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    misaki_MHR

    @misaki_MHR

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    misaki_MHR

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    イオハン♂馴れ初めを書こうとしましたが…

     初めてハンターさんを意識したのは、ボクがまだ本当に小さい頃のこと。
     父さんと母さんが旅に出て、おじいちゃんに弟子が出来て――里一番のハンターだった夫婦が亡くなり、思えば、色んなことが起きた頃だった。
     その子は、亡くなった夫婦の一人息子だという。お墓の前に立つその子は、重く伸ばした前髪のせいで、泣いているのか、いないのかもわからなかった。その、表情の見えない横顔が妙に頭に残って、離れない。おじいちゃんに手を引かれて家に帰る時も、その子は、じっとお墓の前から動かない。背の高い男の人――後のウツシ教官だ――が、その子の側に駆け寄って、ボクはようやくほっとした。ボクには、旅に出てしまったけれど、父さんも母さんもいて、側にはおじいちゃんがいてくれる。両親を亡くしたあの子は、これからどうするのだろう。一人ぼっちになってしまったら、どうやって生きていったら良いのか、その頃のボクには、想像も出来なかった。
    「おじいちゃん、あの子、どうなるの」
     その夜、おじいちゃんに尋ねると、おじいちゃんは、ふう、とため息をついて、ボクの頭を撫でてくれた。
    「ん……皆で面倒を見ることになるだろうな。イオリは心配しなくても大丈夫だ」
    「うん……」
     皆で面倒を見る。だけど、里一番のハンターを失った里に、そんな余裕があるんだろうか。その頃のボクはまだ、明確にそう思っていた訳では無かったと思う。けれど、今思えば、その頃の里の皆は、色々と無理をしていたような気がする。


     それから少しばかりの時が経ち。ボクはいつからかオトモを目指すアイルーやガルクたちと触れ合うのが大好きになって、オトモ広場で過ごすことが多くなった。寺子屋での勉強が終わると、一目散にオトモ広場に駆け出して、皆とかけっこしたり、じゃれ合ったりして過ごす日々。
     そうして日が暮れる頃、修練場から一隻の船がやって来る。その船には、前髪で片目を隠した男の子と、修練場のアイルーが乗っている。その子は、ハンターを目指して修行をしているという。両親がハンターの仕事をして亡くなって、その跡を継ごうとしている……それは、一体どういう気持ちからなんだろう。
     おじいちゃんがボクに跡を継いで欲しいと思っていることは知っている。加工屋の仕事が嫌という訳でもない。ただ、ボクには、それよりも……アイルーやガルクと一緒にいることの方が楽しくて、出来ることなら、彼らの面倒を見る仕事がしたいと思う。
     だから、家族を亡くしたその子が、両親の跡を継ごうと思えたことが、信じられない気持ちだった。


     その子は水車小屋に住んでいて、けれど、朝から修練場に行き、夕方まで帰ってこないから、ほとんど家を開けているようなものだった。
     ある日、コガラシさんに頼まれて、水車小屋に訓練に出ているアイルーに届け物をしに行った時のこと。水車小屋では、オトモ広場に入り切らないアイルーたちが、的を狙う訓練をしたり、挽かれた粉を団子屋に運んだりしている。そうして場所を貸している代わりに、食料やら何やらを里から提供されている……ということらしい。
     あの子はいないと知っていても、人の家に上がるのはちょっと気が引けて、恐る恐る水車小屋を覗き込む。すると、そこには。
    「あ……」
     何匹かのアイルーたちに引っ付かれて、困ったような顔をしている男の子の姿。今日はお休みだったんだ。ボクがオトモ広場に行くのは寺子屋が終わってからだから、修練場に行ったところを見た訳じゃなかった。どうしよう。
    「……どうしたの?」
     まずい。見つかってしまった。アイルーたちを退けて、その子はずんずんとこちらに向かって来た。いつも遠目にしか見ていなかったから、その子が随分と大きいことに圧倒されて、ボクは何も言えなくなってしまった。
     黙ったままのボクに、その子はちょっと困った顔をして、目の前にしゃがんで、目線を合わせてくれた。
    「どうしたの? おつかいかな?」
    「あ、ええと……これ」
     やっとのことで両手に抱えた荷物を差し出すと、その子はそれを受け取って、ぽん、とボクの頭を撫でた。
    「ありがとう」
    「う……うん……」
     もじもじしているボクに、水車小屋のアイルーたちも気付いたらしい。アイルーたちに手を引かれるまま、ボクは中に連れ込まれてしまった。
    「みんな、すぐサボるんだから……」
     アイルーたちの半分は大はしゃぎでボクの周りに集まってきた。その子は呆れ顔で、やれやれと肩をすくめる。
    「……ああ、気にしないで。俺は教官からの宿題があるから、好きに遊んでていいよ」
    「う、うん……」
     ボクに抱きついてきたアイルーを撫でてやりながら、こくりと頷く。
    「旦那さん、粉の袋がいっぱいになったニャ」
    「あらら、忙しいな……ほいほい、今行くよ」
     キミはゆっくりしてっていいから、と、その子は、ずっしりと重たそうな袋を抱えて、すたすたと外に出て行ってしまった。
     ボクよりはずっと大きいとは言え、その子もまだ子供と言って良いくらいの年だろう。それなのに、あんな荷物を軽々と持って歩くなんて……。
    「すごいなあ……」
    「ニャヒヒ……きっと旦那さんは、里一番のハンターになるニャ」
     なんてったって、このアイルーたちがいつも訓練してあげてるんだからニャ、と、皆が笑う。うーん、さっき、サボってるだなんだってボヤかれていたのはどっちだったかな……。あまり本気にはせず、はは……と笑っていると、後ろから人の気配がした。
    「おい、外まで聞こえてたぞ」
    「ニャッ、だ、旦那さん……おかえりなさいニャ、早かったですニャ」
    「忘れものだよ。財布取って」
    「ニャハハ……どうぞですニャ……」
     粉袋で両手が塞がっているから、アイルーは腰の帯に財布を挟んで、すりすりと手を擦り合わせながら、冷や汗をたらしていた。
     囲炉裏端には、いくつかの草や虫、薬の瓶、それにすり鉢や、見慣れない道具が並んでいる。ハンターの修行に使うのかな、なんて思いながら、それを横目に、アイルーとお手玉で遊んでいると、あの子が小屋に帰ってきた。その手には、団子の包みが抱えられている。ボクの隣に腰を下ろしたその子は、包みを開けて、ボクに差し出した。
    「……お団子、どうぞ」
    「あ……いいの?」
    「うん。ちょうどおやつの時間だったし」
    「ありがとう……」
     草団子を一本貰って、ぱくりと口に運ぶ。すぐにアイルーの一匹がお茶を淹れて持ってきてくれた。
    「お二人共、どうぞですニャ」
     二人でお礼を言って、もちもちの草団子をゆっくりと口に運ぶ。ボクが一本食べ終わる頃には、その子は五本ほどの団子をぱくぱくと食べ切って、まだ熱いお茶をぐいと飲み干してしまっていた。
     ボクよりもお兄さんなことを差し引いても、すごい食欲だ。ハンターを目指していると、これくらい軽く食べられないといけないのかも知れない。
     団子を食べ終わると、その子は、教官からの宿題らしいことをし始めた。いくつかの草や粉、水なんかをすり鉢に放り込んで、ゴリゴリとすり潰している。
    「何してるの?」
    「ハンターが使う薬を作ってるんだ。まだうまく作れないけど……」
    「へえ……すごいね」
     すごくはないけど、と、その子は眉を下げて、困ったように笑った。


     ボクとハンターさんはそうやって知り合い、時々、ハンターさんの家に遊びに行く日が続いた。遊びに行く、というと、ちょっと違ったかも知れない。たくさんお喋りするような訳でもなく、一緒に遊ぶということもなく、一緒にいるというだけだったから。
     だけど、ハンターさんが教官からの宿題――それはアイテムの調合だったり、装備の手入れだったり、体を鍛えるにあたって効果的という料理の作り方の実践だったりした――をこなしているのを側で見たり、一緒におやつを食べたり、そういう時間は、好きだった。邪魔しない方が良さそうな時は、訓練をサボるアイルーと遊んだりして過ごしていたから、邪険にされたことは一度もない。
     ハンターさんが家にいない時は、つまりは修練場にいる時だから、帰りはオトモ広場を通ることになる。へとへとで帰ってきたハンターさんに手を振ると、小さく手を振り返してくれるのが嬉しかった。
     それから長い月日が経ち、ハンターさんはついに、長年の努力を実らせて試験に合格し、ハンターの資格を得た。試験を受ける前から、ハンターさんは里一番のツワモノと言われて、教官が言い出した猛き炎の呼び名もあって、試験合格は確実と思われていたし、実際そうなった。けれど、試験前日、ちょっと暗い顔でため息をついていたことを、ボクは知っている。合格した、という話をしてくれた時も、嬉しいというよりはほっとした顔で、だけど、ボクは何と言えば良いかわからず、おめでとう、と言うことしか出来なかった。大きな手で頭を撫でられながら、ありがとう、と言うハンターさんの目が、なんとなく不安そうに見えたのは、気のせいではなかった、と思う。その後、ハンターさんは里長に呼ばれて行ってしまった。久しぶりに里からハンター試験の合格者が出たということで、期待されているのだろう。里長だけじゃなく、皆に。
     ボクとハンターさんの関係は、以前とは変わった。ハンターさんは、修練場ではなく仕事のために外へ出るように。そしてボクは、オトモと遊ぶためではなく、世話をして、里に来るハンターたちにオトモを紹介する管理者として、オトモ広場を訪れるようになった。
     将来、どうしたら良いか、ボクは随分と悩んだ。大好きなオトモたちと過ごせる仕事をしたい。けれど、おじいちゃんは、それには反対とは言わないまでも、いい顔をしなかった。自分の跡を継いで、鍛冶師になって欲しいという気持ちが大きかったみたいで、その気持ちもわかる。そうした方が良いのかも知れない、と思うことも。
    「――でね、おじいちゃんは言うんだ。ボクには鍛冶の才能もあるし、出来れば跡を継いで欲しかった、って……」
     狩りが休みの日、水車小屋で道具の手入れや調合をしているハンターさんに、ある日ボクはそんな話をした。ハンターさんはうんうんと話を聞いてくれ、それが嬉しくて、ボクはどんどん、胸の奥に溜め込んだ気持ちを吐き出していった。
     おじいちゃんのことは尊敬していること。鍛冶の才能があると言われたのは嬉しかったこと。だけど、一番弟子のヒバサさんには敵わないと思っていること。オトモの世話をするのは楽しいし、ハンターさんたちの力になれるのは嬉しいこと。でも、強くなりたくない訳じゃないから、出来れば、武器の扱いはもっとうまくなりたいと思っていること……。
    「ボク、どうしたら良いんだろう……このまま、オトモ広場の仕事をしていて、良いのかな……」
     ハンターさんは、調合の手を止めて、そう言ってうなだれるボクをじっと見つめた。
    「俺は……イオリがオトモたちの面倒を見てくれて、すごく助かってるよ。……うまく言えないけど、自分がしたいこと、好きなことを大事にすればいいと思う」
     オトモたちはハンターの手伝いをしてくれる相棒、って人が多いと思うけど、オトモたちが精一杯戦えるように手伝うハンターがいたっていいと思う。たぶん、そうしてくれたら喜ぶオトモも、ここにはたくさんいるんじゃないかな。
     そう言ってハンターさんは、背後をちらりと見た。そこでは、こちらの会話に聞き耳を立てていたアイルーが、尻尾をピンと伸ばして、ニャハハと笑っている。
     そうか、欲張っても良いんだ。おじいちゃんの跡継ぎにはならなくても、武器の勉強はしたって良いし、ハンターにならなくても、強くなるための訓練をしたって良い。そう、オトモと一緒に強くなれば良いんだ。
    「……ありがとう、ハンターさん。ちょっと、前向きになれた気がする」
    「そっか。そりゃあ、良かった」
     ハンターさんは小さく笑って、わしわしとボクの頭を撫でた。
     だけど、気になることがある。ボクのことじゃなくて、ハンターさんのことだ。
    「ハンターさんも……ハンターの仕事が好きで、やりたかったことだったの?」
     そう尋ねると、ハンターさんはボクの頭を撫でていた手をぴたりと止めて、ちょっと困ったように眉を下げた。
    「どうだろうな……でも、今のこの仕事には満足してるよ」
    「そっか……」
     その煮え切らない返事と寂しそうな顔が、何故か頭に残って、なかなか離れなかった。


     今まで、仲良くしてくれるお兄さん、くらいの相手だったハンターさんのことが、気になって仕方なくなったのは、それからだった。
     ハンターさんはどんどん強くなって、里からの依頼は何でもこなしてくれるし、危険なモンスターが現れても、あっという間に討伐してしまう。
     だから、百竜夜行が近づいてきても、ボクはちっとも心配なんてしなかった。ハンターさんがいてくれたら、きっと大丈夫だ、と。
     実際、ハンターさんは見事に百竜夜行を撃退し、里を守ってくれた。その姿を見て、ボクまでなんだか誇らしくなる。だから浮かれて、襲ってきたマガイマガドに向けて剣を構えるなんて、無謀なことをしてしまったのかも知れなかった。
     ボクとヨモギちゃんを先に逃して、その後を追う形でハンターさんは走り出した。急げばボクたちを追い越すことなんて簡単だっただろう。だけど、ボクたちが狙われないように、一番後ろについて。誰かを守るということは、そういうことなのだ。全員が安全に、怪我なく帰れるとは限らない。誰かが犠牲になって、多くの命を守らなければならないこともある。そういう覚悟がなければ、誰かを、何かを守るなんて出来ないのだ。
     幸い、マガイマガドは逃げていくアオアシラに気を取られ、ボクたちを追跡するのは止めてくれたけれど、その時、ボクはようやく理解した。
     ボクが気付かなかっただけで、ハンターさんも悩んでいたのかも知れない、と。里の皆の命を預かるというのは、少し考えただけでも、重くて、人一人に背負わせて良いものじゃないって、わかりそうなものなのに。
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