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    pretty_rose18

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    pretty_rose18

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    虫になった純さんの話です。オリキャラ注意。

    変身『純 虫になっちゃったの?!』
    今日子さんの素っ頓狂な声が、部屋中に響き渡りました。
    朝、今日子さんが自宅のソファで目覚めると、ちょこんと触覚の生えた、灰色の一匹の芋虫が目の前にいました。
    昨夜、何十回目かのお見合いが失敗して、純さんをヤケ酒に付き合わせていたのです。
    寝る前は確かに純さんがいたはずなのに、何故か姿は見えず、見知らぬ虫が一匹…。
    何と恐ろしいことに『姉さん、俺です。純です!』などと喋り出したのです。

    まだ夢の中だったかしら…そう思い、今日子さんは頬をつねりましたが、じんじんと痛みを感じます。
    『なぜか分かりませんが、朝起きたらこんな姿に…』
    『ええ〜大変じゃない! 今日の仕事はどうするのよ?! というか体は大丈夫なの?!』
    『痛みなどはありませんが…でも…無性に…』
    『無性に…?』
    ごくりと今日子さんが息を呑みます。
    『キャベツが食べたいです』
    『あ、ああ〜何よ、驚かせないで。確かに今、芋虫なんだものね。キャベツね…家にあったかしら』
    ビールしか冷えていない今日子さんの冷蔵庫に、生野菜などあるわけがありません。
    お腹をすかせている純さんのために、急いで今日子さんは近くの紀伊◯屋に行くことにしました。
    『いい! よくわからないけど、今、アンタはちっちゃいんだから、そこから動いちゃだめよ! 踏み殺しちゃうかもしれないから!』
    『乙女の足裏によって踏み抜かれるなら、それも本望…(もっと素敵な純語にしてください)』
    『ふざけないの!』

    軽口をたたいたものの、踏み殺されるのはやっぱり嫌な純さんは、テーブルの上でじっと今日子さんの帰りを待つことにしました。
    そのときです!
    窓の少し開いた隙間から、シャッと黒い影が部屋の中に飛び込んできました。
    『あ!』と思うまもなく、純さんはなにかに咥えられて、部屋の外に飛び出してしまいました。
    かたいくちばしで器用に純さんを咥え、ギョロリと大きな目で睨んでくるこの動物の正体は、ツバメです。
    ツバメに攫われた純さんは、ぐんぐんと小さくなっていくビル群を、絶望的な気持ちで見つめていました。
    『このままだと食べられてしまう…』
    死を覚悟しながら、びゅんびゅんと風を受ける純さん。
    しばらくツバメは飛んだかと思うと、茂みの中に足を着けました。
    大きな木の根元に、裂け目があり、薄暗い穴の中をぐんぐん進んでいきます。
    するとそこに、小さな小さな一軒家がありました。

    『おーい! もぐらのおばあさん!』
    ツバメがドアに向かって喋りかけました。
    『このツバメ…喋るのか?!』純さんは自分の身に起きた不思議すぎる出来事の数々に、心が追いついていけません。
    『はいはい、ツバメの旦那。朝っぱらからなんですか』
    エプロンをつけたネズミが中から出てきました。
    純さんはもう驚くのはやめました。
    この世は不思議にみちみちているのです。
    『人差し指姫にプレゼントがあるんだ。とりついでおくれよ』
    『はいはい、ちょっと待ってな。人差し指姫や』
    『朝早くからから何なのよ。非常識なツバメね。だからモテないのよ』
    中から小さな、とても小さな…。
    人間でいうと人差し指ほどの大きさの、可愛らしいお嬢さんが現れました。

    『ぼくはモテなくていいんだ。人差し指姫にさえ気に入ってもらえたら! ほら見てご覧、こんな珍しい色の芋虫は見たことがあるかい? とても珍しいだろう? 君にあげるよ!』
    ツバメはずいっと純さんの身体を押し出し、人差し指姫の前に立たせました。
    『この可愛らしい私が、いくら珍しいとはいえ芋虫のプレゼントで喜ぶと思うの? もっと考えなさいよ』
    『ええ〜…すまない、人差し指姫…。じゃあ持ち帰って今夜のエサにするよ』
    ツバメのがっかりした声に、慌てたのは純さんです。
    『待ってください! 俺を食べてもおいしくはありません』
    『『『虫が喋った?!』』』
    純さんからすると、ツバメやらネズミやらが喋る方がよっぽどおかしかったのですが、どうやら違ったようです。
    『何よ、貴方、喋れるの?』
    人差し指姫がキラキラとした眼で話しかけてきます。
    『ええ、ええ、喋れます。実は俺は人間だったのです。なので食べるのは…』
    『ツバメ、私、このプレゼントが気に入ったわ!』
    『本当かい? 人差し指姫。じゃあ、ぼくと結婚をしてくれるね』
    『それとこれは話が別よ。だいたい、プレゼント一つで女の歓心を買おうというのが図々しいわ』
    『とほほ…』
    またじゃあプレゼントを探してくるね、とツバメは立ち去っていきました。
    ネズミのおばあさんは喋る虫を気味悪がって、とっとと捨てちまいなと言いました。
    人差し指姫は私のペットにするんだから、口を出さないでとピシャリと一言。
    『私の部屋にいらっしゃいよ』
    人差し指姫の後を、純さんはついていきました。

    『で、貴方は何なの?』
    ギシギシと軋むベッドに腰掛けて、人差し指姫が尋ねました。
    『ええ…と…。俺にもよくわからないのですが…』
    純さんは自分の身に起こった不思議な出来事を、かいつまんで話しました。
    『貴方も苦労したのね』
    『人差し指姫も?』
    人差し指姫の話はこうでした。
    小人族の姫だったのに、ある日、お付きのツバメに攫われて、ここに連れてこられたこと。
    妻になるよう迫られて、承諾するまでここから出られないこと。
    逃げる機会を窺っているけれど、モグラのおばあさんに見張られて中々難しいこと。
    『ひいひいひいおばあさんは、ツバメに救われて小人族のお姫様になったのに、私なんてツバメのせいで穴蔵ぐらしよ』
    『ひいひいひいおばあさまは、もしかして『親指姫』というお名前ですか?』
    『そうよ! 貴方、知っているの?』
    純さんは親指姫の活躍が童話になっていることを、人差し指姫に伝えました。
    すると、人差し指姫は大喜び。
    『素敵! 人間にもお話が伝わっているなんて』

    『ところで純、貴方、本当に虫になった心当たりはないの』
    ひとしきり喜んだ人差し指姫は、真面目な顔をして聞きました。
    『心当たり…と言われましても…』
    『こういうのは悪いことへの罰とかいうのが定番なのよ。貴方、悪いことしたんじゃないの』
    『……』
    『あら、心当たりがありそうね。でも正直、そんなに悪いことをするようには見えないんだけど』
    『実は…いや、よしましょう』
    『ちょっと気になるじゃないの!』
    人差し指姫が問い詰めるので、観念して純さんは話し出しました。
    それは誰にも…日記にすら書いたことのない、純さんの秘密でした。
    相手が人間ではなく、妖精のような存在だったので、言ってしまってもよいかと思ってしまいました。
    それに誰かに打ち明けてしまいたい気持ちもありました。

    『俺には年の離れた姉がいるのですが…』
    長い沈黙。
    『え? 姉がいるから何よ』
    『その…姉のことが昔から好きで…。昨夜はその…酔って寝てしまった姉の…姉の頬についキスをしてしまって…』
    『え〜ヤバッ…姉って血の繋がりがないとか?』
    『いえ…実の姉です…』
    『マジでヤバくない? え、人間の世界ではきょうだいで結婚できたりするの? 人口少なめの花の国でも近親相姦はあり得ないんだけど』
    人差し指姫に容赦なく詰められ、純さんは言葉を失っています。
    『え〜しかも黙ってキスとか。それだわ。絶対その罰よ』
    『ですね…』
    『にしても実のお姉さんをねぇ…。道ならぬ恋ってやつね。貴方も大変なのね。しかも今、虫になっちゃって…』
    『はは…仕方ないですね。卑怯なことをしてしまったのですから』
    『多分だけど、ちゃんとお姉さんに謝ったら、元に戻れるんじゃないかしら?』
    黙って頬にキスをしてしまいました、なんて今日子さんに告げたら、どんなことになってしまうのでしょう。
    罵られて、軽蔑されて…もう二度と元の関係に戻れないかもしれません。
    その痛みを引き受ける覚悟もないまま、大胆な行動をしてしまった昨日の自分を、純さんは恥じました。
    とはいえ、酔って泣きながら寝てしまった今日子さんが、『純…ついてらっしゃい』なんて寝言をむにゃむにゃ言っているのを聞いたらたまらなくなってしま…。
    いえ、ここではやめておきましょう。
    『何よ、黙っちゃって。まあ謝る謝らないは置いておいて、ここにいるよりは早くお姉さんのところに帰らないとね』
    『そうしたいのはやまやまなんですが…』
    『……』
    二人して黙り込んでしまいました。
    沈黙をやぶったのは人差し指姫です。
    『ここで純と出逢ったのも何かの縁よね。わかった。私、ツバメと結婚するわ!』
    『ええ…っ?!』
    『大丈夫。考えがあるの!』

    『嗚呼、今日はやはり最良の日だった。星座占いは一位だったし。ラッキーカラーは灰色ってね!』
    胸元を花で飾ったツバメがはしゃぎます。
    その隣で着飾った人差し指姫が、つまらなそうな顔をしています。
    ツバメのテンションと反比例をして、人差し指姫の機嫌はどんどん下降していきます。
    人差し指姫が結婚を承諾することをツバメに伝えると、善は急げとばかりにそのまま結婚式をすることになりました。
    式場は人差し指姫の希望により、近くの花畑です。
    純さんは二人?のキューピットということで、牧師役をすることになりました。
    もうお分かりですね。
    人差し指姫の作戦は、とりあえず穴蔵の外にでて、隙を見て逃げるという単純なものでした。
    果たして上手くいくのでしょうか…?!

    『えっ?! 純?! 何しているのそこで』
    花畑での結婚式に、紀伊◯屋の袋を下げた今日子さんが通りかかりました。
    普段自炊をしない今日子さんは、どのキャベツがより新鮮なのかわからず、純さんのためにあれでもないこれでもないとキャベツを選んでいて、実はまだ帰宅していないのでした。
    通りかかった公園の花壇の花に、ツバメがとまってるなんて珍しいわね…と目をやったところ、純さんを見つけたのでした。
    『姉さん?!』
    『え、この人がお姉さんなの?』
    『一体なんだい、僕らの結婚式の邪魔をしようというのかい』
    『小人とツバメが喋った?!?!』
    今日子さんのキャパシティはオーバーしそうです。
    『姉さん! 俺とこのお嬢さんを連れて、ここから逃げてください!』
    チャンスの女神の前髪は掴んで離さない。
    デキる男である純さんは、すかさず今日子さんにお願いをました。
    『なっ、なんだかよく分からないけど分かったわ』
    今日子さんは手のひらにそっと、純さんと人差し指姫を乗せ、もう片方の手をそっと二人?に添えて、その場を離れました。
    『待ってくれ! 人差し指姫』
    ツバメがぴーちく叫びながら、三人?を追ってきます。
    『ちょ、痛いっ! 痛いってば!』
    ツバメは人差し指姫を取り戻そうと、今日子さんの頭や体を啄みます。
    『やめろツバメ! 姉さんを傷つけるな!』
    『いい加減に諦めなさいよ! アンタと結婚するなんて嘘に決まってるじゃない! このストーカー野郎!』
    今日子さんの手の中で、二人?は力の限り叫びます。
    が、二人?はあまりにも小さく、加勢するには無力です。
    『あのっ! 大丈夫ですかっ?!』
    通りすがりのサラリーマンが、見るに見かねて助けに入ってくれました。
    『こらっ、離れろ! 離れろって!』
    大柄な男性に力の限りはたかれて、流石のツバメも気勢がそがれます。
    『く…っ! ぼくは諦めないからなっ』
    ありがちな捨て台詞を残して、ツバメは彼方へ飛び立ってしまいました。

    『災難でしたね…大丈夫でしたか?』
    『ありがとうございました…助かりました』
    気の良いサラリーマンは、爽やかに去っていきました。
    ここにいてはまたツバメが戻ってくるかもしれないので、とりあえず今日子さんの家に戻ることになりました。
    もちろんちゃんと窓は鍵をかけましたよ。
    これでツバメは入ってはこれないはずです。
    『で、一体何がどうしたっていうのよ』
    今日子さんは朝からの出来事に頭痛がしてきたので、額を押さえながら問いかけます。
    純さんは自分の身に起きた出来事を、かいつまんで説明しました。
    『ええ…っ! じゃあ純、あんた攫われてたの?! 無事に帰れて良かったわ…』
    『今生の別れになるかと思いましたよ…姉さん』
    『人差し指姫さん…? 貴女のおかげなのね。純を助けてくれてありがとう』
    今日子さんはスッと人差し指を、人差し指姫の前に差し出しました。
    人差し指姫は小さな両手で握り返します。
    『別にいいのよ。私も穴蔵暮らしに飽きてたところだったし。それより純…』
    人差し指姫は肘で純さんの体をふにふにつつきました。
    『(素敵な純語で言い訳をしてください)…』
    『いや、貴方このまま虫のままじゃ困るでしょ! スパッと言っちゃいなさいよ』
    『そうは言いましても…!!』
    心の準備が…ともごもご口を濁します。
    往生際が悪いですね。
    でも純さんからすると、真実を口にするのは体が引きちぎられるような思いでした。
    今日子さんの信頼を失うくらいなら、このまま虫でいたほうがマシかもしれません。
    それくらい思い詰めていたのです。
    『ああ、もう、焦れったいわ! お姉様、純が謝りたいことがあるんですって!』
    『人差し指姫!』
    純さんは慌てて人差し指姫を止めますが、一度口に出した言葉は決して引っ込まないのです。
    『なによ〜改まって…。何もこんな非常事態に…』
    『純はお姉様に怒られると思って言えなかったんですって。あまり怒らないで聞いてくださる?』
    『ええ…っ!? 何か聞くの怖いわね。…まぁ内容によるかしら…。怒らない保証はできないけど、聞くだけ聞こうじゃないの』
    ほら、お姉様もこう言ってくれてるじゃない、と、人差し指姫は純さんの体を押して、今日子さんの前に立たせました。

    『ほら、言いなさいよ純!』
    今日子さんのくりりと大きな瞳が、純さんを見つめます。
    『あ…あの…あのですね…』
    純さんは居心地が悪そうに体を動かしますが、今日子さんからすると、芋虫がくねくねしているようにしか見えません。
    『何よ、私ってそんなに怖い?! 焦れったいわね。パパパーっと謝っちゃいなさい。株の損切り忘れたとか?!』
    『違うんです…! 実は昨夜、寝ている姉さんの頬にキスしてしまいました!! すみません!!!』
    『へっ…?!』
    予想もしない答えに一瞬、今日子さんは言葉を失いました。
    が、すぐに…。
    『なによ、そんなこと?! まさか純が酔うとキス魔になるとは知らなかったわ』
    『ええ…?! そんな反応ですか…』
    『えっ、何よ。照れろとでもいうの? 姉弟なんだし、大したことないわよ。外国だと挨拶程度よ。昨日は純も酔ってたんでしょ。まあ他の人と飲むときは気をつけなさいよ。何をそんなに気にしてるのかわからないけど、許す。許すわ。はい以上!』
    今日子さんがそう告げると、パァっと純さんの体が光に包まれました。
    部屋が光に包まれ、目も開けられないほど眩しくなる中、純さんの体はみるみる元の姿に…。
    『も、戻った…?』
    『純…! よかった元に戻って』
    純さんと今日子さんは喜び合いました。
    『ほら正直に謝ってよかったじゃない、純』
    人差し指姫はテーブルの上でふんぞり返っていました。
    『ええ、本当に。ありがとうございました、人差し指姫』
    純さんは人差し指を差し出すと、人差し指姫はしっかと両手で指先を掴みました。

    『人差し指姫さん、本当にこんなところでいいの?』
    『ええ、ここからは一人で大丈夫よ』
    純さんと今日子さんは、人差し指姫を近所の花壇に降ろしました。
    『花の国に戻っても、またツバメに攫われるかもしれないし…。どこかにあるらしい小人の国を探してみるわ』
    『人差し指姫、気をつけて。本当なら小人の国まで送りたいくらいなのですが…』
    純さんが心配そうに言いました。
    『いいの、いいの。冒険も楽しいしね。純には「勇気」を見せてもらったわ。私も一歩踏み出さなきゃ』
    それじゃあ、またどこかで! と大きく手を振って、人差し指姫は花の中に消えていきました。
    『人差し指姫、いい子だったわね〜』
    『本当に…彼女がいなかったら、元に戻れなかったと思います』
    二人は人差し指姫が消えていった花畑を、しばらく見つめていました。

    『にしても…まだお昼なの…?! 今日は朝からどっと疲れたわ…』
    『ですね…すみませんでした…』
    『今日はもう仕事はしない! どこかでパーッと食事でもしましょ』
    細かいことを気にしない今日子さんのことが、やっぱり好きだなと密かに思う純さんでした。

    おしまい
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