涙の終わり残滓の味営団地下鉄という呼び方は、古い史料にしかもう存在しないだろう。ただし、どの新聞アーカイブを見ても営団地下鉄日比谷線の毒ガス散布事件という呼び方のほうが見出しが大きく載っている。
この路線で、折り重なるように人が死んだのか、と鳴瓢は想いを馳せる。東京メトロ日比谷線霞ヶ関駅では、電車が入線する前のぬるい風が吹いている。 スーツの上着をかかえたまま鳴瓢は北千住行きの電車に乗り込む。平日昼間でも混み具合はそこそこだった。終点までの乗車になるが鳴瓢は立ったまま吊り輪を握る。
足立区某所にて、マンションのタンクに農薬を投入しようとした殺人未遂の件を調査に行く。
毒、というキーワードと日常風景を地獄絵図に変える犯罪という意味で日比谷線の某事件が急に頭に連想されたのかもしれない。
675