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    リル。

    @lily_86111

    主にカイオエ
    @lily_86111

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    POIPOI 1

    リル。

    ☆quiet follow

    カインが自分の気持ちに気づいて告白するまで。
    オーエンはカインが好きという前提。
    一瞬傷オエ出ます
    ※R18要素はありませんがそうゆうお店が出てきます

    #カイオエ
    kaioe
    #まほや腐
    mahoyaRot

    気づいたら好きだったんだ中庭でいつものように鍛錬をしながら、考え事をしていた
    (オーエンって...俺の事嫌いな訳ではないと思うだよな…)
    オーエンの姿を頭の中で思い浮かべる
    さらりと流れる銀糸の髪。色の違う…自分と同じ瞳。整った顔に浮かべる冷たい笑み。
    その口から紡がれるのは、巧みに不安を煽り、心を支配するような言葉…
    時折、大いなる厄災の傷によって普段の姿からは想像がつかないほど幼く純粋な子供のようにもなる
    (傷の時に好かれていることは分かるんだが...)
    騎士様と呼びながらあどけない笑顔を向けて駆け寄ってくる姿には調子を狂わされる
    そもそも嫌いな相手の目玉を奪ってはめた挙句に、自分の目玉を代わりに埋め込んだりしないだろ......北だと普通なのか?
    よく視線を感じて振り向くと必ずオーエンがいる。魔法舎で皆とタッチした後だから、他の人がいて見えてないってことはないだろうし。
    まぁ、振り向くとすぐに目を逸らすか居なくなるんだが。
    何か企んでるのかとも思ったが何もしてこないし...
    振り下ろす剣を止めて、額に浮かぶ汗を拭う。
    (少し観察してみるか...)
    そう思って、オーエンに気づかれないよう、こっそり気にして見ることにした。

    そうすることでいくつか分かったことがある
    まず、やたら絡んでくる…いつも誰かしらに絡んではいるんだが、回数が明らかに多い。
    会う度に意地の悪い笑みを浮かべながら話しかけては悪口(?)を言ってくる。楽しそうだな、と思いながらいつも受け流しているが
    あと距離が近いような…基本的にオーエンは人との距離が近いから俺に限ったことではない気もする
    たまに背後に気配を消しながらそっと佇んでくる。普通に歩いて近づいてきたら分かるんだが、魔法を使って急に現れるから心臓に悪い…
    顔をずいっと近ずけてきたり、気づいたら隣に座っている。

    勝手に考察をしている間にも、オーエンがいつものように話しかけて来た。
    手に持っている、ネロから貰ったのであろうカップケーキをみて昨日のことを思い出す
    昨日は南の国に任務で行ったのだが、勧められたその土地のお菓子をお土産に買ってオーエンに渡したら、すごく喜んでた。
    素直な笑顔を浮かべながら美味しそうに食べてる姿を思い出して、“可愛かったな”と、つい思ってしまった。

    (いやいやいや!目玉を奪われた相手だぞ?!おかしいだろ!!)
    頭をブンブン横に降ってると、オーエンが変なものを見る目で見てくる。
    「なに、いきなり。人の話聞いてるの?」
    「へ!?あ、あぁ!聞いてるよ!」
    半分聞いていなかった、なんて言ったら何をされるか分からない。つい咄嗟に否定してしまった。
    それがまずかったようで、しばらくじっと見られたあと、機嫌をそこねたのか、フワッと消えてしまった。
    「やっちまった……」
    頭をかきながらオーエンが消えた先を見る。
    心のどこかで“寂しい”という感情が芽生えたのを、カインは気がついていなかった。



    2日後の昼下がり、たまには違う場所で鍛錬をしようと近くの森に入っていく。
    先客がいるようで白い帽子に白いマントを羽織った後ろ姿が目に入った
    「オーエン…」
    そう呟くと人がいるのに気がついたようで身体ごと振り向く。
    目が合うと、ぱぁっと笑顔になり駆け寄ってくる。
    (傷の方か)
    近づいてくるオーエンの手には色とりどりの花が握られている。
    「あのね、今お花で冠作ってたの。前に賢者様に教えてもらったんだけど…」
    そこまで話すと、何故か表情を曇らせ下を向く。
    「どうした?」
    首を傾げながら、もじもじする様子を見つめる。
    そうしていると、チラッと俺の方に視線を向け「上手く出来ないの…」と、後ろを指さした
    さっきまでオーエンがいた所を見に行ってみると、歪に編まれ、所々触ったら解けそうな箇所がある冠になりかけた花があった。
    「あー…ちょっと難しいからな。嫌じゃなければ一緒にやるか?」
    曇らせていた顔を輝かせ、大きく頷いた。
    その場に2人並んで腰掛け、手元が見えるように編みながら、丁寧に教えていく
    簡単なやつだが、つい最近ルチルに教えて貰っていて良かったな、と心の中で感謝を言っておく
    横で一生懸命、ぎこちない手つきで編み込んでいる表情が真剣そのものなのだが、ふと上手くできた時に見せる花咲くような笑顔に、無意識に口が緩んでいることにカイン自信、気がついていない。
    時間をかけてやっと出来上がった花冠は中々綺麗な色合いで、太陽にかざすと鮮やかな光がキラキラと反射する
    「えへへ…ね、上手?」
    「あぁ、上手だぞー!」
    頭に手を伸ばして撫でてやると無邪気に笑う。気の済むまで撫でてやったら、持っていた花冠を差し出された
    「ん?何だ?」
    「これ、騎士様にあげる」
    「え、いいのか?折角上手にできたのに…」
    少し遠慮をすると、オーエンはしょぼんと肩をさげ、悲しそうな声を出す
    「…僕が作ったの欲しくない…?」
    「あ、いや!勿体ないなと思って!……貰っていいのか?」
    そう聞いて手を差し出すと、泣きそうな顔から笑顔に戻り、「うん!どうぞ」と花冠を俺の手に載せた。
    「ありがとうな…そうだ、代わりに俺のをやるよ」
    交換するように、作った花冠をオーエンの頭にぽすっと載せる。すると両手で花冠をそっと支え、はにかむような笑みを浮かべた。
    嬉しそうだな…と思ったのもつかの間、ピタッとオーエンの動きが止まる。
    (まさか…)
    危険を感じ、直ぐに立ち上がれるよう体制を整える。
    「…は?何処だよ…て言うか、何?これ」
    やはり、元に戻ったようだ
    触っていた花冠をつまみ上げ、まじまじと見ている。
    覚えていない事により、眉間にはシワがよって機嫌が悪そうだ。
    「花冠だ。子供のお前と一緒に作ったんだぞ」
    見定めるような鋭い視線に息を呑む
    「これ、僕が作ったんだ?」
    摘んでいた指が僅かに動き今にも地面に落としそうな勢いに思わず早口になってしまった
    「それは俺が作ったやつ。お前のはこっち」
    指の動きが止まり、再び力が込められたことに安堵する。
    見やすい位置に花冠を捧げ、俺が持って居るものと見比べた。しばらく黙っていたが、ふとニヤリとした笑みを向けられる。
    「騎士様は先生気取りで教えて、その上おざなりな物を僕に押し付けるんだ…?」
    「な…そうゆう訳じゃ…」
    「いいよ、貰ってあげる。そして皆に見せびらかしあげる。どう?……下手っぴな作品を晒されるのは恥ずかしい?」
    下手なのは認めるが…別に恥ずかしくはない。
    いいぞ、と言ってしまえば、舌打ちでもして魔法で消えるのだろうが、ちょっと試してみたくなった
    「もしかして、自慢でもしたいのか?俺に作って貰った、って」
    無理がある気もしたが、効果はあったらしい。
    ビタッと動きが止まったかと思うと、顔がほんのり赤く染まる
    「そんな訳ないだろ!バカじゃないの…」
    と言い残し煙と共に姿を消した。
    消えた場所に花冠は落ちていない。つまり、持って帰ったという事だ。
    予想外の反応に、正直驚いた。
    てっきり冷淡に切り返し、花冠は捨て置くと思っていたのだ。
    手元に残るオーエンの作った花冠に視線を移す。

    ーーもし作り終わった時点で戻っていたら?
    子供の方の自分が作った花冠を持っていたとしたら、それも持って帰ったのだろうか
    “俺が作った”と言った時の反応を思い出し、少しだけ嬉しくなった
    「せっかく作ったんだもんな…」
    あまり掴んでいると手の熱で花が傷んでしまう。そうだ、保存の魔法でもかけておこう。

    «グラディアス・プロセーラ»

    呪文を唱えると、ポゥ…と花冠がほのかに光を帯びる。これで大丈夫なはずだ。
    日が傾き茜色に染まり始めた空を見上げながら魔法舎へと足を進めた。



    あれから数日後の休みの日、オーエンとケーキを食べに行くことになった。王都中のケーキを奢るという条件のやつだ。
    店に入って席についてはメニューを眺め、相変わらず「全部頂戴」と薄い笑みを浮かべて注文する。

    少し待った後、2~3品ずつケーキが運ばれてくる。
    今テーブルの上にあるのは、生クリームがたっぷり乗っている物や色とりどりな果物が入った物、淡いピンク色をした西のルージュベリーが乗っている物だ。
    口元にクリームを付けながら頬張っては幸せそうな顔をしているオーエンについ頬が緩んでしまう。
    細い身体とは裏腹にパクパクと食べ続けるものだから、周りがどよめいた空気になるのを感じた。
    恐らく視線が集中しているのだろう。
    下手に誰かと目が合わないように(俺は見えないんだが)手に持ったコーヒーに視線を落とし、一口啜る。
    砂糖の入れていない苦いコーヒーは、目の前に広がる見ているだけで口の中が甘くなりそうなケーキには丁度いい。
    「なぁオーエン。ケーキ食べ終わったら、この近く少し見て回らないか?」
    「市場?」
    そう言えばオーエンのマナエリアは市場だったな…と思いながら頷くと、いいよ、と言って再びケーキを口に入れた。その時に口元についているクリームが増えた。
    (素で子供っぽいとこあるよなぁ)
    吹き出しそうになるのを寸でで耐え、ついていることを指摘する。
    「生クリーム、口についてるぞ?」
    こちらにチラリと視線を向けてから、舌で舐めとる仕草をするが反対側だ。
    自分の口に指を当てて教え反対を舐めるが届いていない。
    「ほら、ここ…」
    テーブルに腕をついて身体を浮かしオーエンに顔を近ずけ、親指で撫でるように生クリームをすくいとる。
    姿勢を戻してあまり考えずに指についたクリームを舐めてオーエンを見ると、何故か赤くなってわなわなと震えていた。
    「あ、悪い…食べちまった」
    「ちがっ……いや違くない、返せ」
    「無理だって…」
    まだ真っ赤なままのオーエンに謝ると、無視してケーキを食べ始めたのだが何処かぎこちない。
    怒っているのとは少し違うような態度に首を傾げる。
    何故かを聞いたら更に怒られるのが目に見えていたので黙っていることにした。

    全てのメニューを食べ終え、お会計を済まし街に出る。
    王都なだけあってワイワイと賑わい活気が溢れている。
    ぶつからないよう気配を探りながら市場の中を歩いて行く。
    時折呼び込みに誘われて店先を眺めては離れ、また違う店を見て回る。
    食べ物の店も立ち並び、甘い匂いにつられてはねだられるままに買い与える。
    「あんなに食べたのにまだ入るのか?」
    「まだ足りないよ」
    この細い身体のどこに蓄えられているのか未だに謎だ。

    そんな風に歩いているうちに一件の雑貨屋が目に入った。
    ブレスレットやネックレスなどのアクセサリーが売っている店だ。女性物だけでなく男性のも置いてあった。
    俺が店の前で立ち止まると、オーエンは通り過ぎようとしていた足を止めてチュロスの最後の一口を口に入れて指についた砂糖を舐めながら戻って来る。

    2つ並んだブレスレットが気になり手に取って眺める。
    2本の黒い革紐に、青みがかったシルバーの小さな花のモチーフがついている。
    「ビオラの花だよ、兄ちゃん」
    「へー…何でビオラなんだ?」
    「青いのビオラの花言葉は“純愛”“誠実な愛”だからさ。恋人に送ったら喜ばれるぞ」

    恋人。
    そう言われた時に、ふと無意識に、横でつまらなそうに商品を眺めているオーエンを見てしまった。
    そんな俺の様子を見ていた店主が楽しそうな、ワクワクしたような声で話を続ける
    「なるほどねぇ…どうだい?お揃いで!安くしとくよ!」
    そのセリフと、テーブルに置いてあったもう片方のブレスレットを差し出された事で、自分がオーエンを見ていた事に気がついた。
    「あ、いや、そういう訳じゃ……」
    「何だまだなのか。じゃあほら、告白ついでに!」
    「だから…!」
    恐らくニヤニヤしているであろう店主と、焦っている俺のやり取りに気がついたようでオーエンは眉を顰める
    「何?」
    ブレスレットは俺の身体で隠れて見えていないようでこちらに向かって足を動かす。
    「ほらほら、サプライズじゃ無くなっちまうよ?」
    「〜〜っ!」

    普通に断ればよかったんだ。「また今度な!」って。
    でも何故か、だんだん近ずいてくるオーエンと、目の前で揺らされるブレスレットの間に立たされて、焦ってしまった。
    「分かった!2つともくれ!」
    「毎度あり〜!」
    俺の手からもう片方のブレスレットを受け取ってレジの方に向かう。俺からは丸見えだがオーエンからは多分店主の背中で見えていないと思う。
    手際よく一個づつ小さい紙袋に詰めてシールで封をしたのを見て息をついた。
    「ねぇ、何買ったの?」
    「あー…ヘアゴムだよ!寝る時に付ける」
    「ふーん…」
    先程の焦っていた姿に納得がいかないのか、目を細めて探るような視線を向けてくる。
    シラを切り通すために笑顔を浮かべて誤魔化している内に紙袋を持った店主が戻って来た。
    お金を渡し、お礼を言って紙袋を受け取りサッと胸元にしまい込む。
    「じゃあ、そろそろ帰るか!」
    「……」
    何か言いたげなオーエンに背を向けて歩き出す。ゆっくりながらも後をついてくる気配を感じながら、胸元にあるブレスレットをどうするか頭を悩ませた。


    ある晴れた日の事、小鳥のチュンチュンという鳴き声に目を覚ます。
    体を起こし軽く伸びをしてからベッドを降りて身支度を済ませる。
    最後に髪を結んでから扉を開けるとちょうどヒースとシノの話し声が聞こえた。
    挨拶を交わし2人とハイタッチをしてからそのまま一緒に食堂へと向かった。
    わいわいと賑わう食堂に入り、居る人達とハイタッチをしながらカウンターへと足を進める。
    ネロともハイタッチを交わして朝食を受け取った。
    ベーコンやオムレツ、サラダにパン、スープなどのメニューだった。好物のベーコンを口に頬張るとカリッとした食感に、ジュワーと脂が口いっぱいに広がる。
    「うん、やっぱり美味いな」
    いつも通りの美味しい朝食を平らげた所である事に気がついた。
    今日は、北の魔法使い達が誰もいない。それに賢者様も。
    来る時間はまちまちだが、自分が食べ終わる頃には大抵いつも揃っていた。
    特にオーエンは触れなくても見えるはずなので姿を見せないことに首を傾げる。
    食べ終わった食器を片付けながらネロに聞いてみる事にした。
    「ご馳走さま!美味かったよ」
    「あぁ、ありがとな」
    「なあ、ネロ」
    食器を受け取りシンクに持って行きながら「んー?」と返事をする。
    「オーエ…いや、北の魔法使いは今日は任務なのか?」
    人数分の食事を作っているネロなら、数に変動があれば知っているはずだと思った。
    「あー…うん。そうみたいだな」
    苦笑いを浮かべながら答えてくれたのだが少し違和感を覚える。
    「そっか…何の任務か聞いてるか?」
    「いやー…俺の口からはちょっと…悪いな」
    「?」
    言えないような任務なのか、極秘なのか、ネロの答え方に考え込む俺を見かねて「フィガロに聞いてみたらどうだ?」と、下げられてくる食器を洗いながら助言をしてくれた。
    礼を言い食堂を後にして、先に部屋に戻っていたフィガロに聞きに行こうかとも思ったが、その内帰ってくるかと思い直し鍛錬をする事にした。
    夢中で鍛錬をしている内に太陽は真上まで登っていた。額から流れる汗を腕で拭いながら一息付く。
    シャツは汗で身体にピッタリと張り付いて少しだけ気持ちが悪い。火照った身体を冷やすようにシャツの首元を扇ぎ風を入れる
    「……シャワー浴びるか」
    一人言を呟きながら剣を魔法で仕舞い、浴室へと向かった。
    シャワーを浴び終え昼食を取りに食堂に着き、ぐるっと見回してみるがやはりオーエンの姿は見えない。入れ違いになったシャイロック達に聞いてみるがまだ賢者様も北の魔法使いも帰って来ていないようだった。
    いつもならその内帰って来るか、と気にならないのだがどうも今日は頭に引っかかってしまう。
    このままヤキモキしながら待っているのもあれなのでフィガロの部屋を尋ねる事にした。


    “コンコン”
    フィガロの部屋の扉をノックすると返事と共に扉が開かれる。
    「カイン、どうしたの?怪我でもした?」
    「いや、ちょっと北の魔法使い達の任務についてなんだが…」
    そう告げるとフィガロは少しだけ目を見開いた後、困ったような笑みを浮かべた。
    「…入って」
    扉を大きく開いて促されるままに部屋に入る。
    パタンと閉める音に後ろを振り向くと扉に魔法を掛けていた。
    「え…」
    「耳塞ぎの魔法だよ…外からは話し声が聞こえない」
    確かにネロも言い渋っていたが、そこまでするような任務の内容なのかと急に不安に駆られた。
    机の前の椅子に向かいながら窓にも耳塞ぎの魔法をかけるフィガロを目で追いながら、自分の横に出された椅子に慎重に腰掛ける。
    「そんなに固くならないで。ミチルとかリケとか…子供にはちょっと聞かせられないってだけだから」
    笑みをそっと浮かべていたが、それはそれで聞くのが怖いと思いつつ、とにかく一度頷いた。
    椅子に腰を下ろして足を組む姿を眺めながら覚悟を決めていると、険しい顔をしていたのかまた困ったような笑みを向けられた

    「依頼が来たのは1週間前、ある店を経営している主人からだった。何でも────



    ──── 事の始まりは大いなる厄災の少し後くらいから。店で働く一人の女の子の様子が急におかしくなった。いつも明るく笑顔を絶やさない子だったのに急に笑わなくなって常にぼーっとしているようになった。初めは疲れているのかと思い休みを与えたのに店にはやってくる。どうしたの?と問いかけても返事は無く、誰も居ない所を眺めている。その内ボソボソと独り言を話すようになった。
    行かないで……愛してる……貴方だけのもの……そんな様な言葉を繰り返しまるでそこに誰かが居るかのように話していた。あまりにもおかしいから医者に診せようとした矢先、姿を消した。
    その子の部屋を見に行っても何も持ち出した様子は無く身の回りの物とかもそのままだった。まるでパッ…と消えてしまったかのように。魔力の気配も残っていなかった。
    しばらく探していたけど手かがりが掴めないまま、また一人の女の子の様子がおかしくなった。
    最初の子と全く同じ症状で、すぐに医者に診せに行ったんだけど、ほんの一瞬目を離した隙に姿を消していた。やはりどこを探しても見つからない。
    そこで2人の女の子の様子がおかしくなる前の事を必死で思い出してみると、一つの共通点があった。
    直前に相手をしていたお客さんが甘い香りを纏わせていたこと。だけど二人とも違うお客さんで、香りを纏わせているだけじゃ決定的ではない。
    頭を悩ませている内にまた一人、姿を消した。
    ちょうど店主の家族が体調を崩し、しばらく休んでいた間に起きた事だった。
    他の女の子達も気をつけていたけど、自分達もお客さんの相手をしなければならず目を離してしまった時だったらしい。
    まさかと思い甘い香りの事を聞いてみると、案の定纏わせていた。それに、また違うお客さん。
    これ以上女の子達を危険に晒す訳にはいかず、依頼として助けを求めてきた────

    「姿を消す、か…ナイト・ウォーカーの事件の時みたいだな」
    「うん。でも今回は精神に異常をきたしている。大いなる厄災の影響も無いとは言いきれないしね。」
    おかしくなった原因、どこに消えたのかを考え込んでいると、ふと頭に引っかかることがあった。
    店の場所が北の国にあるから北の魔法使いが駆り出されることは分かるが、何故子供には聞かせられないのだろうか。しかも魔法までかけて。
    「なぁ、何でリケとかには聞かせられないんだ?」
    その疑問をそのままぶつけてみると、頬杖をつきながら妖しげな笑みを浮かべていた
    「そうだね。色を売る…って言えば分かるかな?」
    サラリと告げられる言葉の意味を理解し、あまりの衝撃に言葉が出なかった。
    パクパクと口を動かす俺をみて念の為というように説明を付け加える
    「安心して。賢者様は周辺の調査に当たって貰ってるから。あと双子先生もね」
    という事は残りの3人…ミスラ、ブラッドリー…そしてオーエンがしているのは……
    声には出していないはずだが、顔に全て書いてあるかのようにフィガロは疑問に対する答えを出していく
    「あとの3人は魔法で女性になって、キャストとして探って貰ってるよ」
    壁を見やりながら淡々と告げられる言葉に、心を思い切り締め付けられた感じがした。
    キャストとして探るとはつまり、客を取る、という事だ。頭にオーエンの姿が浮かび、女性へと姿が変わる。そして顔も知らない男性客に手を伸ばしている所まで浮かんできた時、考えるよりも先に体が動いていた……



    ビューッ!!と強い風の音とともに鍵を閉めていなかった窓が勢いよく開いた。割れなかったことを確認しながら言葉を続ける
    「だけどあの任務は……って、カイン?」
    窓から目を離し、カインがいた方へ視線を向けると椅子しか残っていない。その先を見ると扉も開け放たれ僅かに揺れている。
    「しまった…」
    店がある大凡の場所を言ってしまった事を後悔しつつ、何故飛び出していったのかの検討もついてしまい、ため息を漏らしながら腰を上げた…




    体が動くまま箒に飛び乗りタワーまで飛んでいく。エレベーター前まで行き、震える手で石をはめ込みレバーを引く。駆け足でエレベーターに乗り込み北の国へとセットをした。
    少し経つと到着を告げる音と共に扉が開く。
    運が良いことに吹雪いていないが、凍りつきそうな程の寒さに身を震わせる。
    だがそんな事も気にする間もなく再び箒に乗って北の国の外れにあるという店の場所までスピードを出して飛んだ。



    何故こんなにも必死になっているのか…何故こんなにも無事でいて欲しいと願ってしまうのか…
    考える程に浮かんでくるのはオーエンの姿だった
    怪しげな笑みも、無邪気な笑顔も、甘い物を頬張る幸せそうな表情も、動物といる時の穏やかな表情も、機嫌の悪い時も、無茶を言ってくる時も……
    自分の為に祈ってくれていたと聞いた時、目玉に守られたと聞いた時…

    ずっと、ずっと気になっていたんだ…
    目玉を取られて、そのせいで騎士団を外されて…それでもオーエンの事を心から嫌いにはなれなかった…
    誰の姿も見えなくなった時、日が差し込むようにオーエンの姿だけは見えてた。どれだけ安心したことだろう…
    子供のオーエンに懐かれた時も本当は嬉しかった…嫌われてない、そう感じたからかもしれない。

    気がつきたく無かった…気づいたら関係が壊れてしまうかもしれない、離れて行ってしまうかもしれない…それが怖かった
    だけどもう、自分に嘘は付けない。気がついてしまったから……魔法は心で使う。自分の心に嘘をつき続けたらきっと心が壊れてしまう…
    そうしたら傍にいる事すら叶わなくなる……

    “俺は………オーエンが好きだ”






    「ここか…」

    人が少ない訳でもないのに、ひっそりと店が立ち並ぶ。行き交う人々も皆目立たぬように早足で歩いている。
    市場とは違う独特の雰囲気に一瞬躊躇するが、息を大きく吸い込み街に降り立つ。
    店の名前を聞いておけばよかった。どこも似たような佇まいで見分けがつかない。
    魔力を探る事ができれば簡単なのだが、まだ未熟なせいで探り当てる事ができない。
    こうして迷っている内にも最悪の状況になってしまいそうで、いっそ聞き込みをしてしまおうと思った。
    ちょうどフードを浅く被った男性が向かいから歩いてくるのを見て声を掛けようとした時、ポンっと肩に手を置かれた。
    思わず剣に手を添えいつでも抜ける構えをして振り向くと、立っていたのはフィガロとオズだった。

    「良かった。間に合ったみたいだね。全くオズが部屋にいないから時間掛かっちゃったよ」
    「………私が何処にいようと、勝手だろう」
    まさかオズを使って追ってくるとは想定外で、気が抜けて唖然としてしまった
    フィガロは俺の事を責める訳でもなく、ふわりと笑顔を浮かべて手招きをした。
    人を避けながら先を歩いていく姿に連れ帰ろうとしている訳ではないと理解し大人しく後ろをついて歩いた。
    数分歩いて一軒の店の前で足を止める。

    「ここが、さっき話した店だよ。覚悟は……出来てるね」
    決心をしている俺の表情を見て、店の扉に手を掛けた。
    ギィという音と共に扉が開かれると、入る前からここがどうゆう場所かというのが漂ってくる。
    薄暗い店内に足を踏み込むと、少し奥に受付のカウンターが見えた。
    扉が閉まったのを確認して、フィガロがカウンターへと足を進める。店員と何か話しているようだが声は聞こえてこない。
    あまり目立たないように店内を見回しているとフィガロが戻ってきた。

    「オーエンを指名しておいたからね。すぐ呼ばれるよ」
    「!」
    オーエンの事は一言も漏らしていないのに、どうやらお見通しだったようだ。
    オズを連れて外に出ていく姿を見守っていると受付にいた店員に店の奥へと案内された。
    部屋の前で立ち止まり少し下がってお辞儀をされてつられて頭を下げる。
    入口の方へ戻っていくのを確認してドアノブに手を掛けて深呼吸をする。
    息を吐き切った所でノブに掛けた手に力を込めた。

    扉を開けると白い大きなベッドが視界に入る。
    そしてベッドの上に足を伸ばして座りながら壁の絵を眺めながら不機嫌な顔をしているオーエンがいた。

    「オーエン…」

    思わず漏れた声に反応し、こちら向くオーエンと目が合う。
    驚いた表情を浮かべて固まるオーエンにゆっくりと近づき、ベッドの前で足を止める。
    しばらく見つめ合っていたが、先にオーエンが動き魔法で男の姿へと戻り口を開いた
    「お前、何でここに…」
    そう言い終わる前にそっと腕の中に閉じ込めていた
    「カイ…」
    「怖かったんだ。お前が、誰か違う人と関係を持つことが…いても立っても居られなくなった」
    押し黙りながらも抵抗をしないことにほっとして抱きしめる腕に力を込める。
    「自分でも可笑しいと思うよ…目玉を取られた相手に……でも、一緒に過ごす内にオーエンの事ばかり考えるようになった。目が離せなくなった」
    ようやくピクリと肩が動くのを感じながら言葉を続ける
    「誰よりも傍に居たい。お前とずっと一緒に居たい……」
    抱きしめる腕を外して目が合うように身体を離す。
    キュッと口を閉じて不安そうな探るような瞳を見つめながらゆっくりと口を開いた

    「オーエン……お前の事が好きだ」

    沈黙が流れる。
    俺の方を見たり、下を向いたりしながら視線を泳がすオーエンの返答を静かに待つ。
    逃げられないと悟ったのかやっと小さな声を出した

    「…バカじゃないの」
    「うん」
    「何で…僕なんか…」
    「なんか何て言わないでくれ…」
    「だって、騎士様は…」
    「オーエン」

    名前を呼ぶとビクッと肩を揺らして俯きながら再び黙り込む
    「お前の気持ちが知りたい…」
    黙ったまま顔を上げてくれないオーエンに、そっと手を差し出した。
    「好きだと思ってくれたら、手を重ねてくれ。嫌だったらそのままでいい。跳ね除けたっていい。」
    ほんの少し顔を上げて、手をギュッと握りしめていた。
    そうしてゆっくり、ゆっくりと手を伸ばして俺の手に近ずけてゆく。
    跳ね除けられる事も覚悟しながらじっと待つ。
    すると伸ばされた手は跳ね除ける事無く、静かに重ねられた。
    嫌じゃない。その事が嬉しくて、もう片方の手もオーエンの手に重ねて包み込んでしまった。
    パッと顔を上げたオーエンの顔は赤く染まっていた。
    「オーエン…抱きしめてもいいか?」
    「……もう抱きしめただろ」
    「はは、そうだった…」
    泣きそうになるのをグッと堪えながら、もう一度オーエンの身体を両腕で包み込む。
    今度は恐る恐るだけど背中に手を回して答えてくれた。
    その事が嬉しくて、優しく…だけど強く抱きしめた。
    しばらくそうしていたが、どちらからともなく離れた時部屋の外が騒がしくなった。
    微かにミスラ達が呪文を唱える声が聞こえてくる。

    「行かないとな…」
    「……いいよ、やらせておけば」
    「そうゆう訳にもいかないだろ?」

    不貞腐れた顔でそっぽを向いている様子に頬が緩むのを感じる
    髪を撫でるように手を滑らせて、額に触れるだけのキスをした

    「…っ!」
    「またゆっくり…な?」

    納得してくれたのか、恥ずかしいのか…視線を逸らしながら小さく頷いた
    そんなオーエンの手を引いて、加勢をするために部屋の外へと歩いて行った





    後日ーーー

    あの事件の真相は、何年か前にこの店に通っていた客がキャストの女の子にのめり込んだ事が原因だった。勝手に両想いだと思い込んでいて、いざその女の子が他の男性と結婚をする事になったと知り、騙されたと逆恨みをして危害を加えようとした。
    だが寸での所で追い出され、二度と店には入れず女の子と接触も出来なくなった。
    嘆きながらそばにある幻覚を見せる植物が沢山生えている場所に行き、強く恨みながら石になったせいで怨念が残ってしまった。
    その怨念が大いなる厄災の影響で増大して種子を通じて通りがかった客にくっついて、店に入った所で女の子の体に入り込んだ。そして脳を支配して幻覚を見せて誘導した…という事だった。
    ちなみに姿を消した女の子達は植物が生えていた場所の奥にある森の中をさ迷っていた様で、怨念を浄化したら戻ってきた。全員やつれていたが無傷だったらしい────




    「まぁ、よくある話だよね」
    談話室で先日の話をお礼がてらフィガロと賢者様と話していた。確かに原因はありふれた話だったが、全員無事で良かった。
    「にしても、急に飛び出すからビックリしたよ」
    「無我夢中で…」
    俺やフィガロ、オズまであの場にいた理由を賢者様にだけこっそり報告していた。
    (双子は誤魔化したと言ってたが多分気づかれてるだろうな…)
    「振りだけって話さなかったんですか?」
    「……え?」
    首を傾げながらフィガロに問いかける賢者様の言葉に思わず振り向く。
    「話そうとした時にはもう居なかったんだよね。」

    ────「だけどあの任務は、あくまでも振りだけ。怪しい客をこちら側に通してもらって原因を突き止めるだけのつもりだよ。本人が原因で無い可能性が高いから様子を見て魔法で眠っててもらう手筈だからね」────

    「な……じゃ、じゃあ俺は…」
    「まぁ、結果的には良かったんじゃない?OK貰ったんでしょ?」
    フィガロからは揶揄うような笑みを、賢者様からは微笑ましいような笑顔を向けられて、無性に恥ずかしくなり、赤くなってそうな顔を隠すように頭を抱えた。
    「あ、大丈夫ですよ?誰にも言いませんから!」
    勘違いをした賢者様からフォローをされる。
    確かにオーエンは隠したがるだろうが……
    そうだ、あのブレスレットも結局渡すことになるな…

    「お願いします…」
    一度姿勢を正し、改めて頭を下げると、フィガロと賢者様は顔を見合わせながら笑って頷いてくれた。

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