ミラジとフェド随分と騒がしい店だ。普段道端で見かける騒がしさとはまた別種のものだが。レジェンド達が頻繁に出入りしているこの建物は新人歓迎パーティーと称して貸し切りになっていた。最初こそ挨拶は交わしたものの雰囲気に慣れず隅の席に移動していた。テーブルにあったナプキンの端をいじりながらぼんやりと時間を潰す。参加する気など無かったのだが、勢いに流されてここまで来てしまった。ふと気配を感じたかと思えばカクテルが置かれる。差し出されたこれに覚えはない。視線を上に向けるとそんなに睨むなよと男が歯を見せながら言う。
「ミラージュスペシャルさ。俺をイメージした風味豊かで色っぽくてそれでいて爽やかな後味。このフルーティーさはお酒初心者にもオススメだぜ。残念ながら"蜃気楼"は再現できていないんだけどな」
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