end point⑥視界が暗い。
静かだ。
どこだろうここは。
─!──っ!
遠くで誰かが声をあげている気がする。
何なんだ。俺は今眠いんだ。静かにしてくれ。
り─ぃ、りゅぅ─い
「龍水ッ!!!」
聞き馴染んだ声が自分の名を呼ぶ。ハッと意識が戻ると俺は口から水を吐き出して咳き込んだ。
まだ視界がハッキリとはしていない。俺の名前を呼んでくれた銀髪の青年は泣きじゃくっていて、俺が意識を戻したのを確認出来て強い抱擁を交わしてくる。お互い身体が少し冷えているように思う。そういえば船員を助けた際に船から落ちたんだったか?いやでも何でここに。
「なぜ羽京がいる」
咳をした後だったから、声が少し枯れているのは自分でもわかった。
「君が、海に落ちたって…」
「それだけで、貴様、屋敷から出たのか」
龍水は目を丸くして羽京を見る。普段隠されていた銀髪は露わになっており丸々とした頭部がよくわかる。そしてそこから滴っていく水。よく見ると羽京も龍水と同じくらい髪も洋服もびしょ濡れだった。その有り様から此処への路は壮絶だったことが物語られていた。
「無理をするな」
今度は龍水が羽京のことを強く抱きしめた。服は冷たかったがピッタリくっついていると少し暖かかった。
「君だって僕のために時間を割いてくれてるじゃないか」
「無理はしてない。それに、俺がしたくてしてるんだ」
「…それを言うなら僕だって、したくてしてるんだよ」
出る言葉がなくてしばらく二人で抱き合ったまま。波の音と、互いの熱に耳を傾けていた。すると、波の蠢きからチリッと眩しい灯りが主張し始めた。
「朝日だ」
太陽が段々と顔を出し始め海を照らし、二人の銀髪も、金髪をも照らし始めていた。
「海の朝日ってこんなに綺麗なんだね」
龍水の腕の中で羽京は小さく呟いた。
「あぁ、そうだ羽京。海は、外はこんなにも美しいぞ」
「はは、僕君より長い間生きてたはずなのになぁ……知らなかったなぁ…」
龍水と羽京は互いに身を寄せ合って眩しい朝日を眺めていた。
「ねぇ、龍水」
羽京は顔を朝日に向けたまま龍水に問いかける。
「どうした?」
「すっごいワガママ言ってもいいかな」
息のかかる距離であったがお構いなく向き合った。羽京のエメラルドの瞳が朝日も海も取り込んでいた。
「僕より先に死なないで」
波よりも小さな声だったと思う。それでも、龍水は羽京のその願いを聞き逃すことはなかった。
「あぁ、約束しよう」
どちらともなく自然とキスをして微笑みあった。何回も何回も、二人しかいない海の上で。羽京にとってはじめての口づけだった。