とあるお昼の仮面カフェ─一人の男がチリンと扉のベルを鳴らした。
「いらっしゃいませー!おや?浄さんじゃないですか。」
「やぁ、執事。今日はトレーニングをしたい気分なんだけどエージェントはいるかい?」
「えぇ、いますけど…ご主人様は今休憩中でして。今は執務室にいると思いますよ。」
「OK。じゃあ執務室へ当たってみるよ。」
どうやら藍色の仮面を被った紳士、浄はエージェントを探しているようだ。そしてそれを聞いた彼の執事は丁寧にエージェントの出所を答え、執務室へ案内する。
(コンコン。)
「エージェント、いるかい?」
なにも返事がないため無言でドアを開けると縮こまった猫のように驚くエージェントの姿が見えた。手元にはスマホ持っているようだ。
「わぁ!!いきなり驚かせないでくださいよ!浄さん!!」
「うーん、心外だなぁ。さっきから何回もノックしていたのに…」
「あ、それは申し訳ないです…」
「ところでずっとスマホを見ていたようだけどなにか調べ事をしていたのかい?」
話題を逸らしてもう一度、浄はエージェントの気を引く。浄はエージェントがなぜ集中するほどスマホ見ていたのか気になったからだ。
「えっと、そうじゃなくて電子書籍で本を読んでいたんです。」
「電子書籍?」
「『空色文庫』って言って著作権の切れた小説を読めるサービスがあるんですよ。」
そして得られた真実は意外なもの。『小説を読んでいて集中していたから』であった。それから浄はその電子書籍のサービスについてエージェントから説明を受ける。
「なるほど。つまりは大体の著名な作品が読み放題、ということかい?」
「はい!そうなんですよ!気が向いたら読むようにはしていて。」
「で、今はどんな話を読んでいたんだい?」
「え、それは…太宰治の……」
「もしかして『人間失格』とか『富嶽百景』を読んでいたとか?」
「え!えぇ!!そんなところですね!!」
エージェントは焦った顔をしながら誤魔化す。明らかに不自然な態度だったが浄は気にしていないようだった。それにエージェントは
(よかった…浄さんみたいな人どこかで身に覚えがあるなって思って『グッド・バイ』読み直してたけどそんなことは言えない……)
なんて浅はかな感情を抱いていたがそのことは表には出せなかった。
「『空色文庫』、ねぇ…ありがとう。丁度、読書家なレディの相手をしていたからね。良い収穫だった。」
「いえ〜!!こちらこそ!!」
「ところでトレーニングルームを借りたいんだけど…」
意外なところで本題に戻す浄。それにエージェントはピシッとしてしまう。
「トレーニングルームですか?もしかして特訓をしたいとかで…?」
「まぁ、そういったところかな?そもそもこの部屋に入ったのも君を呼ぶためだったしね。」
「なるほど、では付き添いに…」
先程の慌てた態度はどこへやら。打って変わって立ち上がっては浄をトレーニングルームへ案内した。