黄昏の回廊「ワーレン」
強く掴まれた両肩の、布地越しに伝わる手のひらの体温が灼ける様に熱い。それが錯覚だと分かっていても。でなければ先刻から繰り返し漏れる、浅く短い呼吸の理由が説明出来なかった。
「こっちを向け。俺を見ろ、ワーレン」
頼む、と低く掠れた声が耳元で熱っぽく囁く。漂わせる色香が肌を、胸を焦がすこの瞬間を知りたくなかった。
顔を背け瞑目する赤銅色の男は哀願する。やめてくれ、と。ただその一言を絞り出すのがやっとの様だった。自身を断崖の縁へ追いやる僚友の腕へ掛けた指先が震えている。かつて妻があり、今は亡いがそれでも血の繋がった子がいる。帝国男児よかくあれかしと幼い頃から繰り返し聞かされ、その通りに道を違える事無く育ってきた。この期に及んで踏み外せと言うのか。
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