お礼のお茶はなぜか気不味い。「研究、手伝ってくれてありがとね。」
「いえいえ、こちらこそ。おかけで捗りましたよ。」
山中とはまた違う某サイト。白湖は優良博士に呼ばれて幻覚を見せるオブジェクトの研究の監修をしていた。そして今はそのあとの話。いろいろ仕事が片付いたあと、帰るまで時間があるということで優良博士がお茶の時間をとってくれたのだ。
(とはいっても三瀬にお茶の誘いは何回か受けたことはあるけど未だにどれがいいかとかよくわからないんだよな…アールグレイとかダージリンとか俺にとっては魔法の言葉にしか聞こえん。)
「ところで白湖博士、」
「はい、どうかしましたか?優良博士。」
「あなた、助手を気にかけているのね。」
「あー、まぁ…武出は大切な存在ですし、助手としても部下としても有能な存在ですから。」
「でもあの子、私の知り合いに手を出そうしたのよね?」
「それは…!!」
白湖に鋭い言葉が刺さる。それは共同研究をしていた際に連れてきた武出がふらっといなくなり、気づいたらサイトの霊安室で死体を見つめていたという話だった。それをたまたま後を追っていた早倚上博士に見つかって事が発覚した。幸い武出のほうは武器を持ってなかったし、早倚上博士にも被害はなかった。だがこのことについては白湖博士の監督不備ということになるためあとの研究については腹痛の真っ最中であった。
「誤解です…!あのときの武出は無意識に歩いている状態なのであそこにいたのは偶然で、襲うつもりはなかったと思われます…!!」
「なるほど…。」
「気まずい話をさせて申し訳なかったわね。少し気になっただけから大丈夫よ。」
(よかった…)
白湖の熱弁が伝わったのか優良博士はにこりと微笑み、お茶を一口飲んだ。それに合わせて白湖も紅茶を飲んで気分を紛らわせた。すると部屋に小さな額で飾られた絵が目に入る。100均で買ったようなはがきサイズのフレームに入った水彩画だ。
「どうかしたの?」
「んぐっ!」
目線が逸れたのがバレたのか優良博士に声をかけられる。それに吹き出しそうになったのか声が喉に詰まった。
「いや、壁に飾ってあった絵がきれいだったもので。」
「ありがとう。あれ私が描いた絵なのよ。」
「そうなんですか…」
「もしかして絵に興味があったりする?」
「いや友人が絵描きなもので…」
「まぁ!それは素敵ね。一体どんな人かしら?」
「変わり者ですよ。でもその代わり、アレみたいな絵だったりもう一回り大きな絵をくれるんです。」
白湖は壁にあった絵をもう一度注目する。それで自分が寮に残したアルバムのことを思い出した。あれは三瀬が定期的に渡してくれる絵のコレクションで三瀬は高名な画家なため、あれが何円の価値があるかなんて白湖は考えたくもない。それでそのあと優良博士が「それはいい人ね!」と手を合わせて笑ったがそれほどの人物でもないと白湖はやんわりと否定した。すると白湖のポケットからスマホのブザーが鳴る。
『博士!帰りのヘリまであと10分ですよ!!』
武出からのメッセージだった。それを見て白湖は顔色を変える。
「あら、どうかしたの?」
「優良博士、助手からの連絡でもう少しで帰らないといけないみたいで…ご用がまたあれば呼んでください!それでは!!」
白湖は急いで残りの紅茶を口に含む。そして荷物を持っては立ち上がり勢いよく扉を開けてどこかへ行ってしまった。
優良博士はそれに口を開けて困った表情をした。