誰も知らないお化けの話「なあ行秋。‘もったいないお化け’という妖魔について何か知っていることは無いか?」
「…………は?」
万民堂の客席で注文した料理を待っている間、向かいに座る親友にふいに投げかけられた質問に、踊る疑問符が頭の中を占拠する。
……もったいないお化け。嫌いな食べ物を残したりすると現れる、と言われるあれのことだろうか。
幼い頃に母上からその存在を引き合いに出され、好き嫌いをするなと叱られたことがある。最近はめっきり聞くこともなくなったが、生憎と好き嫌いがなくなった訳ではなく、子供騙しの方便など聞くに値しないとわかっただけ。
名前の出所はどうやらチ虎岩近辺で行き合う顔見知りの子供達らしく、何でも親から知らされた件のお化けに恐怖を覚え、堪らずこの優しい方士のお兄さんにお化け退治を依頼したようだ。
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