こころ音もなくほどけた。それは私の、凝り固まった心でした。
なんでもない言葉だったのかもしれない。実際、ありふれた言葉なのかもしれない。けれど、あなたの言葉は私の心をほどいたのです。
きっかけは些細なことでした。講義の時、偶然隣の席に座ったのが、あなたでした。席に着いたあなたは、鞄をごそごそと探った後、顔を青くしたのが見えました。それがあまりにも悲痛な表情で、私は勇気をだして問うたんです。どうかしたんですか、と。あなたはこう言いました。ノートを、忘れたんです。
講義が始まるまで後数分。今から買いに行くような時間が無いのは明白でした。
だから、私は自分の持っていたノートを一冊差し出したのです。新品だから、と。
あなたは、悪いからと断ろうとして、迷って迷って結局とても申し訳なさそうにノートを受け取りました。
778