ろくいのなんか 夜深く目が覚めてしまう時間が案外好きだ。
決まって隣に髭面の男がいる時だけ、ベッドが狭い、と身体が勝手に腹を立てて起きてしまう。
正真正銘己の五体だ。
共寝を強請っておいて目が覚めてしまうのだから。
隣で眠る男がちょっとやそっとの刺激では起きない事に気付いてから、この時間はひどく居心地がいい。朝に整えてから放置された顎の髭は残しているところ以外からもちくちくと生えていて、年齢よりも熟れた顔をする。けれど目元だけを見れば自分と同じ、むしろそれよりは少し幼いような印象を受ける。
そんな事を見つけるこの時間が案外好きだ。
触れても起きない事を知っているから、今日はエリア外からしぶとく生える髭に触れてみる。ある程度伸びた髭の触り心地は慣れると悪いものではないが、これはいちいち反発してきて可愛くない。爪で挟み込んで抜けそうにもないが、これが朝にはまだもう少し伸びていたりする。そうすると抜けたりするのだろうか。
生憎、恋人である男の髭を毟るような悪趣味は持ち合わせていない。
(喉、渇いたな……)
一時間くらい起きていたつもりで時計をみても、五分も経っていない。無骨な男の髭を見て一時間経っていたとしたら、それはそれで己の神経を疑う。
起きないだろうと高を括って、六弦の身体を乗り越えてベッドから降りた。ベッドの端で身体を支えながら、起こしてしまわなかったかと待ってみる。六弦の服の袖に手が触れているのに、起きる気配はなかった。
「残念だったな」
それは誰に向けた言葉でもない。
ただ口にするだけで心底満足して、もう一度喉の渇きを思い出させるだけだった。