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    BEST11を飲みまくって絡み酒してくる水野くんを介抱する風祭くんfeat.シゲちゃんと不破くん
    ※2024年1月28(日)開催Bttf9での無配です。

    #将水
    placeTheWater

    風祭くんはお酒の席で介抱役って本当ですか? 酒を飲んでも呑まれるな、とはよく言うが。


    「水野くん大丈夫? ちゃんと水飲んでね」
    「これ酒か?」
    「ううん、水だよ」
     やや虚ろな目でグラスを見つめる竜也を見ながら、将は曖昧に笑う。普段より無防備な竜也の姿は大人らしい色気があって、普通の人間であれば黙っていないのだろう─…しかしここに居る他の三人にとってはいつもの事で、何かが起きたりは決してなかった。
     竜也なグラスに注がれた水を渋々飲んでみせるものの、半分も減らさずにお猪口に注がれた日本酒に、また口を付ける。まだまだ飲むつもりでいるのか、お猪口はすぐに空になって、成樹がそこに酒を注いだ。
    「ちょっとシゲさん。水野くんもう酔わせたら駄目ですよ。不破くんにも同じ事してるんだから」
    「そんなん言うなやカザ。タツボンもまだ飲みたいやろ? せっかく自分達がお酒になったんやから。なあ?」
     へらりと笑う成樹と反比例するように、竜也のやや虚ろな視線がむっと細まった頃、先程より勢い良く日本酒を飲み込んだ。
     からり、と机とお猪口の当たる音がしてから、また成樹が竜也のお猪口に日本酒を注いで行く。
    「そうやって水野くんも不破くんも潰して……あ、不破くん机に数式書いちゃ駄目だよ! さっき店員さんにコピー用紙貰ったから……」
    竜也のお猪口に注ぎ終えてから、自分のにも手酌して成樹はからからと笑った。
     すこしとろみのある、薄く飴色のような色の付いた独特の甘味のある、けれどどこか爽やかな飲み口の日本酒─…それのラベルにはここに居る四名が中学生だった頃の写真が使われている。
     あの頃の自分達の活躍を日本酒として表現したい─…そう言った仕事の依頼が舞い込んできた時は驚いたが、当時の写真を選んだり日本酒の味のアイデアになるからと取材を受けたり、監修する為に酒蔵へ赴いたり試飲してどんな食べ物と合わせると美味しいのか……そんな事をしている内にあっという間に時間は過ぎて行った。
     話を聞いてからすぐに発売になったような気がするし、時間をかけてゆっくりと作るものだからと凄く待ったような気もする。それは久しぶりに当時の仲間達と会って話が出来た喜びだったり、普段やった事のない仕事への目新しさだったりで、きっとどちらも正解なのだろう。
     そうやってサンプルとしていくらかを酒蔵から頂いて、試飲した時の美味しさから自ら注文もした。
    自分達のラベルを冠したオリジナルの日本酒が発売されるというのは何だかむず痒かったが、あの時から今までを肯定されているようで、その酒瓶の重みが嬉しく思える。
     せっかくなら最初の一本は仲間達と開けたいと思って─…将、竜也、成樹、大地の四人は自分達の日本酒を一本ずつ持ち寄って、同時に口開けをしようとなったのだった。
     楽しい時間である事に変わりはないが、当然問題もあった。一升瓶とまでは行かないものの、そこそこの大きさのものが四本、そして勿論それだけを飲む訳でもなく。久しぶりに四人で集まった喜びもあり、日本酒が残り一本という所になって、竜也と大地がつぶれた。
     この四人で酒を飲む時、成樹はよくそうして竜也と大地を潰した。将には家庭がある為かその標的になる事は少ないが、竜也と大地の介抱役にまわる事が多く、成樹はそれを見て笑っている事が多かった。ちょうど今この瞬間のように。
    「ええやろ、これ見にわざわざ関西から来てんねんぞ、こちとら」
    「不破くん、ここにノートあるから……シゲさん何か言いました?」
    「いや、別に」
     大地が人間とは思えないようなスピードでコピー用紙を埋めて行くのを見て、将が店員を呼びつけて追加を紙を貰う。その間に大地の鞄の中からノートを見つけ、後ろに差し込んだ。これでこの飲み会は乗り切れるだろう……ほっと胸を撫でおろす将を見ながら、成樹が手酌した酒をぐい、と飲みこんで笑顔を隠した。
     十五歳の頃はこうしてあの時の仲間達と酒の飲めるようになるなんて思っていなかった。きっと自分の事だからどこかで線を引いて自分だけが消えてしまうと思っていた。自由を手に入れる引き換えに、もう大事なものは作ってはいけないと思っていた─…そんな成樹にとってはこういう光景が何よりも不思議で代え難いものでもあった。人生何が起きるか分からないものだ。


     勿論、そんな感傷だけではなく、楽しい瞬間もある。
    「かざまつり、お前本当に大丈夫なのか?」
    「え、何が?」
    (お……きたきた)
     もともと将の隣に座っていた竜也が、大地にかかりきりだった将のシャツの袖をくい、と引っ張る。それを見て待ってました、と言わんばかりに成樹が身を乗り出した。
     竜也の目は相変わらず虚ろで、目に見えて酔っているのが分かった。顔も赤らんでいてこうなるまでに相当酒を煽ったらしい。そうしたのは半分くらい酒を注ぎ続けた成樹の所為でもあるのだが。
     大地は酔ったらどこにでも数式を書いてしまう悪癖こそあるが、仮にどれだけ酔っていても顔と態度には出ない。よって目に見える形で酔っ払った姿を楽しめるのは竜也だけだ。そして竜也の酔い方というのが、本人を前に口には出せないが大変面白く。
    「らってお前、次のシーズンもプロで続けるって言ったって、試合に多く出られる訳じゃないだろ。俺はお前が……」
    「水野くん、さっきもその話したよ」
    「してない……」
     していた。つい一時間くらい前に。
     この中で四人中三名がプロのサッカー選手として道を歩んで、今となっては現役の選手として続けているのは将だけだった。
     他の仲間達もそれぞれ第二、第三の人生を歩んでいる者も少なくはない。そういうのもあって、将の選手としての契約更新がいつまで続くのか─…こうして集まる度にそういう話になるのだ。
     将は次のシーズンも選手として契約を更新するらしい。と言ってもかつて在籍していたような注目度の高いチームの所属ではないし、体力的な面もあってフルタイムの出場は難しい。ずっと強い輝きを放っていた、ラベルに写っているあの頃のようには行かない。
     竜也は二度目の引退の後、指導の方面へ進んで、今期から日本代表のコーチを務める事になった。二度目の引退に至るまで将や成樹に支えられ納得するまでサッカーをした。それでも衰えて行く自分と向き合うのは苦しい。
     そしてそういう将を見るのが、サッカーに触れ続けている、彼の美しさを見ると同じくらい苦しかった。
     将自身の選択を頭では納得しているが、風祭将は自分達の世代にとって、一際不思議な光を放っていた選手だ。光を放てる時間が確実に短くなっているのは、本人にも自覚がある。
    「新しい場所で、お前がもっと輝く場所があるかもしれない……」
     竜也は彼等の世代の中で、将の放っていた光を一番近くで感じていた。そういう光のタイムリミットみたいなものを大事にしたいと思うし、光が失われる瞬間を見るのが怖い。
     普段は理性的に彼の選択を受け止めていても、酒が入ると感傷的になりやすいのだろう。かれこれ数年ほど、そういうやりとりをしていた。
    「俺はお前のサッカーが好きだから、お前のサッカーが傷付いたり、蔑ろにされるのを見たくない」
    「水野くん……。シゲさん、あの、カメラは止めてください。水野くん怒りますよ」
    「ちっ、バレたか」
     ぴろん、とスマホの録画が終わる音がする。成樹が将に向かってぺろ、と舌を出して眉を寄せた。せっかく新しく揺するネタが出来そうだったのに、と溢しながら自分の酒をまた注ぎ始める。
     数年間似たようなやりとりをしているのだ。本人達にとっては他人が思うほどシリアスな話ではない。何度も同じような会話をしてしまうのはそれこそ歳を重ねた証拠なのかもしれない。おそらく、酒の所為で感傷的になっている竜也を除いて。
     竜也はいまこうして自分の心中を取ろしているさえ記憶さえ曖昧だろう。
    「ぼくが思った通りに動けるのはほんの一瞬かもしれないけど……それでもその一瞬の為の努力と、その一瞬がすごく楽しいから。ぼくはまだサッカーしてたい。水野くん、見ててくれる?」
     将は竜也のそう言った様子にも真摯に答えた。サッカーに真剣な様子や、誰よりもサッカーが好きな所は昔から変わらない。
     成樹にとって、普段自分の心中を口にする事のない竜也が酒で壊れていくのを見るのは勿論、こういう将の真剣な表情を見るのも好きだった。いつまでも変わる事なく、サッカーと向き合い続ける姿、そしてそれと同じくらい仲間を重んじる姿が眩しい。
     何らかの数式を組み立てている大地もその瞬間だけは手を止めて、将の言葉に耳を傾けている。将の言葉が終わると、納得したような様子でまたペンを走らせる。酔っているには軽やかなそれは、恐らく気分が良いのだろう。
     昔から将はそういう魅力があった。そしてここに居る将以外の三人は誰よりもその輝きを知っていた。
     竜也も弱く頷いて、将から渡されたグラスを飲んだ。中身はしっかり水だ。もしかしたらもう飲んでいる味も定かではないのかもしれないが。
     心中を吐露した竜也の表情が柔らかくなって、将がそれに微笑んだ。もしかしたらあと数回、このやりとりは続くのかもしれない。
    それも良いか、と成樹が思いかけたその頃。
    「見てるよ、お前の事ずっとすきだから」
    「オア、」
    (ちょ、やば……)
     竜也の発言に動揺して、成樹が飲み終わったお猪口を手から滑り落とす。普段なら決してしないような事だが、成樹もそれなりに飲んでいたようだった。
     幸い割れはしていないものの、転がったお猪口を拾いながら竜也の顔を盗み見る。虚ろな目には特有の熱っぽさがあり、やはり酔っている─…しかし竜也の表情は柔らかいままだ。本人の中では本気なのだろう。
     成樹は、竜也が将の事を好きだった過去を知っていた。もっと言えば、彼が既婚者になってしばらく経つ今も変わらず好きで居るのさえ。
     中学の時、将が怪我の治療でドイツへ渡ってから相談を受けてからもう二十年以上になる。流石に既婚者になってから完全に諦めてはいるものの、好きという気持ちは消えないらしい。竜也と二人で酒を飲む時は時々、その話になったりもする。
    「言うつもりないから、絶対バラすなよ」
     成樹の脳裏に、竜也の言っていた言葉が頭を過った。
     二十年以上言わずに守ってきた気持ちを、酔いに任せて記憶も定かではない状態で告げてしまうのは流石に想定をしていなかった。成樹の頭がぐらりと揺れる。酔いの所為ではないはずだったが、酒を飲ませ過ぎた罪悪感から来るものの方が近い気がする。
    (せや、不破……)
     酔っていても認識や記憶はしっかりしている大地を見ると、ペンを握ったまま眠っているらしい。そう言えば新しい組織の研究であまり寝ていないと、この店に入った時言っていたような気がする。
     竜也の言葉に将が呆けている間、眠っている大地の姿勢を楽にする。これで頭ががくんと落ちた衝撃で起きる事はないだろう─…成樹がほっと胸を撫でおろした。
     これでもし竜也が今の告白を覚えていなくて、大地が覚えているのは、端的に言うと危険な状況だ。ふとした拍子に素面の竜也の前で言葉にしかねない─…いつまでも大地の事を不安視して申し訳ないと思う一方、そういった情緒的な面を、長い時間で成樹もほぼ感じた事がない。だからかえって上手く友人をやれているのかもしれないけれど。
    「うん、ありがとう。水野くんにそう言って貰えて嬉しい」
     そんな成樹の気苦労を知ってか知らずか、将が困ったように優しく笑った。今まで言葉が無かったのはきっと、何と言うべきなのか迷っていたのだろう。既婚者であって、恐らく将にはそういう感情もないはずだ。
     そういう人に返す言葉として真摯かつ、模範的な言葉だったように思える。将がずっと変わらず、将のような人で良かった、と成樹が心底安心した様子を見せて、止まっていた酒をまた注ぎ始めた。
    「良かった……」
     将の言葉が嬉しかったのだろう、竜也があどけない笑顔を見せる。まるで出会った頃のような表情は、どんな形であれ言葉にして報われたのかもしれない。
     満足そうに将が店員に頼んだ白湯を飲んで、安心した様子で微睡んで行った。


    「いや、すまんかった。タツボンの事飲ませすぎたわ」
     波乱はあったが、竜也と大地が完全に潰れた事でようやく卓が落ち着き始めた。四人で集まると大体そうなる流れで、自然と介抱役になる将もほんの少しだけ成樹につられて酒を飲む事が時々あった。
     四人ではしゃいでいた時とは違う空気が流れて、将も成樹も、この時間もまた嫌いではなかった。
    「本当ですよ、二人とも寝ちゃったし」
    「寝た方がお前は楽やろ、お守りせんでええやん」
    「シゲさんが二人を酔わせるからでしょ」
    「アハハ、ほんまそれ」
     成樹のお猪口が空になったタイミングで、将がそこに酒を注ぐ。代わりにまだ数度しか使われていない深い青のお猪口に成樹が酒を注いで、互いに新鮮な気持ちになった。
     甘く、どこか爽やかな日本酒を味わいながら、将は竜也のマフラーをひざ掛け代わりに身体にかけ、突っ伏した大地の背中に上着をかける。最後までご苦労な事だ。
     昔、それこそ日本酒のラベルに写っている頃ならば驚いたり、言葉を濁したりしたのだろうか。仲間に対して真摯な部分こそ変わっていないが、ちゃんとした大人の輪郭をしている。
     大人になったのだと思う。純粋すぎた将がこうやって、自然に振る舞える程度には。
    「忘れたってや、タツボン可哀想やから」
     ここで忘れてしまえば竜也の初恋めいた感情も守られる。成樹にとっては竜也はいつまでも何となく放っておけない弟のような存在だった。それは将にも言える事だが、現在の将はあの頃よりも危うさを感じなかった。
    「え……でも水野くん、時々ああやって話してくれますよ」
    「……は?」
     飲みかけた酒が唇に触れた所でぴた、と止まる。
    「十年くらい前から……二人で飲んだ時とか、お酒飲み過ぎた時、たまに」
    「はあ~~?」
     成樹が飲んでいないお猪口を勢いよく机に叩いて、日本酒が零れる。将が慌てておしぼりで机周りを拭くが、そんな事は成樹にとって関係ないようだ。
     無理もない、ずっと黙っていろと言われていたものを律儀に守り続けていたのに、当の本人が酔った勢いで伝えていたのだ。そんな滅茶苦茶な話があるか。
     竜也の放っておけなさはそういう所にあった。出会った頃から生きづらさを抱えてはいたのだろうが、それと折り合いがつかないまま大人になっている─…将とは違う種類の変わらなさが竜也にもある。大地もそうだし、気付いていないだけで成樹もそうかもしれない。
    「でも凄く酔ってる時だから、きっと覚えてないですよ」
    「いや、迂闊すぎやろ……お前以上に心配や、タツボンの事……」
     また酔いとは違う頭痛がして、それを流し込むように成樹が酒を煽った。特別仕様の日本酒はいつだって美味しいが、途端にアルコールを感じたのは、場の気まずさからなのだろうか。
     今回の竜也の告白が自分の飲ませ過ぎが招いた事であったとしても、とっくに前科はついている。しかも自分には絶対に誰にも言うなと言っておきながら……。成樹がなんとなく竜也にそういう扱いをしてしまうのも、そういう迂闊さや生きにくさの中にある抜けた部分からなのかもしれない。
     つまり将はずっと、本人の覚えていない告白を聞き続けてああやって返事をし続けている事になる。覚えていたら竜也はきっとおかしくなってしまうだろう─…それをよくもまあ、今の瞬間まで何も言わず仕舞っておけるものだ。今まで距離を変える事なく。
    そう考えると成樹の目の前でうっとりと日本酒を飲む将の姿が誰よりも大人に思える。彼はどこまでも友人の尊厳を守っていくつもりなのだろう。


    「それにぼく、」
     普段日本酒を飲み慣れない人でも飲みやすい、と言われていたからか、将の飲むペースもいつもより早いらしい。真ん中に置かれた、幼い自分が写った瓶を持って自らお猪口に注いだ。
     温かい色の照明で気が付くのに時間がかかったが、将の顔も赤らんでいる。さてはこいつ、
    「中学生の頃、水野くんの事すきだったから……」
    「オア……」
     将の表情はどこか熱っぽい虚ろさがあって、昔を懐かしんでいる。
     そして誰も知る事のない思いをぽろりと口にして、何てことないようにはにかんで見せるのだった。大人でありながら、その表情は日本酒に写った少年時代ともよく似ている。
     成樹はまた頭が痛くなって─…普段落とさない空のお猪口をからりと音を立てて、机に落とした。
     甘く爽やかな味が彼等の淡い感情のようで、急に冷たい水が飲みたくなった。
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