ずるい男なんだ 「すみません、王に仕立て上げて不自由にしてしまって」
そうカブルーが酔った勢いで言い出した。
王に仕立て上げられた、正しい表現だ。
「もっといろんな事ができるのに、あなたをここに閉じ込めてしまって」
今にも泣きそうな雰囲気にどう言うべきか悩んでしまうが、ライオスが言えることはひとつだ。
「カブルー」
背中を擦ると潤んだ青い目が見上げる。
「もっと悲しんで」
そう言えば目を見開いて
「俺のためにもっと泣いて」
涙を零してライオスに抱きつく。
心の中の気持ちを吐き出してくれた、辛いと口にできる、自分の気持ちを見つめてる。
それが悲しくて辛い、泣き言が言えない。いきなり王として祀り上げられ慣れない仕事にあくせくして。
もっと世界を見たいだろうに。
もっと魔物に触れたいだろうに。
自分の欲を捨ててどれも叶わなくなってしまった可哀想な我が王
彼が望むのならいくらでも代わりに涙を流そう
……とか、思ってるんだろうな。
ライオスは抱きつく巻き毛を目下で確認しながらわからない程度にため息をつく。
実のところそんな苦痛ではない。
そりゃ人に囲まれるのは面倒だし緊張するし怖いし嫌だ。王位だってヤアドとすったもんだの末に受け継いだようなものだ。
俺に務まるわけがないと思ったし、もっといろんなところを歩きたいとも思う。
でもそれはいわゆる「いきなり大金が空から降ってこないかな〜」ぐらいの願望だ。
魔物に会えなくなったなんて誰のせいでもない。まさに天災による治らない疫病のようなもので誰も責められない。
商人に拾われて歩きまわってる途中でどこまでも同じ空が続いてると感じたことがある。
逃げても逃げても変わらない
要はどこにいても気の持ちようということ。
幸せはそこらに転がってる小石のようで小さいものから大きなものまであって、それはいつも身近に転がってる。
それに、実際王位を継がなかったら俺は何をする?
また商人に連れ歩いて貰うか?確かに魔物が寄り付かないなら重宝されるだろうが、それがバレたらこちらに危害を加えかねない。
金の卵を産む鶏の中に金は入っていないと捌くまではわからないのだから。
ならば研究者にでもなろうか?魔物が寄り付かないのに。
では牧場主になろうか、それはいいかもしれないな。魔物に襲われる心配もない、天職になり得るかも。
でもやっぱりここのほうがしっくりしてしまう。
ここにいればマルシルに寂しい思いをさせないですむ。それに俺が死んだあとも残す何かを作れる。
ここにいればファリンだって帰ってくる。
この国が俺の家で帰る場所となれる。
イヅツミだって時々顔を出すんだから大きな家と言っていいはず。
カブルーの頭を撫でて少し早る心を落ち着かせた。
同情してもらえるのは嬉しい。そしてその気持ちを利用するようで心苦しい。
カブルー、君こそどこにだっていけるのに
もう迷宮はない。脅かす存在はない。
どこにでも魔物はいるわけだけど、迷宮が崩壊した今の世でウタヤのようなことは起きにくいだろう。
なによりカブルーは若い。
この若さで色んな物を背負い込みすぎてる。
カブルーの背中を少しでも荷を落とせないかと擦ってみる。
本当に
「カブルー、君はこれからも一緒にいてくれるかな」
もう分かりきってる答えだ。
青い目が潤んで輝いて細く笑う。
「もちろんです」
ひどい男に捕まったものだよ