五夏忘年会web展示 都内某所。撮影スタジオのあるビルで深夜帯に放送されている冠番組の収録を終えた祓ったれ本舗の二人は、控室に戻ってきて一息ついた。年末の生放送番組に出る予定もなく、今年最後の仕事だった。
「今日はこれで終わりだろ。早く帰ろうぜ」
控室の一角にある畳の上にごろりと寝転がった悟が気怠そうにしながら鏡の前の椅子に座っている傑へと視線を向ける。
「この後は番組スタッフと忘年会だと収録前に話しただろう?」
「忘年会とか嫌い。行きたくねェ」
「わがまま言わない。スタッフと交流するのも大事な事だよ」
「そりゃ傑は酒飲めるから良いだろうけどさァ、大人数の飲み会で酔っ払いだらけの中素面とか苦痛しかねェ」
「そう言われてしまうと私も困ってしまうね。今日の場所はご飯がかなり美味しいらしいよ。勿論デザートも。あと豪華景品が当たるビンゴ大会やるとか言ってたけど」
「ビンゴ大会って去年もやったやつだろ。景品の一つに祓本にご飯をおごってもらう券てのがあったの、今でも忘れてねェからな」
「やれやれ。しつこい男は嫌われるよ。悟」
「ンだよ。セックスの苦情なら受付ねェぞ」
「そういう話してるわけじゃないけど、しつこい自覚あったんだね」
「あ?やんのか」
「やらないよ。なんでそう好戦的かな」
畳の上で大の字になっている悟を呆れたような息を吐き出した。椅子から立ち上がり、小上がりになっている畳へと移動する。寝転がっている悟の傍に腰を下ろすと、上半身を捻り後方へと振り返り悟を見下ろした。
「飲み会も仕事のうちだよ。拗ねてないでそろそろ起きて着替えな。挨拶回りしてる伊地知も戻って来る頃合いだ」
手を伸ばし、尖らせた悟の唇をちょいちょいと突くと、ぱくりと指を喰われる羽目になった。
「おい、喰うな」
痛くはない甘噛み程度でアグアグと何度も歯を当てられる。タイミングを見計らって指を引き抜くと、悟の唾液がべたりとついて傑は眉間に皺を寄せた。そしてそのまま悟が着ているシャツへとなすりつける。
「きたねェ!どこで拭いてンだ」
「それはこっちのセリフだよ。その衣装はどうせ着替えたらクリーニング行き。いい子だから40秒で支度しな」
「ママかよ。……へーへー、しゃーねーな。仕事だっつーならやりますよ。忘年会楽しんでいるフリ」
「イイコには後でご褒美だよ」
「セックス24時間耐久レースな」
「それ、ご褒美になるのかい?お互い逆に苦行じゃないか?」
「あー、どうだろう。一度やってみたかったンだよな。しんどくなったらそこで終わりにしようぜ」
悟はよいせと声をかけながら起き上がると、顔を向けていた傑ににじり寄って軽く唇を触れ合わせた。
「たまには温泉とか行ってのんびりしたいなァ」
服を脱ぎながら言う悟に、傑もいいねと賛同を返す。売れっ子である二人はかなり忙しい毎日を送っている。温泉に入って疲れを癒したいと思うのも無理はなかった。今年のように年末年始にゆっくりと時間が取れるのも久しぶりだった。どうせならこのタイミングで温泉旅行でも考えれば良かったかなどと悟がぶつぶつと言っていると、控室の扉が叩かれる音が聞こえて自然と視線がそちらへと向く。
「はい」
「伊地知です。私の方は挨拶は終わりましたが、お二人は帰る準備は出来ましたでしょうか」
傑が返した返事を受けて扉を開いて入って来たのは二人のマネージャーである伊地知だ。ダークな色合いのスーツに身を包み、見た目にそぐなう真面目な男は番組スタッフからスタジオのスタッフまで年末の挨拶をして回って来た。
「伊地知も忘年会に参加するだろう?ここに車を置いて帰りはタクシーでも呼ぼうか」
「いえ、私はアルコールは飲みませんので。お二人を家までお送りしますよ」
「伊地知は真面目だなァ」
「悟。飲まない仲間が出来て良かったじゃないか。それじゃ伊地知は新年にでも私たちとで飲みにでも行こうか。初めから電車で来れば運転の心配もない。年末年始は実家に帰るのだっけ?」
「いえ。私は帰る予定はありませんよ」
「じゃあ決まりだ。年明けたら仕事始まる前までには行こう。どこか適当に店をピックアップしてよ」
傑が伊地知を誘ったと言うのに店選びや段取りをさらっと伊地知へと振ると荷物を持って立ち上がる。話をしている間に最後のアイテムを着終えた悟も小上がりから降りて靴を履き荷物を持った。
「伊地知ィ、今日は飲まない同士仲良くしような?」
悟が絡むような物言いで伊地知の肩を組むと、腕の中で身を竦ませるように伊地知の身体が縮こまる。周りの酔っ払いを伊地知にあしらって貰おうという魂胆だが完全に人選ミスである。
「え、いや、えと……はい……」
伊地知の弱弱しい返事を貰うと悟は満足したように頷き組んでいた肩を解き楽屋から出ていく。
「やれやれ。伊地知は気苦労が絶えないねぇ」
その気苦労の一端を傑も担っているのに他人事のように言って伊地知の肩をポンポンと叩いて悟の後に続いた。
忘年会は繁華街の一角にある雑居ビルの地下、ビストロを貸切って開催された。近くの駐車場へと車を置いてくるという伊地知と別れて店へと入っていくと、既に集まり始めていた番組スタッフに席へと案内される。
「傑と席離すとかどういう事だよ」
「まぁまぁ。それなりに人数いるんだし仕方ないだろ。人が動き始めて誰の席とかが無くなったらこっちに移動しておいで」
「傑が来てくれねェのかよ」
「私は別にたまにはバラバラでも構わないけど?」
「ちぇ」
「ほらあっちに行った行った」
傑が悟を追い払うように手を振り背中を押すと、悟はしぶしぶと言った様子で割り当てられた席へと移動して行った。
伊地知が中々店へと現れないものだから、二人の席の周りは他のスタッフでどんどんと埋まっていく。伊地知を傍に座らせようとする悟の目論見は外れたなと遠くの席から見ていた傑は笑いの籠った息を吐き出すのだった。
料理が美味しいと前評判の通りに出される料理はどれも美味しいものだった。傑は周りのスタッフと話しながら時折悟の様子を伺っていたが、料理が美味しい事もあって遠くから見ている分には楽しく過ごしているように感じる。悟が酒癖が悪かったら心配になるが、下戸で飲まないのだからそこらへんは安心だった。
「夏油さん。そろそろビンゴ大会が始まるみたいですよ。はい、これ」
「ありがとう」
「今年の目玉は高級旅館の宿泊券だそうです。当たるといいですね」
ビンゴカードを渡されると真ん中のFreeと書かれたマスを開ける。しかし、と傑は思うのだ。ドラマや映画の撮影のように他に出演者がいるならともかく、本日は祓ったれ本舗の二人しかおらず後は番組関係者だ。ビンゴが当たったところでそれを意気揚々と持ち帰っていいのかというと、難しいところである。「また今年も俺らに奢って貰う券があんのかよ!!!」と遠くで叫んでいる悟の声を聞きながら小さく溜息をついた。
ビンゴの結果は二人とも当たらず傑の杞憂に終わったわけだが、高級旅館として景品になっていたところは調べてみるととても良さそうなところだったのでメモとして傑のスマホに残される事となった。
「すぐるー」
「おや悟。席移動かい?」
「お前、そこどけ」
傑の隣に座っていたスタッフを悟が追いやると空いた席を傑の真横まで移動させてぴったりと張り付いた。
「すぐるーちゅーしよー」
唐突に傑へと抱き着くと、そう言いながら頬にちゅーと吸い付いた。キスというより頬を吸っている状態だ。
「おい!誰だ悟に酒飲ました奴!!!」
即座に状況を理解した傑が叫ぶ。悟は酔っぱらうと傑限定の甘ったれになってしまうのだ。キャパは小さいのでその前に大体潰れてしまうのだが、今回は潰れるほどの量を飲まなかったらしい。
「すみません!僕のスクリュードライバーと間違えて飲んでしまって!でも一口ですよ!?」
「一口だって駄目なもんは駄目なんだって!伊地知ー!!!あ、馬鹿悟。吸うな離れろ」
頬じゃなく今度は肩口に顔を埋めて首に吸い付き始めた。引きはがそうとしているのに酔っ払いの癖に妙に力が強い。引き離すに剥がせず伊地知へとヘルプを出したが、傑の腰に抱き着いてイヤイヤとばかりに首を振る悟の独壇場だ。
「あ、寝た」
ざわつくスタッフをよそに好き勝手した悟は電池が切れたように寝落ちてしまった。
「酔うと五条さんてそんな感じになってしまうんですねぇ」
一部始終を見守っていたスタッフの一人が声をかける。
「私が居ない時は少しは違うようだけどね」
「惚気ですかそれ」
「君にはそう聞こえるなら、そうなんじゃないか」
結局忘年会がお開きになるまで、悟が目を覚ますことはなかった。
「伊地知ありがとう。ここまで来ればもう大丈夫だ」
伊地知と二人で抱えるようにして悟をマンションまで連れて来ると、玄関を入ったところで伊地知にそう告げる。身体のでかい悟を運ぶのも一苦労だ。
「そうですか?ベッドまでお手伝いしますけど」
「うーん、まぁなんとかなるよ。お疲れさま。来年もよろしく」
「はい、それではここで失礼します。良いお年をお迎えください」
扉の向こうへと消えた伊地知を見送った後、抱えている悟を小さく揺する。
「悟、家だよ。起きな」
「ん……んぅ……おき、る……」
何度か揺すっていると、目が開いたのか開いてないのか分からないくらいの隙間を開け傑の肩から腕を外してフラフラと廊下を歩き始める。アウター、インナーをポイポイと脱ぎ捨て廊下に落としていく。その後ろを傑が抜け殻を拾ってついていく。
「私は寝る準備するからちゃんとベッドに入って寝るんだよ」
「んー……」
帰巣本能のようなものがあるのかは知らないが、ちゃんと寝室へと消えていくのを確認してから傑はシャワーを浴びてから寝ようとバスルームへと向かった。裸になって鏡を確認すると首には紅い痕がくっきりとついている。
「悟め、遠慮なく吸いやがって」
きっと明日には覚えておらず、その痕はどうした、浮気かなどと騒ぎ立てる様子が思い浮かびげんなりと肩を落とした。
寝る準備を終えて寝室へと行くと、ベッドの上に倒れ込むように寝ている悟の姿があった。上半身は裸で下はズボンをはいたままだ。足は床につき、上半身だけベッドへと身を投げ出している状態で一晩放っておけば風邪をひくだろう。ズボンを脱がしパンツ一枚にさせるとベッドの上で転がして布団をかける。その横に傑も潜り込んで目を閉じた。朝には予想通り悟の騒ぎで起こされるわけだが、しばしの安息の時へと意識が沈んで行った。