お弁当ネタざっくり以前おすそ分けを持っていった時から気になっていた、ゴミ箱に山盛りのプラスチック容器。
特盛と値引きのシールが一緒に貼られたそれらを、まさかこんなものばかり食べているのかと思わずまじまじと観察してしまった。
体に悪いと心配してみても気にした様子も改善される気配もなかったので、それならば自分が一肌脱ぐしかないと変な使命感に駆られて差し入れを作っては持っていった。
最初は一、二品の本当におすそ分け程度の量だったが、放っておくと鍋にいっぱいのカレーを一人で平らげてしまえる彼の胃袋に、ふと、もしかしたらまるで足りていないのではと気がつく。
それを明確にしたのは、やはり相変わらず彼の部屋のゴミ箱に詰め込まれた弁当の空容器だった。
それからだ、善意、責任感、それから少しの意地が重なってかなりの頻度で彼のために料理を作り、持っていった。
目の前で感想はうまいとしか言わないものの箸を止めずにもりもり食べる様子を観察して、帰り際には空っぽになった鍋の中身を見ては、少し、いや、かなり嬉しくなる。
完全に趣味の延長線上で餌付けをしてしまっていることに気がついてはいた。
しかしこの幸福感を手放すことはできず、ついには休みの日だというのにお昼に一緒に食べるお弁当なんてものまで作ってしまう。
そんな自分に苦笑を零した。
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バタバタと部屋の中から足音が聞こえ、寮の扉が開いた。
期待を隠しきれない表情、視線は手元の手提げ袋と重箱へ、犬なみの嗅覚で自分の料理を嗅ぎ分けるところまでになった彼を前に、少しやり過ぎたかもと思わないでもない。
『でも、止められないんだよね』
キラキラと輝く目でこちらを見て、部屋に入れと招き入れてくれる。その表情がたまらなく可愛いと思う。
靴を脱いで部屋にあがり、すっかり見慣れた部屋の中心に配置されたテーブルへと向かった。
「あ、宵越君」
はい、と宵越に向かって顎を上げ、瞼を伏せる。一度手が塞がっていることを理由に彼からのキスを強請ってから、この動作が合図のような役割を果たしていた。
彼は少しだけ戸惑った様子をみせたものの、横目で扉がしっかり閉まっていることを確認して、要求の通りに唇に触れるだけのキスを落とす。
「ありがとう」
赤くなった宵越の顔を覗き見る。
持っていた手荷物を机に置いて、半ばふざけてご褒美にと中から唐揚げを摘まむとその唇に押し当てた。
差し出されたソレを一口でぱくりと口に入れ咀嚼する姿を見ていて、ふと先ほどのキスを思い出し、ついに芸まで仕込んでしまったと思う。
ますますやめられられないなあと呟いた言葉は満足そうな響きを含んでいて、意味を測りかねた宵越はきょとんとした表情で首を傾げていた。