心配さっき見たばかりなのに、結局気になってまた横目でチラリと確認する。
クラスメイト兼、部活仲間兼、恋人は…というと、寝ている間にクラスの女子達に髪を三つ編みにされていた。
こしのある綺麗な黒髪。
あの髪に触れていいのは自分だけなのに。
そうだ。ほんとは髪だけじゃなくて。あの手だって指だって、バンダナだって。そう。全部。全部って言ったらほんと、全部だ。頭の先からつま先まで。
そう考えたら なんだか悲しくなってきた。どうせ独り占めは叶わないのだ。もう微塵も目にうつしたくなくて、眠いフリをして机に突っ伏した。
付き合うことを了承した時の、虎鉄の嬉しそうな顔を今でも思い出す。あの顔が、はしゃぐ声が、今でも自分のキモチを支えている。
周りに恋人同士だってむやみやたらに触れ回らないようにって、自分から言ったことなのに、もう撤回したくて後悔している。
普段は決して見せない、あんな必死な顔をして伝えてくれたのに。
部室に行く前の廊下、虎鉄が独特の浮き足立ったような足取りでスッと近寄ってきた。
「……猪里、なんか今日嫌なことあっTa?」
「え」
「なんか、眉間にシワ寄ってっからSa。」
「あ、あぁ…」
べつに気のせいなら、いいんだけど。と頬を掻きながら虎鉄は続けた。
いつの間に───
細かいところまで見てくれている。
その事実に つい頬を緩ませてしまう。
いかんいかんと口角を引き締めた。
恋でゆるゆるになる自分の顔なんて、考えただけでゾッとする。
「たいしたことじゃ…」
…なんて、口にしたものの。
あの三つ編み姿を思い出したら、なんだかちょっと意地悪してやりたくなった。
「虎鉄、」
「N?」
なに?って発音しそうになってる口に、唇だけの軽いキスをした。
「………あんま心配させんで欲しか。」
目をまん丸にして ばかみたいな顔で見つめてくる。愛しい人。
これでしばらくはオレのことだけ考えてろ。ばか。