捕食者の言い分 呪うなんていうのは私たち魔女の専売特許であって、私がかかるようなものではないはずだ。
こんなにも死んでしまいたいのに、どうして希死念慮を抱いたかも忘れるくらいにそう思っていたはずなのに、目の前にいるのは人喰いとまで恐れられた怪物であるのに。
その怪物に熱を持った辛そうな眼に見つめられて、自分の手を怪物の口元に運ぶことすらできない。
私は人間ではない。ただ、人間より脆くはないというだけで死ぬことはあるし、怪我をすれば痛い。だから恐怖を、死という救済或いは逃避をこの存在は与え得る。この人喰いは人間を行儀良く解体して食べるなんてことはしない。
彼は、『ヒト喰いのユイ』と呼ばれている人物だ。生の肉を好むらしく、酷い飢えの日は人間を生きたまま食べることもあると聞いている。この街には人間も魔女もおり、魔女が時として人間に恐れられることは珍しくもないけれど、魔女にも人間にも恐れられる『怪物』とは彼くらいのものだ。
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