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    ・世界を救うためにスレイが人間性を失った話
    ・スレイが世界を救うことを放棄してミクリオと帰る話

    #TOZ

    スレイ浄化シミュED2案【救済の代償】世界を救うためにスレイが人間性を失った話
    マオテラスが意識を取り戻したとき、まだぼんやりとした視界の中に、ひとつの人影が立っているのが見えた。世界は穢れに満ち、混沌に飲み込まれようとしていたはずだ。だが、今、その闇は薄れていく。もしかして――

    「……スレイ?」

    彼の声がどこか頼りなく響く。しかし、返答は静かで、無機質だった。

    「世界を救いに来たよ。」

    その瞬間、マオテラスの胸が痛んだ。立っているのは確かにスレイだ。だが、あのスレイの優しげな笑顔や、仲間を思いやる暖かな目はどこにもない。彼の目には光がなかった。ただ世界を守るために立つ「道具」のように、スレイはそこに存在している。

    周囲を見回すと、確かに世界は変わっていた。長く覆っていた穢れが少しずつ霧散し、再び希望の光が戻りつつある。彼の偉業は間違いなく世界を救った。だが、その代償に――。

    「人のまま世界を守り続けるなんて、いくらなんでも無謀だよ。」

    スレイの言葉は冷静で、感情の欠片すら見当たらない。その無感情さが、マオテラスの心を凍らせる。その言葉の裏に隠された意味が理解できた瞬間、喉の奥から何かが込み上げてきて、息が詰まった。

    「……スレイ? それって……どういうこと?」

    マオテラスの問いかけに、スレイはほんの少し微笑んだ――それは彼の知るスレイの笑顔ではなかったが。

    「後はオレに任せて。『人』には重すぎる荷物も、『道具』なら上手く行くからさ。」

    その言葉が刺さるように冷たい。そうか、やはりスレイはもう人間ではないのだ。彼は使命を果たすために、感情も、心も、すべてを捨ててしまった。「道具」として、世界を守るための存在に成り果ててしまったのだ。

    息ができない。心臓が重く、痛む。マオテラスはその事実を受け入れることができなかった。意識を失っていた間に、彼に何が起きたのか?自分は何をしてしまったのか?

    「どう、して」

    声はかすれ、震えていた。スレイが何を失ったのか、そして自分がそれを止められなかったことへの後悔と罪悪感が、彼を縛りつける。

    だがスレイはそんなマオテラスの心情に気づかないかのように、軽く首を振ると、あっさりと答えた。

    「そんな顔しないで。大丈夫だから。オレが全部救うから」

    優しいのに冷たくて底が見えない。全部救う。スレイはそう言うけれど、マオテラスには到底そうは思えなかった。

    「それは……それは『全部』じゃないよ……」

    「……ごめんね」

    マオテラスの呟きは虚しく響くだけだった。

    【安息の選択】スレイが世界を救うことを放棄してミクリオと帰る話

    終わりの見えない戦いに、スレイは徐々に追い詰められていた。

    誰かを助けても、感謝されるどころか、ただ恐れられ、化け物だと罵られる。彼の背負う使命の重さは次第に増し、希望を救うための行動が、むしろ絶望を広めていく。世界を守るという崇高な目的に、彼自身が押し潰されようとしていた。

    「帰りたいな……」
    誰にも聞こえないように呟いたつもりだったその言葉は、しかし、ずっと傍にいるミクリオにはしっかりと届いていた。

    「……分かった。今から帰ろう」
    突然の言葉に、スレイは目を丸くする。
    「え?」
    ミクリオは、何の迷いもなく、真っ直ぐにスレイを見つめていた。その瞳には、スレイの苦しみを理解した上での決意が見て取れた。

    「もちろん僕も一緒だ」

    その瞬間、スレイの胸にあった何かがふっと軽くなった。
    「……いいのかな……オレがこんなことして……」
    スレイの声は震えていた。使命を放棄するなんて許されない。そんな考えが、彼の中でずっとこびりついていた。世界を救う責任、それを背負って戦ってきた日々。それを捨てることが正しいのか、答えが見つからなかった。

    だが、ミクリオの言葉は、スレイの迷いを優しく溶かしていく。
    「自分を蔑ろにする者に、尽くす必要なんてあるのか?」

    その言葉は、スレイの心を揺さぶった。彼がこれまで背負ってきた責任が、一瞬にして軽くなるような気がした。いつも冷静で理知的なミクリオが、今だけはスレイに対して、無条件の肯定を与えているのだ。

    「そっか……帰って、いいんだ」

    初めて、彼は自分自身を許すことができた気がした。ずっと戦い続けてきた彼にとって、帰るという選択は許されないと思っていた。だが、その考えをミクリオが否定し、自分のために生きることを勧めてくれた。

    「遅くなってすまない。もっと早く君を連れ帰るべきだった」
    ミクリオは、スレイの肩にそっと手を置く。その温かさに、スレイは胸の奥に詰まっていた苦しみが少しずつ解けていくのを感じた。

    「……まだ、大丈夫だ。たぶん。帰り道くらいなら」
    スレイの声は微かに震えていたが、その瞳にはかすかな安堵が浮かんでいた。もう、無理をして頑張る必要はない。彼はついに、自分の限界を認めることができたのだ。

    「じゃあ、行こうか」
    ミクリオが静かに微笑みながら、スレイを促す。彼の言葉は、まるで長い旅の終わりを告げるように、優しく響いた。

    スレイはゆっくりと立ち上がった。その歩みはまだ重く、決してすべてが解決したわけではない。だが、彼には帰る場所がある――ミクリオが共にいる限り、彼は決して一人ではないのだ。

    二人は静かに歩き出した。世界はまだ穢れに覆われているが、それでも――。

    スレイはもう、すべてを背負う必要はない。彼が帰ることを選んでも、世界は終わらない。そして、自分自身を守ることもまた、大切な選択肢なのだと気づいた。

    ミクリオの言葉に背中を押され、スレイは初めて本当に肩の荷を下ろした気がした。

    「帰ろう、ミクリオ。二人で」
    「ああ、帰ろう」

    二人の影は、穏やかな風に包まれながら、ゆっくりと遠ざかっていった。
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