さて、どうしたものか。
随分がらんと静まり返ったロッカールームを見渡し、冴は思案する。身支度を終え来てみれば、人の気配はほとんど無かった。確か、打ち上げと反省会を兼ねた食事にでも行くとか何とか言ってた気がするが、自分には関係無いと聞き流していたらこれだ。
まぁ、ここに士道がおらず、見つからなければ、向こうが勝手に忘れて帰ってしまったという事になるため、冴に非がある訳でもなくなるので、それはそれで都合が良かった。
ロッカールームから数歩戻り、シャワールームの方へ向かうと微かな音を冴の聴覚は拾う。面倒だなと舌打ちをして、音のする方へと足を向ければドライヤーで髪を乾かしている奴が一人。
「おい、あの触覚……んんっ、士道はどこだ?」
「ン〜? あ、冴ちゃん!! 俺に何の用♡」
振り返り口を開けば、その相手は冴の探し人である士道龍聖その人だ。いつも逆立てている髪が、シャワーを浴びた後のため全て下ろしていて気付くのが遅れてしまった。
相手が士道と分かった瞬間、眉根をきゅっと寄せ冴の表情が険しくなる。
「ん、連絡先」
「えっ、覚えててくれた!? 待って! 待って待って待ってちょっと待ってて!」
スマートフォンを目の前にチラつかせてやれば、士道は喜んで飛び上がり、自分の荷物の方へ駆け出し、スマートフォンを握り締めて戻ってくる。
「ほら。あんまり使わないからな、適当に登録しといてくれ」
「んじゃ、俺の名前ダーリンにして登録しとこ♡」
「……は? 消すぞ?」
「ちぇっ。ちゃーんと本名で登録しますぅー」
唇を突き出しながら、器用に自分の端末と冴の端末を操作し、士道は互いの連絡先を登録する。テストね、と断りを入れ短いメッセージとスタンプが交互にトーク画面を流れてゆく。
「ちゃんと見えてる?」
「ああ」
「声聞きたくなったら電話しちゃうかも♡」
「時差考えて、かけてこい」
「えっ、電話するのはいいんだ。冴ちゃん、やーさしー」
ニコニコと屈託なく笑う士道に、おもむろに冴は手を伸ばす。その動きを目で追うが、特に抵抗も避けることもしなかった。冴の指が、士道の透けるような金色の髪をひと房すくい、ゆっくりと指を滑らせる。
「にしても……綺麗な顔してるよな、お前」
「もしかしなくても、俺口説かれてる?」
「は? 事実を言っただけで、どうしてそうなる」
「……無自覚?」
「だから何が」
「ん――――。冴ちゃん、こういうコトは気のあるヒトにしかしちゃダメ♡ 髪、急に触るのもよくない。勘違いしちゃうかも」
髪を掴む冴の手をやんわりと退け、士道はニイと笑う。しばらくじい、と士道を見ていた冴は再び手を伸ばし、顎を掴む。
「冴、ちゃん……?」
「気があれば、触っていいんだな」
選ぶ言葉、間違えたかも、なんて思いながら、でもまぁ面白いから良いか!と、士道はより笑みを深くした。