恋は飲んでも飲まれるなエルジュ×主。全年齢。しっとり甘。
1/9の日にかこつけて(大遅刻)各々の成人の儀について語り合いながらお酒を飲むエル主の話。
各大陸の成人の儀を捏造もりもりしました。
主人公:名前・性別・種族指定なし
ネタバレ:
10周年クエスト「天を超えてゆけ」5話…くらいの身の上。
メインストーリーv1の各種族初期村ストや外伝の内容の踏襲。
全体的にキャラ観も世界観もすごく捏造しています。
これはたぶん絶対付き合っているエル主。謎時空です。シンプルに考えたら定番の5-6話間だと思いますが…いや、謎。
エルジュに関してはシオドーアも乗り込んでくる線はあったんですがエルがわざわざ行かん限りはシオも来んだろうなと思ったし、シオからエルへの信頼はなんとなくわかるが、エルからシオへはなんともなさそうなんだよな…主しか見えてないんだものこの子。なんで公式CPじゃないんだろうエル主…。
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恋は飲んでも飲まれるな
盟友が一本のガラス瓶を手にエルジュの元を訪れた。
「メルサンディ村の麦芽酒をもらってたからエルジュと開けようと思って。」
にこにことそう言って、茶色い液体が揺れる瓶を差し出す。
メラゾ熱が治ったばかりであまり無理はできないが、少なくとも盟友なりに快気祝いということなのだろうな、と思うと嬉しくて、部屋の中にどうぞと招き入れた。
エルジュと同じ部屋のベッドが空いていることを知ってか宿の料金を追加してきたと盟友が言うので、気兼ねなく寛げるように荷物を壁の隅に押しやる。
ちょうど夕食の少し前にやってきたのも、酒を傾けながら食事をするつもりだったのだろう。
小一時間ほど話をしているうちに運ばれてきた夕食と共に、二人でテーブルを囲んだ。
「グレンの麦酒とは違うな。」
「ああ、そういえばそうだね。」
元の時代の酒場でよく飲む麦酒は、細かに泡が浮かぶ黄金色の酒だが、目の前でグラスに注がれた酒は琥珀色をしている。
発泡していないのもそうだが、香り高くて果実に似た甘やかな匂いがする。
「本当に麦なのか?」
「そうらしいよ。発酵した後に蒸留するんだって。村の祭事用であんまり量は作ってないらしいから、友だちが内緒でおすそ分けしてくれた。」
そんな貴重な酒を、と小さく溢せば、盟友は苦笑する。
「いいんだ。他に一緒に飲みたい人いないし。」
あいつらは勿体ない飲み方するから絶対にやらない、とも言って、グラスをくるくると揺らす。
盟友が差す人物が誰かはわからないが、飲み方も考えものだよな、とは同意する。
エルジュだって、そんな手の平をいっぱいに伸ばした程の大きさの瓶に入った酒だったら、大酒喰らいのガミルゴに渡しても勿体ない気がした。
その村の名産だというパンも盟友はいくらか持ってきていて、それもつまみながらグラスに口をつける。
一口目から、麦酒よりも遥かに、アルコールを飲んだという自覚をした。
度数が高いのだろう、これは気を付けて飲まないとすぐに酔いそうだと慎重に飲み込む。
口に含んだ途端に鼻に抜けていくような香りが、甘い菓子を思わせて面白い。
それでいて味に強いクセはなくてすっと喉に通っていった。
「飲めそう?」
「うん……美味しいね、これ。ボクは好きだな。」
「口に合って良かった。」
少なめに入れていた一杯目をすでに空にしていた盟友が、ふにゃりと頬を緩めて笑った。
すでにわずか赤い頬を見るに、ほろ酔いではある。
食事の手を止めてなんとなく見ていると、盟友は自身の鞄から出した赤いジャムを手癖でグラスにブチ込み、おいしいミルクの瓶と二杯目の酒とを適当に傾けた。
過去の道中でも見た、時々出てくる大雑把な一面に、くすくすと肩を揺らした。
「なんだいそれ。美味しいのか?」
「美味しいよ~。グランベリーのジャムと結構相性良くて。まあ、グランベリーがなんにでも合うのは否定できない。あ、でもメルサンディのお酒もなんでも合うなあ。パンと一緒に食べたい組合せ。」
「そうなのか。」
目の前でくるくるとマドラーで掻き混ぜ、味わうように少しずつ口にしている。
グランベリーといえば、グランゼドーラ王国の小さな商家の看板商品だったか。
商家自体は大きくはないがその歴史は長く、たしか、創業四百年は下らないはず。
と、なると、同じ商家だとしたらこの時代では千年近いのだろうか、なにやら、盟友の持ついわくに引っ掛かりそうな気はするが、水を差す気がしたのでこの話は隅に置いておくことにする。
「いや、でもさ。こうして、エルジュとお酒が飲める日が来るとは思わなかったな。」
「ボクもそう思う。」
十歳の頃は何度か訪れてくれていた盟友も、一年も経てばぱったりと現れなくなったのを寂しく思った時もある。
時渡りの力もあまり自在ではないのだろうと薄々思っていて、それでも、盟友がエルジュのことを忘れた、だとか、関心を失っていたら有り得ることだ、とはいつも考えていた。
五百年後の未来へやってくる前、本当は、少しだけ、怖かった。
この人が、自分のことを忘れていたら、と思うと。
たとえ忘れられていたとしても、この人が生きる世界を守るためにも行かねばならないというのはわかっていたけど。
そんな臆病風に吹かれていたから、この時代へやってきた当初は、居場所はわかっていても直接会うことは避け、なにはともあれ闇のキーエンブレムを実際に見てもらうためにも一つは回収しないと、と、スイの塔へ向かったのだったか。
その先で再会しようなどとは想像もしていなかった。
盟友はエルジュが十の時代にしか行けなかった、というのを後で知ったのは幸いだったか。
あの頃から変わらず、名を呼んでくれて、甲斐甲斐しく世話もするし、頼ってもくれるのも見て、杞憂だったことがわかった。
「エルジュは余裕ありそうだね。飲み慣れてる?」
「流石に限界は心得てるよ。成人した途端にガミルゴに散々付き合わされてきたからさ。」
「あっは!やりそう~!」
いよいよ本格的に酔ってきたのか、軽く膝を抱えながら、盟友が楽しそうに相槌を打つ。
夕食も、パンも、酒も、まだ半分は残っているのに心地よさそうに飲まれている。
エルジュも程よく酔い始め、差し向かいでにこにこと笑うその人がいつも以上に可愛らしく見えて仕方がない。
理性が飛ばなければいい、と考えていても、目を離すのが勿体なくてじっと見つめた。
「成人ってやっぱり同じ年かな。」
「どうだろう。ボクは一応グレンの慣習に従ったから、十五だな。」
「あ、じゃあ同じだ。」
エルジュと出会った頃が、ちょうど、成人の儀を終えたばかりだったのだそうだ。
「エテーネ村ではねえ、その年に成人になる子みんなで、年の始めにカメさまにご挨拶するんだよ。今後ともよろしくお願いしますって感じのこと。」
「カメさま?」
「村の守り神みたいな?生きてるんだけど、ずっと寝ててさ。今は起きてるけど……村には居たり居なかったり?」
言っている意味の半分も理解はできないが、違う国の慣習など話だけで到底理解できるものでもない。
ただ、懐かしむように涙ぐむ盟友を労わりたくて、静かに笑みを浮かべて頷いた。
「その日は、広場で夜通し宴をして……小さい村だから、みんな、家族、みたいで…………」
それぎり、なにも言えなくなった盟友が額を手で押さえた。
だから、がたりと盟友の座る椅子ごと引き寄せて肩を抱き寄せた。
遠慮なくエルジュの胸に額を押しつけてくる盟友は確かに泣いている。
過去で出会ったあの頃は、たぶん、泣き方を忘れていた、と嘯く盟友がエルジュの前で流す涙がひたすら愛おしかった。
しばらくして落ち着いたのか、苦笑しながら涙を拭い、また膝を抱える。
「今でも、広場で夜通しの宴は、シンイ様が積極的に開いてくれてるから、村の心配はしてない。」
「そうか。」
「……エルジュは?成人の儀って、なかった?」
単純に興味がわいたのだろう盟友が、こちらを好奇心いっぱいの目で見つめて首を傾げる。
「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったというか。」
「へ?」
「世話になったからと、四術師のみんなの所へ顔を出したんだが、そこで逐一付き合わされたことがあってさ。後から調べたら成人の儀みたいなものだったらしい。」
へえ、と目を輝かせて聞いている盟友に、エルジュは苦笑した。
今思い出してもおかしな年だった。
「プクランド大陸では、身長と同じ高さの大きなケーキを、家族みんなで食べるそうだよ。」
「えー面白い。大人になっても小さな体のプクリポならではって感じがするね。」
「うん。ボクの場合は、フォステイルが城の料理長にケーキを作ってもらって、それが人間の高さだからすごい大きさでね。兵士や使用人たちに、フォステイルも王妃も総出で、城の大食堂を借りて食べたよ。」
さすがにしばらく甘い物には懲りた、とまで溢せば、盟友は楽しそうに微笑む。
「プクリポって種族はよほどお菓子が好きなのか、ボクが作ったわけじゃないのにボクに口々に礼を言われて、驚いた。」
「らしいなあ。」
それが、なんとなく面映ゆかったのをよく覚えている。
「ヤクルのいるツスクルの村にも行ったんだけど、勧められたから身を清めて世界樹にお参りに行ったんだ。そうしたら、若葉の精霊ってやつが現れてね。」
「世界樹には精霊って必ずいるのかな?暗黒大樹にも精霊がいたような。」
「そうなのか。そいつが、祝福を与えるに値するか腕試しするダワ、って突然襲いかかられて……なんとか倒したけど、危く丸焦げにするところだったとぼやいたら、そんなに柔じゃねーのダワって精霊に怒られて、ヤクルにもヒメアにも笑われたよ。」
「いいね、楽しそう。」
盟友がふふと声を上げて笑うのでつられて笑った。
それから、はあと大きく一つ息を吐いて、静かに席を立つ。
ベッドサイドのチェストに置いてあった、大きな水差しを持ってきてテーブルに戻った。
立ったまま、空になっていた自分のグラスに注いで、それを手にしたまま相手へも目を向ける。
「君は?」
「うん、欲しい。ありがと。」
両手でグラスを差し出してきたので、そのまま注いだら、さっきまで飲んでいたミルク入りの酒のせいで少し濁った。
グラスを交換しようかと尋ねたら、腹に入れば同じだと盟友が気にせず口にしたので、水差しを置く。
手に持ったグラスをしばし見つめて、ぬるくなった水をグイと飲み干した。
水に濡れた口元に触れると奇妙に寂しくて、想い人へと目が行きたがる。
麦酒より早い酔いの回りに、ふわふわとした心地のままに、その、肩書きや功績からは想像もできないほどに華奢な体を抱きしめたくなった。
「もう眠いよ。君も寝たら?」
お開きの意を込めて、エルジュが苦笑してベッドへ座って、壁に凭れたまま肩を竦める。
言われた方は、ぱちくりと目を瞬いて、それからふわりと笑った。
エルジュと、それから自身のグラスに再度、瓶の残り僅かな酒を等分して、それを倍の水で割った。
両手にそれを持って、エルジュの座るベッドに近づいてくる。
「これで最後だから、あと一杯だけ付き合ってよ。」
「仕方がないな。」
渋々グラスを受け取ると、同じベッドの隣に盟友がボスンと音を立てて座る。
「ガミルゴの話が気になってしょうがないんだろう?」
「まあね。」
「格好がつかないからあまり話したくなかったんだが。」
「エルジュが格好悪いなんて思ったことないって。」
心外だとばかりに口を尖らせてそんなことを言う。
ちびちびとグラスを舐めている盟友の赤い頬に、つい左手の甲を滑らせて撫ぜた。
右手でぶら下げたグラスを一度サイドチェストに置いて、両膝を抱える。
「ガミルゴのやつには、腕相撲なんてさせられて、ちょっと腹を立てたんだよ。」
「え、誰と?」
「五人もだ。それも、城の腕自慢みたいな兵士二人に、兵士長と、武器鍛治ギルドマスターに、ガミルゴ本人。」
「…………それは、嫌なラインナップだなあ。」
はあ、と呆れたような顔をして、それから噴き出して笑われる。
だから話すの嫌だったんだ、とエルジュは顔が酒のせいでもなく赤いのを自覚しながら、額を押さえた。
「そもそも、オーガの一般女性にだって互角なのに、そんな筋骨隆々としたオーガの戦士どもに勝てるわけないだろ!全員がレスリング大会の常連だぞ!?」
思い出すだに悔しくて、つい声を荒げて文句を言えば、腹を抱えるほど盟友が笑い転げた。
ベッドの上で背を丸めて、息も絶え絶えになってた盟友が顔を上げる。
「で、聞くまでもないけど、結果は?」
「もちろん、五戦五敗。まだまだ甘いってさ。」
あの日、分かりきっていた結果を前に、ガハハと豪快に笑いながらエルジュの髪を混ぜっ返したガミルゴの手は、大きくて強くて、温かかった。
なんだか、ひどく感傷的になって、意識的に深く呼吸を重ねた。
「……オーガは、本当はランガーオ村まで自力で出向いて、闘技場で現地の闘士と戦うんだって。ボクは、甘やかされたんだ、と、後で知ったよ。」
それを聞いた盟友は、とても、本当にとても嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
父が亡くなったと聞かされたその時から、自分には保護者なんていない気がしていたし、父の従者であるカイの助けはあったが、他人の手を借りずに生きてきたつもりでいた。
でも、あの、四術師との何気ない節目を過ごして、本当はそうじゃなかったんだ、と思い知ったのだ。
みんな、父のように、父と同じくらい、エルジュが一人で生きていけるように気にかけてくれていたのだと、エルジュが大人になったことを喜んでくれていたのかと、ようやくわかったばかりだった。
そんなことを思い出して、じわと滲みそうな気配を目頭を押さえて留める。
「…………父さんが、もし生きていたら……レンダーシアでは、どんな風に迎えられたかな、と思うことがある。」
「……わかんないな。お城で成人パーティ開いたり、教会でお説教聞いたり、家族で団欒したりとか?」
「それもそれで。」
「うーん、説教はちょっといいや。」
自分が言ったくせにしかめ面をして、べ、と舌を出す盟友は、幼い子どもみたいにイヤイヤする。
ケイトの憧れの君、世間で言うところの冥王を討ちし者、兼、勇者の盟友、ひいては奇跡の大魔王たる救世の英雄なんて大層な肩書きを持つエックスさんが、こんな可愛い人だと誰も信じられないだろう。
誰も信じなくていい。
ボクだけが知っていればいい。
もうあと少しで空になるグラスを、盟友の持つそれに軽くぶつけたらキンと音が響く。
「今は、ただ、君と盃を交わせること、それが嬉しい。」
そんな未来を夢見たことが無いとは言えない。
それくらい、想い続けた。
「……交わすのは、盃だけ?」
エルジュの言葉に目を開いたあと、そう言って、両手で引き寄せたグラスに口をつけて誘う。
む、と口を結んだつもりが、無意識に舌で舐めたみたいで、濡れた自身のそれが熱いのを知る。
「……調子に乗るから、やめてくれよ。」
煽るように残りの酒を飲み干して、ゴンとチェストに置いたら、グイと左腕を引かれて胸の前に飛び込んできたその人を見下ろした。
「乗ってもいいけど、大人、なら、自分の行いに責任は取りなよね。」
ほんの鼻先にある融けた瞳が一層艶やかで美しくて。
は、と細く吐き出した息は乾いていて、掠れたままなのに苦し紛れに口が笑っている。
「それは……君も、だろ?」
全部知っていて、それでも飛び込んでくるのなら、余すところなく受け止めてもらわねばなるまい。
確かにね、と、囁く声と共に、じりと消えかけたランプの下で、君は小さく笑った。