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    nejitoro

    @nejitoro

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    nejitoro

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    部員のみんなは部長が大好きで宵越くんのことも最高に可愛いと思っている。と思ってる。

    部長が好きなことを自覚し始める宵越物理的に手の届く範囲に目標とする人物がいるというのは、とても幸運な事だというのをよく理解していた。
    メディアから提供された映像だけではなく、本物の戦う姿を1から10まで見ることができる。
    加えてその相手に直接指導されるという理想の環境、人口の多いスポーツに身を置いていた彼はそれがどんなに貴重なことかを知っている。
    ホンモノをあらゆる角度から、穴が開くほどに見て、盗んで、実行して、わからなくてもわかるようになるまで何度も考えて、また観察してを繰り返し、そうして出来上がっていく自分のスタイルを成功体験とともに体に焼き付ける。

    壁にぶつかり、次を学び、打開策を編み出した。
    その繰り返しから、いつしかその姿を追うことが習慣となり、見ることと学びが宵越の中で固く結びつき、そうしていつの間にかコートの中以外でも追いかけるようになっていた。
    その視線は部活終わりの帰り道、寮に向かって井浦と横並びに歩く王城の背中へと向けられている。

    最初にその視線の異様さに気が付いたのは水澄だった。
    彼は宵越の肩を軽くたたくと、突然のことに驚いたのかビクリと肩を揺らす。
    横目で犯人を捉え、何か用でもあるのかと言わんばかりの表情をするので、自分のソレに気がついていないのかと水澄は半ば呆れてしまった。

    「なんだ……?」
    「いや、……あー、そんなに部長ばっかり見てどうしたんだって思ってよ。なんか言いたいことでもあんの?」
    「そういうわけじゃない……」

    歯切れ悪く返す宵越は言いよどむ。
    基本的に歯に衣着せぬ物言いをする彼の珍しい姿に、言いにくい事なのかと水澄は同じ歩幅で隣を歩きながら続きを待った。

    一方で宵越は言い淀んだつもりはなく、それ以上なにも返すつもりもなかったが、隣を歩く彼がその先を待っていることを視線で理解して、なんと返していいものかと考える。
    自分の中でも良くわからないソレを相手に伝えるのは難しい。いっそこれで終わりだと言い切ってしまうのも手だったが、別に邪険に扱いたい訳でもなかったためそれもはばかられる。
    くわえて水澄は普段するように茶化そうとする様子はなく、真剣に話を聞こうとする態度をとっており、それもすっぱりと話を切れない理由だった。

    「……よく、わからん」
    「は?どういうこと?」

    結局わからない事をわからないと伝える結果になったわけだが、それでは追及が来るに決まっている。
    案の定さらに掘り下げようと疑問を口にする水澄に、宵越はだからわからないと言っているじゃないか、そう言い返したい気持ちになった。
    結果、その気持ちを隠さずに水澄を捉えた視線が、目つきの鋭さも相まってにらみつけるような形になっている。
    その視線の意味を正しく感じ取った水澄は、後頭部に手を当てて無造作に掻いて見せた。

    「わからないってことは、無意識ってことか」
    「まあ、そうだな……癖、というのが一番近い」

    カバディをやっている時に部長ばかりみているからだと宵越は主張する。
    彼が王城に向ける全てを盗んでやるという意欲、確かに熱心な視線はそれと似通っていると水澄は思うが、ただ似ているだけでソレとは異なっているような気もしていた。
    技術を盗むときのギラギラとしたものではない、ただ純粋に目で追っているようなそんな風に見えて、だからこそ何かあるのではと声をかけたのだ。

    「熱っちぃ視線だったから、もしかして好きなんじゃねぇかって思ったんだけどな」
    「なっ……!?」

    とにかく深刻な相談ではないと判断した水澄はからかうような口調で、からかうように言葉を返した。
    本気でそういった訳ではなく、あくまで冗談だったが彼はそれを真面目に受け取ったようでわかりやすく慌てた声が漏れる。

    「なんでも色恋に結び付けるな!」

    眉間にしわを寄せて不快をあらわにする顔が、どこか赤く色づいていた。
    それが夕日のせいかはたまた彼自身の熱のせいなのかは水澄には判別がつかない。
    叱咤する声がどこか上擦っているのだって、突拍子のなさに慌てただけなのかもしれないけれど、もしかして本当に?と、そう思うキッカケになるには十分だ。

    冗談だと伝えれば、彼は今度こそ明確に睨みつけた後で腕を組んで一つ息をつく。
    その瞳は再び自然と王城を映したが、言われたばかりの言葉が頭をよぎったのだろう、あからさまに目を逸らした。

    好きなんてそんなこと、あるわけがない。
    宵越の唇から小さくて聞きにくい声が零れる。
    水澄は、もしかしたらつついてはいけない部分だったのかもしれないと彼のわずかに俯いた横顔を見て、そんな顔をさせるつもりではなかったのだけれどと内心焦った。

    「別にそんな悪いことじゃないだろ」

    フォローのつもりで声をかけながら宵越の背をたたき、その衝撃から一歩足を大きく踏み出すことになった彼は、本当にそういう感情(もの)ではないと心の中でもう一度否定した。
    一人で盛り上がる男の手を振り払い一喝することもできたが、そうしなかったのは心の隅でどこか疑う自分がいるからだ。

    目で追ってしまう、たったそれだけの行為が恋愛感情と紐づくなんて、そんなことは考えたこともなかった。
    もし水澄の言う通りだとしたら、と過ぎる可能性に宵越は首を振る。これは観察だと割り切った彼は、むしろ堂々とした視線を再び王城へと向けた。

    ------------------------------------

    「あれだけ熱心に見られると好かれてるのかもって勘違いしそうだよね」

    そう笑いながら語る王城に、勘違いも何もあれはどう見てもそういう感情だろうと井浦は心の中でつぶやいた。
    けして口には出さずに頭の中だけで留めておくのは、別に態々伝えてやる理由がないからだ。
    後ろから水澄と宵越の会話が微かに聞こえ、その視線の主ですら理解していないことに半ば呆れてしまう。
    満更でもない王城の様子から、どちらかが気がついて一歩踏み出してしまえば簡単に恋人同士という器に納まるだろうことは想像に容易く、見知った顔のイチャつく姿はあまり考えたくないなと眉間に皺を寄せた。

    「どうかした?」
    「いや、……まあ、なるようになれよ」
    「どういうこと?」

    それ以上は言わないとハッキリ言い放った井浦が本当に口を閉ざしてしまったので、王城は彼の言葉を頭の中で反芻し、ふと視線を後ろへと向ける。
    自然と熱心にコチラを見ている彼と目が合うと、コートの中ではけして外されないソレがふらりと揺れた。
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