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    いっか

    成人済み腐あり
    ドラク工10うちよそかきたい民
    今は軽率にエル主♀する
    支部(まとめ用本家)https://www.pixiv.net/users/684728
    くる(引越し先) https://crepu.net/user/ikkadq1o

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    いっか

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    エル主。クリスマスいちゃいちゃしてくれ~~~
    5話バレ

    ついてクンウォーズ破邪の紋章の完成を待つ間、せっかく病が治ったのだから観光でもしてきたらどうだと賢者たちに促されて、レンドアの隠れ家を後にした。
    興味はあったものの、近い未来ならともかく五百年後という到底自分が生きてなどいない世界の技術を下手に持ち帰るわけにはいかない。
    目に焼き付けておきたい景色などもそれほどなく、ただ、穏やかな気候で過ごせることだけが平和な証だと思えて、エルジュはのんびりと散歩を楽しむことにした。
    明日は、別の大陸を散歩してみようか。

    「あれ?エルジュ?」

    後ろから聞こえた声にどきりとして、そっと振り返るが、この世界において自身の名を呼ぶのはたった数人しかいない。
    いつだって会いたくて触れたくてしょうがない、その人の姿にほうと息を吐いて頬を緩める。
    やあ、といつも通り挨拶したら、自分よりも背の低い盟友が不思議そうな顔のまま小走りに駆け寄ってきた。

    「どこか行くの?」
    「いや、少し外の空気をね。何をするでもないよ。」
    「あ、そうなんだ。何か、新しい情報でも入ったのかと思った。」
    「もし本当にそうだったら、君に知らせているに決まってるだろ?」

    信用ないな、とエルジュが呆れたように呟けば、それもそうかと盟友が安心したように笑みを浮かべて頷いた。

    「そういう君はどこか行くところなのか?」
    「ううん、たった今エルジュに会いに行こうと思ってて。すれ違わなくて良かった。」

    そう言って、苦笑いを浮かべる姿に、また胸が鳴った。

    「ボクに?」
    「うん、白銀の聖夜祭って知ってる?」

    ああ、とエルジュは頷いた。
    数年ごとに、真冬の寒い日に突然やってくる聖天の使いが主催する、種族五大陸全体の冬祭りだ。

    「レンダーシア大陸にはない外海の祭典で、ボクもグレンに居住して初めて知ったよ。」
    「そうか、そういえばそうだね。レンダーシアでは無いや。」

    じゃあ、ラッキーだったな、と盟友は喜んでいる。
    この人の元々の生まれであるエテーネの村は、内海、というよりも全世界の中身にある島だったせいか、あまり地域に馴染んだ祭の類は知らなかったらしい。
    同じ島にある海町も祭事には明るくないのだとか。

    「それが、ちょうど今日から始まったから、エルジュを誘って行こうかと思ってたんだよね。」

    どうかな、と窺うように見上げてくる盟友に向け、一も二もなく、もちろん行くよ、と頷いた。

    それから、大地の箱舟に乗って、折角だからとグレンに二人で降り立つ。
    どこであっても、聖天の使いに招かれる行き先は異界ゆえに変わらないらしいが、他の大陸だと冬らしい気配が無いからと、一年のうち北側とランドンフットは雪が降りしきるオーグリード大陸を盟友は自然と選んでいた。
    だが。

    「えっ、行けない?」

    聖天の使いに話しかけると、どうやらエルジュは聖夜祭の会場には行けないようだ。
    聖天の使いが言うには、たとえ行けても、エルジュがこの世界に戻ってこれなくなる可能性があるから、それでもいいなら、と。
    確かに、エルジュの生体は五百年前から無理に渡ってきている身なので、この時代とは繋がりがない。
    残念ながら、復活したネルゲルを討ち果たすという目的はまだ達成出来ておらず、この時代を去ることは出来ないので、丁重に断った。
    薄々、そういう可能性はあるだろうなとは思っていたので、エルジュはあまり気にしていないが、盟友の落ち込みようが、かえって可愛らしかったなどと言うと怒られそうだ。

    「うう、ごめん……」
    「大丈夫。ボクは気にしていないよ。」

    こうして、盟友が、エルジュ一人だけのことをただ考えてくれているだけでもとても幸福で。
    宿屋の前の広場に据えられた巨大なモミの木は例のごとく綺麗に飾り付けられている。

    今、二人で、この場に居られることが、一生の思い出になるだろうと頬も熱くなる。
    だって、白銀の聖夜祭は、大切な人と時間を共にする日だ。
    家族か、友人か、恋人か、誰の側を選ぶかはその人の自由。
    たとえ、都合が良かったなんて理由でも、今日、選んでもらえたことが限りなく嬉しい。

    「あ、プレゼントなら貰えるんじゃ無いかな。」
    「プレゼント?」

    盟友が気を取り直したのか、モミの木の根元に積まれているたくさんのプレゼントボックスを指差した。

    「これ、魔法で出来てるボックスでね。」
    「うん。」
    「一人ひとつだけ、欲しいアイテムが手に入るプレゼントなんだよ。」

    へえ、と驚きを表せば、盟友は楽しそうに頷いた。
    欲しいものを出来るだけ具体的にイメージしてからボックスを手に取ると、その中身が変化するとか。
    うまくイメージ出来なくても、なんとなくそれっぽいアイテムをくれるらしい。

    「でも、またエルジュ一人が出来なかったら嫌だから、エルジュにプレゼントするよ!」
    「そうかい?ありがとう。ボクも、一応やってみるよ。それで、うまくいったら交換しよう。」

    二人で木の下にしゃがみこみ、ボックスを前に悩む。
    プレゼントをイメージするのはなかなか難しいものだなと思う。

    そもそもエルジュは、この人が冒険者であり勇者の盟友だということ以外はあまり知らない。
    何を必要としているのか、とか、何が好きなのか、とか。
    そういう意味では、向こうも同じだと思う。
    横目で盗み見ると、やはり同じように膝を抱えて悩んでいた。

    もっと知りたい、と思う時もある。
    でも、知りすぎてもいけない、と、踏みとどまることの方がずっと多い。
    これ以上、好きにならないように。

    それなら、せめて。

    「うん、決めた。」
    「ああ、ボクも。」

    どうか、ボクを、忘れないで。

    そう思って手にとったボックスは、取った時は顔の大きさほどには大きかったのにみるみる小さくなって、両手の平の上に収まった。

    「エルジュもうまくいったみたいだね?」
    「たぶんな。」

    大きさが変わったということは魔法の効果が出たということだとは思う。
    両手でそのまま盟友に差し出して、小さく苦笑を浮かべた。

    「一応、開けて確かめてみてくれ。何も入っていないかもしれないが。」
    「うん、ありがと。はい、エルジュも。」
    「……ありがとう。」

    差し出されたプレゼントボックスを受け取って、それが、エルジュが渡した箱と同じほどの大きさだったことに首を捻った。
    開けるね、と盟友が包装を開くのに合わせて、エルジュも包みを解く。

    「……これは?」

    見たことのない小さな手の平ほどの球体。
    透明なガラスなのか、中に何かが入っているようにも見えるが、両手に少し力を入れてみても壊せない。
    このまま飾るタイプのアイテムだろうか。

    「あ、これ。ついてクンのカプセルだ。」
    「ついてクン?」
    「エルジュに渡した方もだね?これ、開ける専門の人に頼まないと開かないんだよ。」
    「そうなのか。」

    アズランにいるから行こう、と盟友はエルジュの手を引いて駅に向かって階段を降りていく。
    大地の箱舟でアズランの駅に向かう道中、ついてクンというアイテムについて聞いた。

    「錬金術で作られた、錬金人形みたいな?持ち主と離れないように後をついてくるから、ついてクンって名付けられたみたい。」
    「昔、ねじを巻いたらしばらく動く鳥の人形があったが、それみたいなものか?」
    「そうかも。でも、ついてクンにはある程度の学習機能もついてて、まるで生きてるみたいに動くんだよ。どんな動物かなあ、楽しみ。」

    本当に楽しみなのだろう、両足をパタパタと揺らして笑う盟友がとても微笑ましくて笑みが浮かんだ。
    でも、その中身の動物が何なのか、そら恐ろしい気もして、つい目を伏せる。

    あの時、プレゼントを手にしたあの時。
    ボクは、なんて願ったんだっけ。

    アズランの駅を出て階段を降りると、すぐ近くにいたエルフの少年の元へと盟友が率先して駆けていく。
    カルタと呼ばれた少年は、盟友と、そしてエルジュが手に持つカプセルと呼ばれるボールを見て、すぐに目を輝かせた。
    奇妙で大袈裟な叫び声とは裏腹に、彼は手先で器用にカプセルを割った。
    盟友が持っていたカプセルから飛び出してきたのは、それこそ、錬金人形という名に違わず、人の形をしていたが。

    「……えっ……」
    「…………ん?」

    ピョコリと首を傾げた人形を見て、エルジュは自身の顔に血が上ったのがわかった。

    「……なんか……エルジュ……と、似てる?」

    イヤな予感はしていたが、まさかこんなことになるとは。
    盟友の足元をちょこちょことついて歩く人形は、つぶらな瞳で可愛らしい顔立ちをしていても、髪色と瞳の色、それから、赤い服を着たそれは、違わず自分にしか見えなくて、どうにも言い逃れができない。

    そうだ、ボクは、ボクを。
    そんなアイテムがあるなんて知らなかったがゆえの失態に恥ずかしくてどうしようもなく右手で口元を押さえたまま顔を逸らす。
    何も言えなくなったエルジュを見て、盟友も言葉もないのか、座り込んで小さなエルジュと握手をした。

    ところで、状況を理解していないのかあえて無視しているのか、カルタ少年はエルジュの持っているカプセルを要求してくるので、渋々手渡せばこちらも難なく開いた。
    そうして飛び出してきた人形もまた、人の形をしていて、エルジュはそれを見て再度言葉を失う。

    「エルジュのは何が出てき…………は?」

    唖然とした盟友と同じく、エルジュも目を開いて何度も瞬いた。

    盟友その人、だ。
    顔の作りは小さなエルジュと同じだが、髪色と眼と、それから、今も着ていて普段からよく目にする旅装によく似た格好をしている。
    これが盟友じゃなければなんなのか、何者でもないだろう。

    「……っう、そ!?」

    今度はあっちが頬から耳まで真っ赤にして両手で頭を抱えた。
    自分が出てくるなどとは露とも思っていなかったことが窺える。
    一体、どんな願いを込めたのやら。
    エルジュの足元できゅうと短い手で抱きついてくる小さな盟友が大変可愛らしくて、それに動揺する目の前の大きな盟友も愛おしさに耐えがたく、情緒が忙しい。

    「ちょっ……と!」

    またねえと手を振るカルタ少年を背に、盟友に腕を掴まれてやや駅方面に引き摺られる。
    置いていかないかと心配した人形たちはついてクンという名の通り、それぞれの軌跡を辿ってついてきたのでホッとした。

    「なんでこうなった?」
    「いや、ボクに聞かれても……」
    「どういうイメージの仕方をしたらこうなるの!?」

    それはこちらが聞きたいくらいだが。
    片眉を下げたエルジュが、逡巡の末に小さく口を開く。

    「ボクは……君が、ボクと旅したことを、忘れないでいてくれたら、と思ったんだ。」

    それが、どういう感情から来る願いなのかはいう必要がない。
    友情と取ってもらえる範囲だろう。

    「……君はどうなんだよ?」
    「うっ…………その……え、エルジュ、が……」
    「ボクが?」
    「……エルジュが、ひとりで、悲しい思いをしなければいいな、と思って……な、なんか可愛い動物とかさ!!」

    あわあわと慌てる盟友は、本当に、なんの動物でもエルジュの側にいればいいと思っていたらしい。
    それなら、盟友の姿をした人形が出てきたのは正解だな、とエルジュは思う。
    だって、盟友じゃなければ、どんな生き物が側にいてくれたって、意味がない。
    ただ、盟友がくれたという事実が余計に、寂しくなるだけだろう。

    ふは、と小さく息を漏らして笑みを浮かべ、エルジュは屈んで足元の小さな盟友の頭を指で撫でた。

    「……気持ちは、嬉しい。確かに連れて帰れるかはわからないけど……最後まで、ついてきて貰えたら、と、心から願うよ。」
    「…………う、ん……どうか、連れていって。」

    いずれ来る別れは避けられない。
    もう、五百年前でだって、何度もあった別れなのに、どうしてか、あの頃よりも身を裂かれるような痛みを堪えなければならなかった。
    それでも、この小さな盟友が己の時代へと共に帰ってくれるのなら、少しは痛みも和らぐだろうか。
    と、足元に気配がなくなったことに気づくと同時に、ゴホンと近くにいたエルフの老翁が咳払いをしたのが聞こえた。
    それで盟友も気づいたのか、あたりをキョロと見渡して人形を探す。

    見つけて、二人で思わず喉が引き攣り、叫び出しそうになった口を寸でで押さえた。
    小さなエルジュと小さな盟友が額から鼻までをピッタリくっつけている光景が目に入ったから。

    「う、わ!え!?あ、え、エルジュ、離れて離れて!!」
    「え、あ、わかっ、た!?」

    それぞれについて行くのだから、互いが離れれば人形同士も離れるだろうという目論見なのか、エルジュが盟友の押し出す方へと数歩後ずさる。

    「あっ待って!そっちは危ない!」
    「えっ!」

    駅の横の道には柵があった気がしたが、それは途中までしかなかったのか、踏み外したままにエルジュは駅の脇の段差から足を踏み外した。
    伸ばされる盟友の手は掴んでも難しいだろうと、下の地面に受け身を取るものの、次いで見上げたら真上から降ってくる盟友にギョッとする。

    「なんで君まで落ちてくるんだよ!?」
    「ごめん、止まれなかった!」

    尻餅をついたままの格好で両手で盟友を受け止めるものの、なかなか痛い。
    原因たるついてクンたちは体が柔らかいのか難なく段差をぽてりと落ちてきて、またエルジュたちの側でふよふよと可愛らしく首を傾げて動いている。
    本当に、生きているみたいだ、とエルジュは呆れた笑いを零す。

    「もー……恥ずかしいな……」

    落ちた拍子に膝を擦りむいたという盟友の手当てをするのに、またついてクン同士が何かしていたら居た堪れないから、と側にあった洞窟にエルジュの手を引いていく。
    膝を抱えて座り込んだ盟友の前に腰を下ろしたエルジュは、じっと盟友を見やる。
    かざした手の平から淡い緑色の光を帯びた回復魔法が傷を治していく。
    ちらと小さなエルジュを見ても、盟友の真似をしたのか両手を小さな盟友にかざして、パッと開いているのは、ホイミの真似かもしれない。
    エルジュは、回復魔法は使えないんだがな、と思って、ふ、と思わず笑みが浮かんだ。

    「……聞きたいんだけど、さ。」
    「ん?」

    小さな盟友が盟友であり、小さなエルジュがエルジュである以上、彼らは元になった自分を学習するのだと思っていたが。
    だが、盟友には小さなエルジュが、エルジュには小さな盟友が紐づけられていることになっている。
    と、いうことは。

    「あの、ついてクンの行動って……持ち主から学習するんだろうか?」

    この問いの意味が伝わるかは賭けに等しいが、エルジュはどうしても聞いてみたかった。
    先ほどのついてクン同士の行動が、備え付けの行動ではなく学習だというなら。
    エルフの老翁から見ても居た堪れなかったのだろう、ついてクンの、ありていにいえば愛情表現。

    唾を飲み込んだ音が、静かな洞窟に響いて失敗したとは思っても、目の前で真っ赤な顔をしながら身を竦める盟友にはさしたる問題ではなさそうで。

    「わ、わかんない……」

    本当にわからないのだろう、ふええと首を振るものの、側でいちゃついている小さな人形はもう止める間もなく何度でも額をくっつけあって喜んでいる。
    互いに、だ。
    エルジュだけがそうしたいと思っているなら、小さな盟友から一方的にそうであると納得はできても、小さなエルジュからもそうなっている、となると、そうであるなら、盟友は。

    「……彼らのようでありたい、と思っているのが、ボクだけなら、残念だな。」

    え、と目を開いた盟友の眼と鼻の先で、エルジュは緊張気味にそう言って、小さく微笑みかける。
    好きだなどとはっきり言ってもいいものか、ずっと悩んでいたけれど。
    好きだと言わずとも小さな盟友と小さなエルジュは互いに伝え合おうと触れ合う。

    願うように、エルジュは目を伏せて静かに閉じた。
    これ以上は動けない。
    盟友の顔の脇についた手は片方だけで、望まないならそれでもいいと思っている。

    それでも。

    音もなく、柔らかく触れた唇が、答えだった。
    惜しむように瞳を開いた視界で、泣き出しそうに潤んだままの目が、赤く濡れた唇が、ひどく愛おしかった。

    ふふ、と溢れる笑みのままに、目の前の人を優しく抱きしめる。

    「……できれば、もっと、君に触れたいな。」
    「…………自宅じゃなきゃ、ヤダ。」

    ぐいぐいとエルジュの胸を押し返した挙句に、側にいた小さなエルジュを抱き抱えて盟友は頬を膨らせる。
    それはそれは可愛いんだけど。

    「いいよ、どこでも。アストルティアは、君の庭だからね。」

    少し妬けるな、と、負けじと小さな盟友を抱きかかえたら、盟友に奪い取られて、小さなコンビを両手で空に放り投げられた。

    「ええ?いいの?あれ。」
    「大丈夫だよ。ちゃんと、どこまででもついてくるから。」

    そう言って、盟友がルーラストーンを手に乗せて、ねだるようにエルジュを見上げるから。
    頷いてから、手に手を重ねて、緑深きアズランの都を後にした。



















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    MEMOお題を使っていつか漫画に出来たらいいなをメモのようにしていくことにした

    【滴】
    ぱらぱらと窓を叩く音に気がつき、机にかじりついていた頭をあげる。作業に没頭して気が付かなかったが、いつの間にか空は薄暗くなっていた。

    「雨か…」

    窓に近づいて空を眺め、ふと視線を落とすと人影がある。いつから居たのだろう。自室の窓から見えるのはパプニカの城にある小さな庭だ。人は滅多に来ないのだが……今は見知った白い頭が見えた。

    そういえばこの国の復興祭がある時期だった。何年経とうと思うことはあるのだろう。

    独りで居たいなら、そっとしておいてやろうか――――

    そう思うも、窓から離れられず視線を外すこともできない、そんな自分に舌打ちをする。

    ああ――――まったくこれだから

    窓を開け、まだ止みそうにない雨が室内を侵食するのを気にせず飛び降りた。




    「そんなに濡れる程、雨が好きなのかおまえ」

    窓から見た位置から移動もしない相手に声をかけると、振り返るそいつの髪や服は、水気を含んでしっとりとしていた。

    「――――ポップか」
    いつものように答える声は、ただいつもより沈んでいるようだ。
    「どうした、こんな所に来て。雨に濡れるぞ」
    「すでに濡れてんのそっちだろ」
    「風邪をひく」
    2090