月がとっても青いので(ゾエカゲ)月がとっても青いので、歌の文句の通りに見回りの当番が終わった後遠回りをして帰っている。
古い歌はかげうらの店内で時折かかっているのを耳にして覚えた。
「……月がきれいだな」
隣を歩いていた影浦が唐突にそんなことを言うので北添は驚く。それから驚く、は嘘かも。と思い直す。
北添は感覚では人の感情はわからないけれど、そんな能力がなくても気持ちが分かるくらいには影浦の近くにいる自負がある。
彼の能力で自分の気持ちはバレてるだろうなと思っていたけれどそれでも変わらずそばに置いてくれて、まあそれだけじゃなく色々。月が満ちるようになんとなく気持ちが丸くなっていくのは実はちょっと分かっていた。
なのであれいまなんだ、という意味では驚いたけれど、それ以上に嬉しい気持ちが勝る。
「あのさ、ゾエさんアホの子トリオの中じゃ頭のいい方だからそれわかっちゃうんだけど」
「……好きにしろ」
「出来ればカゲの台詞でちゃんと聞きたいなぁ」
有名な昔の作家の、ほんとか嘘かも分からない愛の告白の翻訳の逸話よりもっと直接的な言葉が欲しくてそう強請ってみる。
「うるせぇボケ」
「えー、そしたら今度ね、今度聞かせてね」
月夜の明かりを掬うように手を繋いでみる。冷たい手だった。指を絡めて好きだなと強く思うと影浦が小さくふるえる。
「痛ぇよアホ」
「ごめんごめん……ねえもう死んでもいいかもね」
ならば、と有名な返しをしてみたらバッと困惑した顔でこちらを見る。
「はぁ?!何言ってんだ死ぬんじゃねえ」
「あれ?!こっちは知らないの?!」
「何言ってんだおめぇ」
「好きって事だよ!」
思わず言うと青い月明かりの下でもはっきり分かるくらいみるみる顔が赤くなっていくので、もうそれだけで北添は世界一幸福になってしまったのだった。