プロポーズの日(凛潔)――久しぶりに夏祭り行かねー? 丁度片付けしててさ、浴衣出てきたんだ
そう言って三色のストライプの浴衣を潔は差し出してくる。それを受け取ると、今度は懐かしくね?と言いながら、瞳と同じ紺色の浴衣を広げ見せてくる。
浮かれた顔しやがって……と思ったが、それが音になることは無かった。久しぶりに互いの休暇が重なった、そんな日くらい浮かれたっていいだろう。
***
カラン、と下駄を鳴らしながら前を歩く潔を見る。既にあれこれ屋台で好き勝手飲み食いして、あとはメインイベントの花火を待つだけになった。少し歩く歩幅を狭め、潔が隣を歩く。
「やっぱ金魚、一匹か二匹持って帰っても良かったんじゃね? 凛がめっちゃデカいのすくってたのもったいねぇ〜!」
「誰が世話すんだよ。お互い半分以上海外飛び回ってんのに」
「はは、だよなぁ」
笑って、また潔は前を歩く。どこまで行くんだとその背中に声を掛けると、花火が綺麗に見えるとこ、としか返ってこない。
花火大会を告げるアナウンスが聞こえてくるが、距離が遠いからなのか言葉として聞き取ることは出来なかった。
「うし、着いたー!」
「……何もねぇ」
目的地を告げず歩き続けた場所は、花火大会で屋台ひしめく河川敷の川を挟んだ反対側。
「遮るもの無くて、めっちゃキレーに見えるから」
得意げに話す潔の顔が、花火によって照らされる。あぁ、綺麗だな。花火の音に紛れ込ませる様に呟いたのに、潔の耳には届いていたらしく、だろ?と返された。花火じゃねーよ、クソ。
花火が打ち上がり始めた頃から徐々に空は藍色に染まり、夜が降りてくる。花火の破裂音が響き渡る中、隣に居た潔が二歩、三歩と足を踏み出し、そして振り返る。
「俺さ……、実は凛と会った時から」
打ち上げ花火の音よりも何よりも五月蝿いのは、自分の心臓の音だった。
「最初から、ずっと好きだったみたい」
過去形の言葉に息が詰まる。目の前に佇む潔が夏の夜空に咲く、一瞬の花火のような儚い存在に見えてきて、繋ぎ止める様に手を伸ばす。
「結婚しよーよ」
伸ばした手を握り返した潔の手は、暖かかった。
「凛」
「――は、最初からそう言ってんだろ、バカ」
その手の熱を確かめたくて、俺はそのまま潔の身体を抱き締めた。