ヒーロー ──俺がヒーローになれたのはサーのおかげだよ。
──インターンでの経験が、今の俺をつくっているといっても過言じゃない。
──ほんの一年前は雄英体育祭でも最下位争いしてたぐらいだしね。
──え? 全然そんな風に見えない?
──でも本当の話。昔っから個性コントロールがからっきしでさ。雄英高校に入ってからも個性を使いこなせなくて、同級生たちにおいてかれてた。でもヒーローになる夢は諦められなくて。
──そんなとき、サー・ナイトアイに出会ったんだ。
「お前は強くなる。私の下(もと)に来なさい」
──サーはそう言って俺をインターン生として自分の事務所においてくれた。
──二年の雄英体育祭で成績の振るわなかった俺は、スカウトされるなんて思ってもいなかった。
──スカウトっていうのは、ヒーロー事務所側が職場体験とかインターンを受け入れる生徒を指名する制度のこと。スカウトされた事務所でインターンをして、卒業後はそのままサイドキック入りすることも多いから、指名を受けることはすごく大事なんだ。
──雄英体育祭で活躍した生徒ほど、スカウトする事務所は多くなる。成績が悪いと、当然注目度は下がる。
──だからって諦めるようなことはないけどね! でも正直なところ体育祭は悪目立ちした記憶しかなかったからね!
──あ、笑ってくれたね。え? 雄英体育祭の映像が見たい? エリちゃんがそういうなら、今度見せてあげるね。
──うん、約束だよ。
──それからサー・ナイトアイの事務所でインターンを経験するわけなんだけど、最初は面食らったよ。サーは自分にも他人にも厳しい人だとは聞いていたけど、ユーモアを最も尊重する人だとは知らなかったから。事務所に入らなかったら、ずっと知らないままだったかも。ほかのヒーロー事務所の人と接するときはおくびにも出さないし。
──うーん、確かに見た目は怖いかもしれない。だけど厳しいだけの人じゃないよ。先生方もお手上げだった俺の個性コントロールを、粘り強く訓練してくれたんだ。
「相手をよく見て、予測して動くんだ」
「先読みってことですか 俺"未来予知"じゃないですよ!」
「良い返事だ、ユーモラス。さまざまな状況を経験し、蓄積するんだ。救助・戦闘・困難苦難……その蓄えがデータベースになる」
──サーはそう言って俺を鍛えてくれた。事務所の仕事で多忙な中、わざわざ時間を作って俺と向き合ってくれたんだ。
──どうしても気になって、一度聞いたんだ。ただのインターン生なのに、どうしてここまでしてくれるのかって。
「言っただろう、ミリオ。お前は強くなれると。決してあきらめない不屈の心、いつだって笑顔を絶やさないその明るさ。その二つを持っているお前が戦いの強さを手にすれば、明るく、強く、親しみのある──オールマイトの後継にだってなれる。だから私はお前を指名したんだ」
──冗談でも軽口でもなく、本気で言ってるんだってことはすぐわかった。サーはオールマイトの大ファンで、五年間サイドキックをした人でもあったから。
──ここまで言ってもらえて、訓練までしてもらったんだ。ルミリオンの名に恥じないヒーローになろう、卒業したらサーのサイドキックになろうって、決めたんだ。
「──と、まあこんな感じさ!」
「ルミリオンさん、おはなししてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
エリちゃんのまぶしい笑顔に俺も笑顔を返した。こうやって過去の話ができるのも、エリちゃんに"個性"を戻してもらえたおかげだ。以前だったら、エリちゃんは自分のせいで夢を奪ってしまったと自己嫌悪に陥っていただろう。そもそも、エリちゃんから尋ねてくることもなかったと思う。
『ルミリオンさんは、どうしてヒーローになろうとおもったの?』
という問いを。
ヒーローになる夢を抱いたきっかけそのものは、子供の頃川でおぼれていたのをヒーローに助けてもらったから、という単純なものだ。子供心に強く、鮮明に焼き付いた「ヒーロになる」という夢は、サーに強くしてもらったから、サーに教えてもらったから、俺は諦めずにいられた。だからきっかけの話以上にサーの話をしてしまったわけだけれど、仕方がない。サー・ナイトアイは俺の恩師で、目標で、道しるべだから。
『…………大丈夫。お前は……誰より立派な、ヒーローになってる……』
『この……未来だけは……変えては……いけないな』
『だから、笑っていろ』
だから明日も俺は笑顔で言うんだ。
「おはよう、エリちゃん!」
君のヒーローでいるって、決めたんだから。