IF
愛謝が所属マフィアのスパイ(本当はバイウェンくんのとこの所属)だったら的なやつ
「なあ愛謝、お前スパイやろ?」
「・・・きゅうに、なぁに?」
ボスに呼ばれて部屋に通された途端投げかけられたその言葉は、私の本当の正体を見破ったと言わんばかりのものだった。訳あって今はここにいるけど本当はウェンくんのところの所属だ。だとすれば私は確かに"スパイ"なんだろう。現にここで手に入れた情報は定期的にウェンくんに送っている。昨日だって送ったばかりだ。
「言葉通りや。お前別のとこの奴なんやろ?」
「・・・やだなぁボス、そんなことないよ」
ニコニコ。取り柄の笑顔で話す。本当に、笑えているのかな。不自然じゃないかな。大丈夫、まだ隠せる。きっとボスだって証拠を掴んだわけじゃない。きっと、大丈夫。
「シラ切るつもりか、おもろいわ。ほんならどこまでいけるか"試して"みるか?」
「・・・っ、アイシャ、痛いの嫌だなぁ」
「かまへん。おい、こいつ部屋に連れていきぃ」
後ろで控えていた"仲間"に腕を掴まれる。そのまま引きずられる。いくら私が戦闘慣れしていたとしても大人の力には全く及ばないし敵わない。抵抗すらできないまま連れていかれたのは所謂拷問部屋。他マフィアの拷問に使われるこの部屋には私も何度か入ったことがある。その恐ろしさも、知っている。
「っ!!ま、まって、ボス、話す、話すからっ!」
「へぇ、話す気なったんか。ほならはよ話してな、"愛謝"」
「・・・ッ、あ、アイシャは・・・スパイ、です」
言った。言ってしまった。ごめんねウェンくん。私もう帰れないかも。このまま全部話せば恐らくここから出ることは叶わない。それどころか一生ここに閉じ込められちゃうかも。もう、会えないかもしれない。
「どこのや」
「そ、れは・・・」
そこからは驚くほどあっさり吐き出してしまった。どこの所属かも、情報を流したことも、何が目的でここに来たのかも、全部、全部。その反面"ボス"は怒るでも脅すでもなくただ淡々と話を聞いていた。
「・・・それで全部か?」
「ぜんぶ、はなしたよ」
「そか。ならよかったわ」
よかった?思わず頭にはてなが浮かぶ。良いはずがない。ここの情報を横流しにしておいて、それも今1番敵対しているマフィアに、だ。一体何を言っている?
「愛謝、お前は最初から怪しかったんよ」
「・・・ぇ」
「マフィアにしちゃ不自然なほど幼い。しかも抗争に巻き込まれたにしては軽すぎる怪我。どう考えてもただのガキやない」
「・・・・・・」
全部、最初から、見抜かれていた。どこから、なんてものはない。言葉通り"最初"から、全て。なら何故その上で私をここに置いたの?即刻そこで殺していればよかったはずなのに。
「なんでここに置いたの?って顔しとるな。安心しぃ。お前に流した情報も話したことも全部真っ赤な嘘、やからな」
「・・・う、そ?」
嘘?書庫で見た本も、ファイルの中も、全部嘘だったというのか。私は、この人の手のひらの上でただ踊らされていた?弄ばれていた?暇つぶしとして?
「相変わらず勘はええんやな。さ、もうお前に用はない。とっとと帰り」
「・・・本当に、帰してくれるの?」
「疑っとるみたいやから言っとくが、最初から俺はお前なんざ信用しとらんのや。ここのことを何も知らんのやから、別にええわ」
「・・・・・・そっか。・・・今までありがとう、"ボス"」
「"今度から"は敵やな」
今度からって、最初からでしょ。全部知った上で偽物の情報を流させてたんだ。私の考えが、甘かったんだ。まだまだだ。まだまだ、未熟。みんなの足でまといになる。・・・つよく、なりたいな。少なくとも、"彼"の隣にいられるくらいには。