「それ、やめて」
冷たく言い放つ拒絶の言葉、……になるはずだったであろうただのワガママを、どの程度聞き入れるものか。最近少しだけ、その匙加減がわかってきたように思う。
「どうして、」
「嫌だからに決まってるでしょ」
もちろん外すこともあるが、どうやら今は大丈夫そうだ。間違えてはいないらしい。さっきまで爪を立てていたシーツを今はゆるく握ったまま、オーエンは俺の手から逃れようとはしないから。
「じゃあどうしたらいい? 何が嫌なのか教えてくれ」
「騎士様は、誰にでも親切にしようとするだろ。だからいや」
事後の疲労を纏う身体は深くベッドに沈んだきり、口調は常よりゆるゆるとぬるい。天邪鬼は変わらないけれど、隠された本音には僅かばかり近付きやすいから、怒らせないように静かに触れる。汗の滲む肌にも、言葉の奥深く、内側にも。
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