「本を読もうと思う」
目の前のソファでぐうたらと横になっていた男――オーウェン・フェアバンクスと名乗る彼が、唐突にそう呟きながら体を起こした。「なんだって?」自分の耳が信じられず思わず聞き返すと、彼は神妙な面持ちをして、何やら考えるように顎に手を当てた。適当と不誠実を掻き混ぜて形にしたような男が一体何を言っているのか。考えてもどうせ何も出ないぞ、と思いながらとりあえず続きを促すと、世紀の大発見をしたような勢いで人差し指を立てる。
「俺には教養が足りてない」
「その通り」
正解、と指さしてそう返すと、ムッとしたように俺を睨む。お前が言ったんだろうが、と睨み返すが、相手もそう思っているようで、特に反論はしてこない。
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