアタシ…」
    「すれ違ってばかりなんだ、同棲といっても一緒にいることは少ないだろう?これ以上暮らしていても意味は無いと思うんだ」
    冷たい言葉になってしまったのは、彼女が離れやすくなる為だった。というのは言い訳かもしれない。
    無意識の所では…

    「アタシ、迷惑だったの…?」

    元来、一人で居たい方だった。生活だって特に困ることは無かった。
    それなのに甲斐甲斐しく世話を焼き、閉ざしている心に入り込もうとする彼女にどこか鬱陶しさを感じていたから言ってしまったのかもしれない。
    「………」
    「なんで早く言ってくれなかったの?」
    やってしまったと思った。
    なのに、謝罪の言葉が出てこない。
    「そうやって、自分の気持ち隠すの悪いところだよ!臆病で、長く一緒にいるのに心を許してくれてないことも!」
    「今言うことなのかそれは」
    思わず反論してしまっていたからだ。
    「言うよ!この際だもん!!起きるの遅いから朝ごはん温め直さなきゃいけないし、レポートに没頭すると部屋散らかすし、仕事で何か辛いことあっても話してくれないし!」
    「そっちこそ、早朝から煩い上、部屋の片付けして間違って書類捨てたりするだろう。度々下着のままで彷徨いたりするのも迷惑だ。俺に過干渉してこようとするのはもっと迷惑だ」
    数年間の不満をぶちまけた時、首が飛びそうなくらいの強いビンタを右頬に受けた。
    「さよなら!!」
    財布と携帯だけ持って、ラキは家から出ていった。


    語り終えると、右頬に手を当てる。
    「痛かった。頬じゃなくて、胸が」
    「……ラキさんを探したくて、NGLに志願したんだね」
    「ああ。お前達やナックルよりも浅はかな動機だ。笑ってくれて構わない」
    「笑う訳ねぇだろ」
    「ナックル……」
    「そんな俯いてたら、探したいもん見つけれねぇぞ、オラァ!」
    バンっと猫背になったシュートの背を叩いたナックル。
    「いっ………!!す、少しは手加減しろ」
    「大して痛くねぇだろ、ラキのビンタよりよ」
    「それは、そうだが…あれは本気だったな……本気で怒らせてしまったから許してもらえるかどうか」
    「おいまた猫背なってんぞ」
    今度はその背を摩ったナックルであった。


    「何で残った?」
    コアラのキメラアントはオルバに聞いた。
    「居たいって言ったから」
    「誰が?」
    「誰だろうね」
    「相変わらずよく分からねぇ女だ」
    「それよりも誰か来るね。人間かな」
    「コルトが助けを呼んだ」
    「ふーん……アタシ昼寝でもしてようかな」
    オルバは大きく伸びをして、屋上に向かった。

    何とかカイトを保護した後、ナックルとシュートはモラウ達のところに行こうとしたが……。
    「…なにか来る」
    「上か?!」
    上から何か降りてきて、臨戦態勢をとる。
    土煙が晴れて、現れたのは萩色の髪を後ろで三つ編みに纏めた蟷螂のキメラアントの雌。
    だが、その顔立ちや人間とさして変わらない体つき、彼女が発するオーラが二人を動揺させる。
    「ラキ………!?」
    震える声でシュートが呼んだ名に彼女は首を傾げた。
    「ラキ?アタシ、オルバって言うの。それにしても貴方達、相手してくれない?戦えるでしょう?」
    オルバは手の甲から鎌を出した。
    「アタシの乙女の翽(アゲハチョウ)、漸く使えそうね」
    口にした能力の名前も、構える時左足を前に出す癖も彼女のままで、二人は手を出す気になれない。
    一方で、攻撃しようとしてこないどころか戦意を失いかけている獲物に、オルバは呆れる。
    「巫山戯ているの?それなら、刻んで調理してあげようか?」
    蟻故の残虐性なのかは分からないが、その発言はよりシュートの心を乱した。
    「彼女の…ラキの顔で、姿でそんな事を言うな……!」
    常に冷静で、よく逆上する自分を宥める係のシュートが怒りと悲しみで今すぐ飛びかかっていきそうになるのを見てナックルは止める。
    「落ち着けよ。もうアイツはラキじゃねぇ!キメラアントだ!!」
    ナックルとて信じたくはなかった、だがここで二人とも冷静を欠いてはいけない。ゴン達との約束を破ることになってしまう。
    しかし、今暗い宿はカイトに使ってしまっている。
    捕獲は………できない。
    「ったく、戻るのが遅せぇと思ったら」
    「下がっていなさい。貴方達では勝てないでしょう」
    そこに、モラウとノヴが現れた。
    「四対一かしら?最高……」
    血湧きそうになった時、前に感じた胸の痛みが。
    今回は脳裏に映像のフラッシュバック付きで。

    四人……そう、アタシには師匠と、仲間が……。

    「傷つけないで……お願い…。
    何言って…。
    お願いだから……!
    分かった、分かったわよ!」

    急に会話しているような独り言を呟き、オルバは、ジャンプして屋上に戻るとそこからどこかに行った。

    「大丈夫か?」
    「俺は問題ないっすけど、シュートは……」
    「俺も、大丈夫です……」
    そうは言うが、声は震え、額に汗を滲ませている。
    「無理はしないことだ。今にでも泣き出しそうな顔をしている」
    「………」
    「とりあえず、ここからは別行動だ。師団長クラスがこの辺にいるらしいからな、俺とナックルでそれに当たる。シュートはゴン達の監視。……ノヴ、付いててやってくれねぇか」
    「いいでしょう」
    巣を出て、街に着くまでシュートは動悸の乱れが止まらなかった。

    探し求めた彼女は、姿が変わり、中身も変わってしまっていたから。
    きっと、あれでは謝っても意味が無い。
    ああ、追いかけていれば良かったんだ…。


    高台に登って、オルバは心の中にいる誰かに語りかける。
    「あのビジョンは何?あれがアタシの記憶?」

    「答えないのね。いつか思い出すことだから?」

    「人間って面倒ね。まぁいいわ、強い奴探して旅立とうかしら」

    「彼らには手は出さない。邪魔されたくないもの」

    行き先は未定、それでも足は止めない。


    ヂートゥを逃がしてしまった後、今後どう動くかをナックルとシュートは話そうとしたが、近づいてくる気配に身構える。
    「そう身構えないで。貴方達と戦うなって彼女がうるさいから戦わないわ」
    「オルバ…!テメェなんでこんな所に」
    「決まってるでしょ?戦いたいの。暫く旅してたけど捗るのは調味料になりそうな木の実やハーブの探索ばかり…」
    そう話すオルバの背には大きめの皮袋が。
    「ところで、貴方達の名前知らなかったわね」
    「俺は、ナックルだ」
    「シュートだ。……本当に何も覚えてないんだな」
    「お前まだ…!」
    オルバがラキであることの希望を未だに捨てていなかったシュートに呆れ半分、怒り半分。
    「覚えてないわ。でもそのラキっていうのがアタシの中にいる女の子の名前なのね」
    「どういうことだ?」
    「前々からアタシの中に誰かいる気はしていた。貴方達に会ってから、その誰かとコンタクトを取れるようになった」
    胸に手を当てるオルバ。
    「翠の髪をした、十七歳位の若い女の子。ずっと俯いて泣いているの」
    「彼女は何か言っていたか…?」
    「ううん、人間の時の記憶は何も話してくれないわ。けれど、謝りたいってアタシがずっと思ってるのはこの記憶のせいね」
    オルバはシュートに歩み寄って、蟷螂の複眼と同じ色合いの目で彼の顔を見上げる。
    「………貴方に近づいただけで、ラキは余計に泣いたわ。貴方、何をしたの?酷いことをしたなら謝るべきよ」
    「そうしたいが……ラキと正面向かって話し合いたいんだ」
    「…記憶が戻ったら貴方のところに行くわ。それまで生きててね」
    そう言い残して、オルバは崖下に降りた。
    「お前が今謝っときゃ記憶戻ったかもしれないぜ?」
    「…覚悟がまだ出来ていないんだ」
    「覚悟?」
    「彼女を受け止める覚悟が」
    果たして、記憶が戻ったとして自分は変わった彼女を受け止められるのか、それに、彼女は戻ってきてくれるのか胸中に不安をしまい込んだ。





    結局この辺りに強いやつはいなかった。
    試しに王のところに行ってみようとしたけど、途中であったウェルフィン達に「全部終わったから、行っても意味ねぇぞ」と言われた。
    きっと、王は死んだってことなのかな。
    どうしようかな、そう思った時ラキが泣くのをやめた。

    …シュート君のところに行きたいの。

    いいの?

    うん、行くまでの間にアタシの記憶全部話してあげるね。

    是非、頼むわ。


    未だに目覚めぬシュートの傍らで、ナックルはメレオロンに話しかける。
    「なぁ、オルバって知ってるか?」
    「オルバ?知ってるぜ、よーくな。アイツは変わり者だ。餌の調理法に拘るわ、戦いに対する拘りも強かったなぁ…今何処で何してんだろな。って、お前も知ってんのかオルバを」
    「昔の仲間だ。人間の時の名前は…」
    話しかけた時、窓の方に気配を感じて振り向く二人。
    換気のために開けていた窓からオルバが入ってきていた。
    「よ、久しぶり」
    「ええ。元気してた?」
    気さくにメレオロンと話した後、ナックルを見る。
    「何しに来たんだ?」
    「彼女が彼に会いたいって言ったから来たんだけど…寝てるみたいね。伝言だけでも残したいから携帯貸して」
    「………ほらよ」
    ナックルは自分の携帯を渡す。オルバは慣れた手つきで操作して、ビデオカメラに切り替えた。
    「ちょっとだけ静かにしてて」
    すぅ、と息を吸って吐くと、話し始めるオルバ。
    だがその横顔は、ラキの顔だった。

    話し終えて、ビデオ録画を切ると携帯を返す。
    「…ナックル君。シュート君がアタシのこと探そうとしたら止めてね」
    「何でだよ」
    「アタシはもう、彼の隣に居れないから」
    「そうだとして、どこに行くつもりだ?リスタルさんのとこか?」
    「無理だよ。身内にキメラアントが居るってなったらミチェッタ家は終わり。…そうだ、お兄ちゃんとも話してこなきゃ」
    出てきたところから、ラキは帰ろうとする。
    「待てよ、本当にいいのか!?」
    「いいの。もう全部あの夜に終わってたから」
    すると、窓枠にかけた足が勝手に降りた。
    「オルバ……?」

    見てられないわもう。

    それってどういう…。

    貴女は世間の目とか社会的なことを考えすぎよ。人間だからっていうのもあるとは思うけど…いいえ、人間だからこそ、感情に素直になるべきよ。

    ダメだよ。

    何が?本当は彼の傍に居たいんでしょ?

    うん。でもね、さっき言った通り…。

    何逃げてるの。

    逃げてる訳じゃ…!

    逃げてるわ。本当は、受け入れてもらえるか怖いんでしょう?…許してもらえるかも恐れている。
    貴女の想い人はそんな人?私にはそうは見えないわ。
    私と会った時も驚いてはいたけど、ちゃんとラキとして見ていたわ。あの時は覚悟はできてなかったみたいだけど、今ならきっと…。

    …………。

    どうなの?本当は?

    居たいよ。
    一緒に家に帰って、ご飯食べて…いつも通りの日常に戻りたいよ!

    じゃあそうしなよ。


    窓の前で微動だにしないオルバを不審に思って、メレオロンが声をかけようとすると、その前に彼女は振り返ってシュートの傍に戻って床に膝をつく。
    「ねぇ、彼が起きるまでこうしていていいかしら」
    「いつ起きるか分からねぇぞ」
    「…きっと、もうすぐよ。ラキもそれをわかってる」
    オルバはそこで言葉を区切ると顔だけ少し振り向かせた。
    「メレオロン、私はもう消えるわ。彼が起きたら私は邪魔になるから」
    「……そりゃ、本当か?」
    「ええ。気にかけてくれてありがとね」
    「…そんな悲しそうな顔すんなよ、俺はお前を忘れねぇよ」
    オルバは微笑んだ。
    今にも消え入りそうな顔で。


    右手指先が僅かに動いた。
    「…………ここは…?」
    「シュート君!」
    「シュート!」
    漸く目覚めたシュートの顔を覗き込む二人をメレオロンは後ろから見つめる。
    シュートはまず、泣きそうになっているナックルを見てから、次にラキを見た。
    「ラキ………済まなかった」
    「いいの、アタシも悪かったから…っ!ねぇ、こんな体になったけど、一緒に居てもいい…?」
    「当たり前だ…。俺はお前に、傍にいて欲しいんだ」
    思い切り抱きしめたい気持ちを抑えて、ラキはその場で泣きじゃくった。
    自然と、体が楽になった気がした。


    オルバ!

    なに?

    本当に行っちゃうの?

    ええ。私がいても邪魔よ。
    この世界も充分楽しんだしね。

    ………ありがとう。アタシ、あなたがいなかったら逃げたままだった。

    礼なんてよしてよ、私は貴女。

    あなたはアタシ。だもんね。

    幸せに、なってね。
    ラキ………。



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